氷河期世代は本当に「被害者」なのか?

黒坂岳央です。

「氷河期世代は悲惨」という言葉があちこちで見られる。100社応募しても面接にたどり着けず、30年間のデフレで給料は上がらない。就職してもブラック企業だったり、倒産したりとなかなか厳しい時代だったことは確かに正しい。

自分自身が氷河期世代ド真ん中、おまけにその後遅れて大学を出た就活の入口のタイミングでリーマンショックを食らったので、普通の氷河期世代以上のダメージを受けた立場だ。氷河期ど真ん中を生きた自分の視点から「実際、この世代はどうなのか?」という点について見解を述べたい。

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確かに厳しい時代だった

結論から言えば、氷河期世代は時代の運が悪かったという点については正しいというのが自分の感覚だ。

新卒で就職できなかったので大学院へ進学して景況感の回復の時間稼ぎをしたり、大学を出てフリーターになったりという人は今より多かった。100社応募して面接すらいけない、というのは誇張でもなんでもなく本当の話だ。クラスメートは高校卒業後、大学に進学したが就活は全滅、彼は夏休みにバイトをしていた缶詰工場に就職した。

「どんな時代でも仕事があるように」と親や親戚の勧めで、自分は工業高校の電気科へ進学して電気工事士になるように言われた。しかし、卒業後はその電気関係の仕事もつかめずフリーターになった。長らくコールセンター派遣をやっていたが、そこには30代半ばや40代でコールセンター派遣をする人が多かった。「今、資格の勉強をしていつか正社員になりたい」という人や、「コールセンター派遣を続ければ、いつか正社員へのお声がかかることを期待したい」という人もいた。とにかく「正社員」の背中が今では考えられないほど遠かった時代である。

加えてデフレが非常に長期的に続いたことで、買い物は今より安かった。しかし、就職してもデフレで売価が上げられず、企業の収益率が低い。そのため、とにかく給料が上がらないし、利益を出せずに会社が倒産することも多かった。

人手不足で仕事を選ばなければ、誰でも正社員になれる今とは労働環境はかなり異なる事実はあったのだ。

氷河期の逆風で強くなった

氷河期は厳しい時代だったが、だからこそその逆風で強くなった人や企業もいた。

たとえばトヨタは、バブル崩壊後のデフレ時代でも逆風に負けず世界市場で競争力を維持。コスト削減や効率的な生産体制を追求し、1990年代末からハイブリッド車「プリウス」を発売して高い燃費性能が受けて大ヒットした。

楽天は1990年代末のデフレ期に誕生した企業だ。実店舗の経営が厳しくなる中、デジタル分野にシフトし、消費者の購買習慣がオンラインに移行する中で成功を収めた。

人間も同じだ。手前味噌でおこがましいようだが、自分自身がそうだ。簡単には就職できないからこそ、労働市場で勝てる立ちふるまいを研究し、「ビジネスは徹底的に”採用者側の立場で考える”ことが最重要」という理解にたどり着いてからは、履歴書の通過率は飛躍的に高まり、採用面接で落ちることがなくなった。また、不況時でも高い専門性を持って希少なプロフェッショナル人材になれば仕事に困ることはないと考え、米国会計の専門家としてキャリアを積んでなんとか厳しい就職戦線を勝ち抜くことができた。

自分の場合はあくまで結果論であり、不況の中でも運に恵まれたこともあったが、自分は不況に育てられ、強くなったと思っている。それまでの人生で親や教師、友達から教わったどんな学びよりも、不況で生き残るために頑張った経験は自分を強くした。

不況での達振る舞いがわかれば、いざ景気が良い局面なら正直、イージーゲームである。自分はリーマン・ショック後の就職で大変苦労したが、そこから数年後の転職ではあまりにも簡単にポンポン転職内定がもらえるので「不況と好景気でこんなにも難易度が変わるものなのか」と驚いてしまった。

氷河期世代への反発の声

世の中には氷河期世代への反発の声もある。「いつまでも時代が悪かった!と怨嗟の声を轟かせ、被害者意識が強いのはどうか?」といった意見である。

確かに氷河期といっても30年間ずっと悪かったわけではない。加えて、これだけ長期で時間があればその間に正社員になるためのスキルアップの時間は十分あっただろうし、仕事もえり好みしなければあった。自分が気に入らない仕事でも、一度正社員になって働きながらスキルアップをして前より良い会社に転職をするという方法もあっただろう。そこを踏まえて考えると「人生がうまくいっていないことすべてを時代のせいにしていないか?」と他責思考に対する批判は一定の合理性を持つ。ただ、問題は「自分がその当事者になったら理想の行動ができたか?」と問われると少し答えは違ってくるかも知れない。

自分が派遣で働いていた頃、当時、フリーターブームがあった。正社員に縛られず、働きたいときに自由に働く「これぞ先進的なワークスタイル!」みたいな触れ込みで雑誌で特集されていたりした。

自分と同じ氷河期年代でフリーターの人の中に「時給換算で正社員は割に合わないから、自分はずっとフリーターがいい」という人もいた。だが今ならわかる。この言葉は当時、絶望的に就職できなかったことへの反発から出た酸っぱいブドウなのだと。そう、この人はすでに運命を受け入れていたのだ。

人間には感情があるし、人それぞれストレス耐性への強度も大きく違う。絶望的な空気感が漂う中、頑張った人もいるし、それができなかった人もいる。「努力しなかったのは自己責任ではないか」と言われたら確かにそうだし、自分自身も自責思考でリスクを取って行動したのでなんとかなった。しかし、それができなかった人全員を「自己責任」と一言では片付けられない難しさがあると思うのだ。

当時、カレンダー上のタイミングもあって、まるでこの世の終わりのような終末期の雰囲気があった。確かに人生はどこまでいっても自己責任ではあるものの、あの空気感に身を置いて頑張り続けられるかどうかは、人を選ぶだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。