「地方創生」における高齢者の役割(下)

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「統計トピックス」からのまとめ

前回(10月29日)の役割理論による高齢者の位置づけを受けて、ここでは健康と要介護ではなく、特に「高齢者の就業」についての動向とそこから想定される「地方創生」への参加の問題をまとめておこう。

(前回:「地方創生」における高齢者の役割(上)

「統計トピックス」から得た表1「高齢化関連の新記録」のうち、就業率に関しては

7.高齢者就業者は914万人となり、20年連続で増加して、比較可能な1968年以降で過去最多を更新した。

図5はこの10年間の推移であるが、高齢の男女ともに就業率は着実に上がってきた。一つは制度的に60歳定年や65歳定年制度が普及したこと、およびその後の「再雇用」が多様な形ではあれ現実化したことが大きい。

同時に高齢者を取り巻く経済的事情が年金だけでは暮らしを支えられなくなってきたからでもある。円安その他で諸物価が高騰してきたが、年金の増額がこれに合致していないから、結局は毎月いくらかでも稼ぎたいという動機づけを強めるからである。

男女ともに就業者は10年間で1.5倍前後の伸びを示している。

図5 高齢就業者の推移
出典:総務省報道資料「統計からみた我が国の高齢者」(2024年9月15日発表)

8.15歳以上の就業者総数に占める働く高齢者の比率は13.5%で、2023年より0.1%下がった。

9.高齢者の就業率(65歳以上人口に占める就業者者の割合)は25.2%であり、前年と同率を維持した。

図5によれば、この10年間の60~64歳の就業率は58.9%から74.0%へと15%余り増加した。これは高齢者雇用に関する制度的な変更が功を奏したといってよい。

10.年齢別の就業率は、60~64歳は74%、65~69歳は52.0%、70~74歳では34.0%、そして75歳以上(後期高齢者)でも11.4%となり、いずれも過去最高になった。

11. 高齢就業者で被雇用者543万人のうち、非正規雇用は417万人(76.4%)であり、被雇用者全体の52.7%が「パート・アルバイト」であった。

図6 高齢者就業率の推移
出典:図5と同じ。

制度設計の変更と高齢者意識の変容

とりわけ、60~64歳の就業率は74%になり、その年代層の3/4を占めている。また、70~74歳でさえも34.0%になり、3割を超えている。

このような高齢者就業率の持続的増加の背景には、出生数の漸減にともなう子ども実数の減少が若年労働者の減少につながること、それを代替できる年齢層として、定年退職後の60歳代高齢男女並びに70歳前半の高齢者が期待されるようになったことが指摘できる。

そして遅ればせながら、2024年9月13日に岸田前内閣で閣議決定された「高齢社会対策大綱」でも、「年齢によって、『支える側』と『支えられる側』を画することは実態に合わない」(:1)としたように、政府による制度設計がそれに対応してきた事情があげられる。

12. 会社役員が11.6%、自営業、家族従業者などの合計が28.4%、役員を除く被雇用者が60.0%を占めた。

生きるよろこび

「高齢社会対策大綱」では、65歳以上の就業者の伸びが20年間連続で続いていること、ならびに60歳以上のうち約9割が高齢期にも就業意欲が高いことを強調している」(:3)。

この就業はもちろん高齢者自身の「生きるよろこび」に直結する。それは「生きがい」として、高齢者の日々の暮らしを支える注5)

生きがい研究の成果

20年間に及ぶ「生きがい」についての比較調査研究によって確認できた私なりの暫定的結論は、以下の通りである(金子、2014)。

  1. 「生きるよろこび」の軸は個人の生活・生存・維持、およびその個人的目的の遂行過程と達成を喜ぶ心情にある。
  2. 高齢者の生きがいは他者から与えられるものではないが、日本には中央政府や自治体による高齢者の生きがい対策があり、条件整備を整えようとするこれらの政策努力は受け入れる。
  3. 宗教心が強い社会や個人では、信仰そのものが「生きるよろこび」となるが、日本の高齢者では極端に少ない。
  4. 宗教的背景が乏しい日本の高齢者は、就業など世俗的な日常生活において自力で生きがいを得ようとする。

