今年夏、英ロックバンド「オアシス」が、15年ぶりに再結成されるというニュースが報道されました。
オアシス、知っていますか?1990年代に人気絶頂となったバンドの代表作は、「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」や「ホワットエヴァー」などです。
伝説的なバンドの活動再開とあって、英メディアは一時、オアシスの報道でいっぱいになりました。ところが英国とアイルランドで開催されるコンサートのチケット争奪戦が発生し、非公式な転売行為や需要によって価格が変動する「ダイナミック・プライシング」(Dynamic pricing)などのせいで、驚くほど高額なチケットが販売されることになってしまい、大きな問題となりました。
オアシスとは
1991年、イングランド北西部マンチェスターで活動を開始したオアシスは、ボーカルのリアムとその兄でギター、作詞作曲を担当するノエルのギャラガー兄弟が中心となったバンドです。
1990年代、「クール・ブリタニア」という言葉が流行したことを覚えていますか?これは愛国歌「ルール・ブリタニア」をもじった表現ですが、若い世代による音楽、ファッション、アートなどの文化が世界中に大きなインパクトを与えるようになり、メディアは「格好いい英国」といった意味でこの言葉を使いました。当時、その「クールな」英国のバンドと目されたのがオアシスです。
1997年に弱冠43歳のトニー・ブレア労働党党首による新政権が発足すると、おオアシスは官邸での就任パーティーに招かれました。このときのブレア首相とノエルが握手をする構図の写真はまさにこの時代を体現するものでした。
再結成へ
2009年の解散後、再結成までに長い時間がかかったのは、ギャラガー兄弟の不仲が原因だったといわれていますよね。
今年8月27日、ファンが待ちに待った再結成が発表されました。来年夏の英国とアイルランドでのツアー日程が発表され、チケットの販売が始まったのですが、ここで大きな問題が発生します。
まず、ファン先行の抽選応募を開始したところ、すぐに複数の転売サイトで既定価格の何倍もの値段で売りに出されました。オアシスは主催者側と紐付けされていない転売サイトにチケットを売らないように、このようなチケットは会場でキャンセルされると警告しましたが、争奪戦を鎮めることはできませんでした。
通常販売では、チケット販売大手「チケットマスター」のサイトから購入する形になっていましたが、圧倒的な数のファンがサイトに殺到したため、最初にアクセスした時点から購入までにかなりの待ち時間が生じてしまい、当初提示されたチケット価格から数倍高い価格を購入時に提示されることになったのです。
例えば、サイトにアクセスして、148ポンド(約2万5000円)のチケットを買おうとしたとしましょう。アクセスが莫大になったため、なかなか先に進めません。3時間後、自分が購入する番が回ってくるまでに350ポンド(約6万5000円)を超えた場合もあったそうです。
これは、チケットの需要が高まると、それに合わせて価格が上がるダイナミック・プライシング、つまり変動価格制が適用されたためのようです。
この仕組みはホテルや航空便を予約するときなどにも導入されていますが、今回は需要が急増し、リアルタイムで価格が急上昇してしまったのです。これを見て、オアシスは追加公演の日程を発表することになりました。
混乱状態を見て、9月5日に英競争・市場庁(CMA)はこのチケット販売に関して調査を始めると発表しました。需要に応じて価格が変動すること自体は違法ではありませんが、購入を検討する人に価格に関する情報が十分に明示されていなかったとすると、消費者保護法に違反した可能性があるのです。
チケットマスターが消費者保護規則に反する行為に従事しなかったかどうか、買い手が事前に十分な情報を与えられていたか、高額のチケットを買うように圧力を受けなかったかどうか、などが調査の焦点になっています。
消費者保護組織「Which」はアーティストが認定する公式サイトからチケットを買うようにすること、ソーシャル・メディア上でのチケットの売買オファーには警戒することなどと警告しています。
9月30日、オアシスは来年夏の米国、カナダ、メキシコでのコンサートのチケットにはダイナミック・プライシングを使わないと発表しています。
Dynamic pricing(ダイナミック・プライシング)
変動価格制。売り手が物品やサービスの価格を需要に応じて変更させる仕組み。「サージ・プライシング」も同様で、配車サービスのアプリ「uber」などもリアルタイムで変わる仕組みを導入。人気のあるコンサートのチケットは、変動価格制に加え主催者指定以外のサイトなどで転売されることによる価格高騰化が問題視されている。
※「英国ニュースダイジェスト」掲載の筆者コラムに補足しました。
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編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2024年10月26日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。