連邦政府の年度予算は9月末までとなり、10月からは新年度の予算が必要になる。しかし、9月末までに年度予算が可決できている時のほうが少ない。そのため、前年度と同じくらい歳出しましょうと決議する「つなぎ予算(Continuing resolutions, 略語CR)」を9月末までに可決する必要がある。このつなぎ予算の期限は特に決められておらず、その都度、決定されている。
2024年、下院共和党は9月6日につなぎ予算を発表した※1)。
3月28日までのつなぎ予算は、いったん採決日が決まったが中止となった※2)。共和党から可決に必要な票が集まらないと判明し、今週の採決を断念した。採決前の党内協議に入った。また、 ジェフリーズ下院少数党院内総務とシューマー上院院内総務は下院共和党が作成したつなぎ予算案に反対すると宣言した※3)。
ちなみに、上院では高官・判事の承認が続いている。IVF(体外受精)への態度をはっきりさせる見せしめ法案の採決もシューマー上院院内総務は近いうちに予定している※4)。
つなぎ予算に反対する議員と、トランプ氏の呼びかけ
先週、「1990年以降で総選挙が控えている年に政府閉鎖を引き起こしたことはない。それくらい政府閉鎖が起こる可能性は低いと考えてよいだろう」と書いていたが、厄介なことが先週初めに起きた。トランプ共和党大統領候補が、「SAVE ACT」が含まれないつなぎ予算には賛成票を投じないように呼びかけたのだ。
Safeguard American Voter Eligibility Act(通称:SAVE Act)は、既に下院議会で7月に可決しているが、民主党からの票はほぼ入らず強く反対されている。
この法案は1993年全米有権者登録法(National Voter Registration Act/NVRA)を更新することになる。NVRAでは、本人が市民権をもち、投票資格があると宣誓するだけでよい。米50州のうち44州では、この宣誓により有権者登録することが義務付けられている。
SAVE Actは、単なる宣誓だけではなく、連邦選挙の有権者登録時に米国の市民権を証明する書類を提示することを有権者に義務付けることになる。証明書類もREAL IDに準拠した証明書・有効な米国のパスポート・軍歴証明書など明確に定義されることになる。
また、各州の選挙管理組織は、国土安全保障省が管理するSAVEへのアクセスを許可する条項も盛り込まれる。これにより、各州は投票者に市民権があるかを容易に確認できるようになる。
今年7月にもジョンソン下院議長は市民権をもたない米国人の投票がいくつかの州の選挙結果を左右することになったという調査結果を用いて、SAVE Actの可決を呼びかけていた※5)。
民主党からの主な反対理由は市民権をもたない米国人の投票は既に禁じられているのに厳しい義務を入れる必要はないというものだ。公民権活動団体からの反対理由としては、SAVE Actマイノリティ・有色人種コミュニティの投票を妨げるものになるとして民主党議員に反対票を投じるように書簡をだしている※6)。
現在のつなぎ予算に反対している共和党議員
今回は下院共和党議員の中でも、複数のグループが反対しており、10数人ほど反対する議員がいる※7)。ジョンソン下院議長に対決姿勢を示してきたフリーダムコーカスは、下院共和党議会指導部にSAVE ACTをつなぎ予算に盛り込むという要求をのんでもらったので、今のところは静かだ。
① Defense hawks(国防タカ派)
下院軍事委員会委員長のロジャース議員は、「2025年も含まれるつなぎ予算なら、反対する」と発言した※8)。来年もつなぎ予算にするのは国防にとって懸念が多すぎるということだ。
さらに、1月1日までに歳出法案が可決されないと、昨年バイデン政権と共和党下院議員の間で合意したthe Fiscal Responsibility Act of 2023による予算を削減するプロセスが開始し4月30日になってもつなぎ予算ならば削減が行われることになる。オースティン氏は、これにより国防総省は2025年度予算要求から420億ドルを失う可能性があると述べた※9)。
② Fiscal hawks(財政タカ派)
SAVE ACTを支持していないわけではないが、国家債務が35兆ドル以上にまで膨れ上がっていることを理由に反対票を投じると宣言した議員も数名いる。過去1年だけで2兆4500億ドルも急増した債務について懸念を示して、むやみやたらに暫定的に行うつなぎ予算そのものに反対し、予算審議に注力すべきだという議員は共和党内に一定数いる。
③ 共和党穏健派
穏健派議員は、SAVE ACTをつけたつなぎ予算で進めようとしていることに不安を抱いている。多数党になっている上院では決して可決しないからだ。穏健派議員にとっては、政府閉鎖を防いで選挙を無事に乗り切ることが重要なのだろう。
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協議がいつ終わるかまだ見えない状況が続くが、共和党下院指導部は今週中にも採決をしたいと考えているだろう。まだ時間があるので、先週書いた流れ通りに進むのではないかと思われる。
というわけで、いったん下院共和党はSAVE ACTつきの法案を可決して、上院民主党は他のつなぎ予算を可決して一時的には硬直することになるだろう。少しハラハラする展開もあるかもしれないが、総選挙前なので、どちらの党も政府閉鎖を起こす気はない。議会開会の最終日(9月27日)には最終的に可決するだろう。
米議会9/9-14:9月の重要議案は政府閉鎖を防ぐつなぎ予算と農業法案の延長
中国共産党の脅威に対抗する25の法案を下院議会は可決
下院の中国特別委員会モーレナール委員長は「CHINA WEEK」を提唱し、中国共産党による脅威(軍事・経済・イデオロギー・技術)から米国民を守るための重要な法案25本を可決した。
これらの法案は、2023年に下院中国特別委員会が発表したEconomic ReportやTen for Taiwan Reportに基づいたものだ※10)。
主なものを取り上げたい。
◆ BIOSECURE Act(賛成306 反対81)
中国やその他の外国の敵対勢力によって所有、運営、管理されているバイオテクノロジー企業に米国の税金が流れるのを防ぐことを目的とした法案。BGIグループ、MGI Tech、Complete Genomics、WuXi AppTec、WuXi Biologicsが「懸念されるバイオテクノロジー企業」リストに追加される。リストに掲載された対象企業と取引している企業は、連邦政府との契約が禁止される。
上院ではまだ採決されるか決定していないが、すでに上院の国土安全保障・政府問題委員会では3月に同様の法案を委員会で可決させている※11)。総選挙前に上院が投票に持ち込むかは微妙なところだが、上院で採決すれば可決するだろう。