「生きがい」の手段性と表出性

  1. 時代の特性としての多様性を受け入れた社会的価値に照らして、日本の高齢者は「生きるよろこび」の下位領域として手段性(instrumental)を重視して、「生きるはりあい」、「自己実現」、「アイデンティティ」などを求める。
  2. 加えて、「生きるよろこび」の復活には、表出性(expressive)に富む自己肯定的な社会活動への参加、家族との交流、健康づくり、友人交際、趣味娯楽活動、得意分野の継続が有効である注6)
  3. 「生きるよろこび」は日常的な自己の評価と未来を遠望した際の自己評価との一致度で得られる。
  4. 日常的肯定としての高齢者の「生きるよろこび」は、active aging、positive aging、productive agingなどの類似概念に接合可能である注7)

これら8項目の理解から、生きがいを「生きるよろこび」とだけ定義して、「ひとは自分が何かにむかって前進していると感じられるときにのみ、その努力や苦しみをも目標への道標として、生命の発展の感じとしてうけとめる」(神谷、1966:22)とする観点を堅持しておきたい。

高齢者の社会貢献

定年退職した高齢者世代は年金暮らしを余儀なくさせられる。しかし同時に、その人生で蓄積されたノウハウは、実は隠れた価値の高い遊休資産でもあり、この社会的な有効活用の途を開き、「地方創生」事業のような社会貢献活動にも転用できる注8)

もちろんいざ年金受給者となってみると、社会貢献の意欲はあっても、具体的に何をどうしたらいいのか見当がつかないというのが多くの高齢者の実感である。

かりに社会貢献活動を行うとすれば、長年にわたる仕事の経験と磨きあげてきた能力を活かせるテーマに取り組みたい。農林水産業、商業、教育、観光などを基盤とした「地方創生」事業では、高齢者がもつノウハウは有益なことが多いはずである。しかもそれが本人の「生きがい」につながる可能性をもつとすれば、なおさらのことである。

神谷美恵子の「生きがい」定義

そこで「生きがい」の考察に移るが、経験的にみても「生きがい」にはいろいろな要素が絡み合っているので、おそらく一元的には規定できない。

神谷が指摘するように、「生の内容がゆたかに充実している感じ」(神谷、前掲書:21)が「生きがい」の重要な側面であり、「はっきりと未来にむかう心の姿勢」(同右:25)もまた不可欠であるとだけいって、それ以上の深堀りは止めておこう。

全ての世代が「生きるよろこび」をもつ

本来「生きがい」とは全ての世代に求められる「生きるよろこび」なのであり、したがって職業の有無や健康状態を超えて存在するはずである。

ところが、日本社会では「生きがい」という言葉を特に高齢者に結びつけて使うことに対して、何の違和感もない。むしろこのような問題の立て方そのものに、日本の高齢者福祉行政の特徴があったといってよい。

『老人』と『障害者』の同一視は解消されたか

しかしほとんどの場合、そこでの高齢者は「生きがい」援助の対象であり、周りからの支援を必要とするとして位置づけられてきた。要するに、高齢者は受け身の存在としてのいわゆる高齢者神話が該当するものとして認識識されて久しかった。

このステレオタイプの認識の延長線上に、「『老人』と『障害者』の同一視」(Palmore,1990=1995:178)を読み取ることは容易である。

光源としての高齢者

しかし、受け身どころか積極的な人生の実践者としての高齢者も多い。日本全国のたくさんの高齢者とインタビューしてライフヒストリーを把握する一方で、調査票による大量観察をして一番感じられたのは、自分をロウソクの光源としてみると、この光は近くを最も強く照らし出し、遠くにいくほど弱くなるとのべられる高齢者が多かったことである(金子、2014)。

この場合もっとも身近なものはもちろん家族である。ところが、徐々に家族と同居できない高齢者が増えてきた。身近なロウソクとして輝き続けたくても、受皿としての家族規模が小さいか、家族とともに住んでいなければ、せっかくの光源が生かされない。

近隣が高齢者の支えになる

ただ、このような事情でも、光源は消えずに、家族を超えて近隣や地域社会に届いていることは指摘しておきたい。町内会や小学校区などいわゆる狭い意味でのコミュニティがその光の届く範囲になる。

一人の高齢者にとって、家族と地域社会とは機能的には補い合う関係なのである。一人暮らしの人は一人ぼっちではなく、地域社会の中で支えられている。

ストリングスがストレングスの源

私は都市高齢者の生きがいを社会参加、友人交際、趣味娯楽、家族交流に大別してきた(金子、1993)。調査経験を基にしてどれか一つの「生きがい」要因にこだわっていると、そこから二つ目の「生きがい」要因も見えてくることが多かった。

要するに、「人は体験と人間関係に反応して、引き続き学び、変わり続ける」(Butler,1975=1991:469)のである。ストリングスがストレングスの源であることは複数の都市調査で発見された命題である(金子、2006:80-103)。

図7はエンパワーメント論を応用して、「高齢者の自立志向」の計量的研究から得たモデルである。最大の特徴は、生きがいと相関する「趣味」から別の独立した次元として「得意」を抽出できたところにある。

40年以上にわたる職業経験で培われた高齢者が保持する「得意」を「地方創生」事業でも活かして、そこにまた「生きがい」の源泉を見つけてもらうという期待を、新しくスタートアップする事業に込めておきたい。

図7  高齢者の自立志向
出典:金子、2006:94

多世代間の共生の主役は高齢者

個人の「生きがい」追求と多世代間の共生をめざすことは、「少子化する高齢社会」が進行する21世紀における日本社会の目標の一つである。

岸田前内閣による『高齢社会対策大綱』でも、「年代を越えて、地域において共に生き、共に支え合う社会の構築に向けて、幅広い世代の参画の下で地域社会づくりを行える環境」(:5)の重要性が謳われている。

職業歴が長い高齢者は三種類のCIを体現している

前々回の「地方創生」(10月20日)論の末尾で、地方創生では三種類のCIを意識しておきたいとまとめた。

それらは「コミュニティ・アイデンティティ」、「コミュニティ・イノベーション」、「コミュニティ・インダストリー」であり、その地方や地域社会に根ざした資源を活用して製造して、販売まで念頭に置いた産業活動と整理した(金子、2024c)。

本稿でのべてきたように、この担い手としてその「まち」に長く居住してきた「ひと」である高齢者が措定される。

「産官学金労言」分野ごとに高齢者プールを用意する

10月4日に行われた石破首相の「所信表明演説」での地方創生の「主体」は「産官学金労言」であったが、全国1800の自治体の現状では、この6分野から現職の専門家がすべてそろうとは限らない。むしろかなり少ないと見て対応せざるをえないであろう。

そこで「産官学金労言」のすべてで、そこでの職業歴が長かった定年退職者のうちから、「地方創生」事業に関心をもつ高齢者プールを自治体ごとに用意しておきたい。

このOB・OGのグループと現職のコラボレーションが、第2期の「地方創生」元年である2025年の課題であり、これにより地方創生事業のための「ひと」不足からは解放されるはずである。

「地方創生委員会」への高齢者の参加

特に人材が不足しがちな地方の町村や小都市では、それまでの数十年間の職業経験を活かして「地方創生委員会」に「得意」をもった高齢者の参加が期待される。

その意味では「地方創生委員会」のテーマは、図8にまとめられた「農業・漁業」、「産業・商業活動」、「まちづくり・観光」、「環境・エネルギー」、「学校・教育・情報」に限定した試みを当初の3年では優先してはどうだろうか。

「所信表明演説」での「産官学金労言」とは異なるが、竹本が収集した地方創生事例を点検すると、4者の「主体」の立場に応じて、この5つのテーマがふさわしいと考えられる。なぜなら、これら「農業・漁業」、「産業・商業活動」、「まちづくり・観光」、「環境・エネルギー」、「学校・教育・情報」では、地元にも長年職業としてきた高齢者層が堆積しているからである。

そこから適切なキャリアの高齢者を選び、「地方創生委員」として参加してもらえれば、「まち、ひと、しごと」のうちの「ひと」不足の解消になるはずである。しかも、参加した高齢者委員はその過程で「生きがい」を感じることができる。

図8 地方創生の主体と事業内容
出典:竹本、2016

「得意」により自分を活かす

そこへのOB・OGの参加者は、「得意」によって「自分を活かす」ことが出来て、それが同時に本人の「生きるよろこび」になり、同時に「地域創生」事業への貢献にもなりえる。

これは高齢化理論の主流である「社会的離脱理論とは裏腹に、年をとるほど社会的活動の重要性が増す」(フリーダン、1993=1995:84)ので、就業の有無に関わらずに、高齢者個人のライフスタイルの多様性も広げることにも直結する。

生きがいを得るための10ヶ条

私のいくつかの研究でも、以下のような分類を試みている。ボランティア活動を含む役割活動から、生きがいを得るための条件を10ヶ条に整理したことがある(金子、1997:46)。