◆ Countering the PRC Malign Influence Fund Authorization Act(賛成351 反対36)
2023年度から2027年度までの会計年度に毎年3億2500万ドルを拠出し、中国共産党の世界的な影響力に対抗するための予算を承認する法案※12)。
◆ Hong Kong Economic and Trade Office(HKETO)Certification Act(賛成413 反対3)
香港の公式代表事務所であるワシントン、ニューヨーク、サンフランシスコの香港経済貿易事務所の業務を事実上終了させる権限を大統領にもたせる。法案を起草したスミス下院議員は、中国共産党が香港の人々に国家安全保障法を課したことにより、米国はもはや香港を自治地域として認めていないため、大統領判断で事務所を閉鎖させることになるとしている※13)。
◆ End Chinese Dominance of Electric Vehicles in America Act(賛成217 反対192)
EV向け税額控除となる車両に含まれる中国製部品に対する強化。中国やその他の国に適用される、いわゆる「懸念される外国の事業体」の定義を厳格化するもの。米国の自動車メーカー向けに使われるEV税額控除を中国企業が利用できないようにするためのもの※14)。
◆ Decoupling from Foreign Adversarial Battery Dependence Act
中国共産党と密接なつながりを持つ以下の6つの中国企業(CATL、BYD 、Envision Energy、EVE Energy、Hithium Energy Storage Technology、 Gotion High-Tech)から、米国土安全保障省がバッテリーを調達することを禁止する法案。すでに米軍では適応されている禁止を国土安全保障省にも課すもの※14)。
◆ Protecting American Agriculture from Foreign Adversaries Act(賛成269 反対149)
対米外国投資委員会(CFISU)を更新し、対米外国投資委員会(CFIUS)の委員に農務長官を加え、農業用地の取引についても審査対象に追加する。外国の敵対勢力による米農地の買い取りを取り締まる法案※15)。
◆ COUNTERING CCP DRONES ACT
中国DJI製のドローン使用を米国内で禁止する法案。同社の新型ドローンは米連邦通信委員会(FCC)の安全保障上の脅威リストに加わり、米国の通信インフラに接続できず、輸入も販売もできなくなる。ただし、すでに米国で運用されているドローンは引き続き利用できる※16)。
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各法案に投じられた賛成票をみると、民主党から100票ほど入っている法案が一定数ある(共和党の現在の議席数は220議席なので、欠席者なしで220票)。
中国に甘いとみられがちな民主党だが、共和党と足並みをそろえる民主党議員は多い。総選挙前ということもあり、この法案を上院が可決するかはシューマー上院院内総務次第ではあるが上院での採決にさえかけられれば可決すると考えたほうがいいだろう。採決スケジュールの決定権をもつシューマー上院院内総務の優先順位次第ではあるが、次の会期(2025-2026年)には可決すると考えておいたほうがよさそうだ。
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※1)House GOP unveils stopgap plan to avert government shutdown CONTINUING APPROPRIATIONS ACT, 2025
※2)Mike Johnson pulls stopgap funding plan over widespread GOP opposition
※3)Jeffries slams House GOP’s government funding plan: ‘Unserious and unacceptable’
※4)Schumer tees up second vote on IVF
※5)TO RESTORE CONFIDENCE IN U.S. ELECTIONS, CONGRESS MUST PASS THE “SAFEGUARD AMERICAN VOTER ELIGIBILTY” (SAVE) ACT
※6)Civil Rights Groups Letter in Opposition to SAVE Act
※7)5 Republican factions to watch in the government funding fight
※8)Defense hawks oppose House GOP’s six-month CR plan
※9)Pentagon chief: Stopgap funding measure would have devastating impact on military
※10)CHINA WEEK RECAP: Congress Passes 25 Bills to Combat Chinese Communist Party Threats
※11)Senate panel advances bill to ban some Chinese biotechs, with Sen. Paul taking up industry’s cause
※12)House Passes Rep. Andy Barr’s Bill to Combat Chinese Communist Party’s Global Influence
※13)House overwhelmingly passes Smith’s bill to rescind the immunities and privileges of Hong Kong diplomatic outposts that do the bidding of the Chinese Communist Party within the U.S.
※14)Miller’s End Chinese Dominance of Electric Vehicles in America Act of 2024 Passes the House of Representatives
※15)Protecting American Agriculture from Foreign Adversaries Act passes House of Representatives
※16)US House Approves DJI Drone Ban Bill