すなわち①誰かに必要とされる、②生きるよろこびは緊張を伴う真剣さから得られる、③まずは一つの役割活動から始める、④好奇心をどこに感じるかを自分で決める、⑤自己実現かコミュニケーションかを選択する、⑥夢中になれるものがあるかを問いかける、⑦自分の引き出しをたくさんもっているかを自問する、⑧家族、近隣、友人、緊急通報システムのうち、安心感を何で得るかを考えておく、⑨人生の再出発では、男は内(厨房)に、女は外(街)にからが大原則である、⑩働かない自由=新有閑階級の存在も認める。

これらの条件のうち、⑩以外では、とりあえずは「地方創生」に積極的な関心をもってもらい、それに好奇心が刺激される事業対象のなかに自分の役割が発見できれば、生きるよろこびが強まり、安心感も得られる。

未曽有の高齢化率30%台が20年間は確実に続く時代に突入した現在、以上のような高齢者の価値意識、ライフスタイル、ライフヒストリー、「得意」などへの配慮もまた、「まち、ひと、しごと」の「地方創生」分野において積極的に行い、総力を挙げて先行き不透明な時代に対処していきたい。

注5)私なりの「高齢者の生きがい」研究は金子(1993)で開始して、最終的には金子(2014)でまとめている。
注6)instrumentalは道具的で手段的な特性を示し、expressiveとは表出的で自己顕示的な特性を表わすパーソンズ(1951=1974)の用語である。
注7)これらの概念規定については金子(2019:248-251)に詳しい。
注8)金子(2014)では、質的調査の事例として、テーマごとに数名の高齢者インタビューによる「ライフヒストリーの記録を掲載した。「信仰と趣味が生きる張り合い」4人、「加齢を楽しむ」3人、「多忙な毎日は健康から」4人、「家族が人生の支え」7人の貴重な記録である。

【参照文献】

  • Bellah,R.N.et.al.,1985,Habits of the Heart: individualism and Commitment in American Life ,University of California Press.(=1991 島薗進・中村圭志訳『心の習慣』みすず書房).
  • Butler,R.1976, Why Survive? - Being Old in America, Harper & Row,Publishers,Inc.(=1991、内薗耕二監訳『老後はなぜ悲劇なのか?』メヂカルフレンド社
  • Friedan,B.,1993,The Fountain of Age, Curtis Brown Ltd.(=1995 山本博子・寺澤恵美子訳『老いの泉』(上下)西村書店).
  • 閣議決定,2024,『経済財政運営と改革の基本方針2024』(6月21日).
  • 閣議決定,2024,『高齢社会対策大綱』(2024年9月13日).
  • 加藤雅俊,2024,『スタートアップとは何か』岩波書店.
  • 神谷美恵子,1966,『生きがいについて』みすず書房.
  • 金子勇,1993,『都市高齢社会と地域福祉』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,1997,『地域福祉社会学』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2006,『社会調査から見た少子高齢社会』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2011,『コミュニティの創造的探求』新曜社.
  • 金子勇,2014,『日本のアクティブエイジング』北海道大学出版会.
  • 金子勇,2016,『日本の子育て共同参画社会』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2019,『少子化する高齢社会』の構造と課題 金子勇編『変動のマクロ社会学』ミネルヴァ書房:245-290.
  • 金子勇,2020a,『ことわざ比較の文化社会学』北海道大学出版会.
  • 金子勇,2020b,『「抜け殻家族」が生む児童虐待』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2023,『社会資本主義』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2024a,「『世代と人口』からの時代認識」金子勇編『世代と人口』ミネルヴァ書房:1-71.
  • 金子勇,2024b,「骨太の方針2024(全世代型社会保障の構築)がもつ普遍性と限界」アゴラ言論プラットフォーム(7月28日).
  • 金子勇,2024c,「『地方創生』の積み上げで時代を動かそう」アゴラ言論プラットフォーム(10月20日).
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  • 尾高邦雄,1981,『産業社会学講義』岩波書店.
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  • Parsons,T.,1951,The Social System,The Free Press.(=1974 佐藤勉訳『社会体系論』青木書店).
  • 篠原卓也,2024,「国民負担率 今年度低下の見込み-高齢化を背景に、長期的に欧州諸国との差は縮小」ニッセイ基礎研究所(2月22日)
  • 総務省統計局,2024,『2024社会生活統計指標 都道府県の指標』同統計局.
  • 竹本昌史,2016,『地方創生まちづくり大事典』国書刊行会.
  • 富永健一,1996,『近代化の理論』講談社.