躓いた前任を否定してこそ勝てるのに

トランプが米国大統領に返り咲いた。接戦7州すべてを制し、300人を超える選挙人を獲得する圧勝だ(7日午前の時点でネバダ・アリゾナは未確定)。上下両院とも共和党が過半数を制するのは確実で、「トリプルレッド」の下でバイデン政治の一層が進められるだろう。

現時点での一般得票数はトランプ72.5百万票、ハリス67.8百万票である。16年の得票数はトランプ63.1百万票対ヒラリー65.9百万票、20年はトランプ74.2百万票対バイデン81.3百万票だった。トランプは3度目にして漸く一般投票数で民主党候補を上回った。

トランプ氏SNSより

最終の数字はまだ出ていないが、トランプの得票は3%程度の減少である一方、ハリスの得票がバイデンのそれより14百万票、率にして17%も減っている。16年からの両党候補の得票を見るにつけ、バイデンの81.3百万票だけが異様に突出している理由の解明が待たれる。

11月3日の拙稿「米大統領選の投票日が来る」に、筆者はトランプが勝つ理由を様々書いた。が、一つだけを挙げるなら、「政権の座にいた4年間を含めた8年間トランプがずっと米国民が知っている通りの彼である」ことに尽きる。

米大統領選の投票日が来る
米大統領選の投票日は憲法で11月の最初の月曜日の後の火曜日と定められている。持って回った表現だが、これには日本とは異なる米国社会の特徴が現れている。その一つは宗教であり他はその広い国土だ。日曜は礼拝の日、翌月曜も馬車での移動日として考慮せね...

ハリスの敗因はバイデン政権の「米国史上最も人気も実力もない副大統領との評価だったこと」。彼女にとって「最も痛いのは、経済であれ不法移民であれ国際情勢であれ」、バイデン政権の4年間が「トランプ政権時代と比べて良くなったと思うか、という質問をされることだ」った。

予備選を勝ち抜いてきた現職大統領の政権担当能力の欠如が選挙本番の4ヵ月に露見したのである。が、民主党幹部が慌ててハリスに挿げ替えたのは間違いだった。例え1ヵ月間でもミニ予備選の討論をやり、バイデン政権の躓きを否定できる候補を立てるべきだったのだ。

副大統領にそれが出来る訳がないことは、筆者も本欄で何度か指摘した。翻って我が石破政権はどうか。長年にわたり自民党内で党内野党を謳歌してきた石破氏に国民が期待したのは、まさに岸田政権が躓いた原因を取り除くことだったことではなかったか。

岸田氏の躓きは、8月の拙稿「懺悔なしでの岸田不出馬は『責任の放棄』」で指摘した、2年前の9月の「旧統一教会」と自民党の問題、LGBT法の推進、そして昨年来の「不記載問題」の3つで岸田氏がハンドリングを誤ったことである。

懺悔なしでの岸田不出馬は「責任の放棄」
岸田の突然の総裁選不出馬会見は、議員不在の盆休みの間隙を突いた。それは6月の拙稿「辞める前に岸田総理が『しなければならない』3つの懺悔」で書いた3つの愚策と同工異曲の思い付きの独断で、会見内容とは裏腹にこの人物が何も判っていないこと...

特に「不記載問題」で岸田氏は、「還流金を私的流用したかの様に印象操作する『裏金』という語を使うメディアや野党に抗議もせずに放置した結果、検察が「不起訴」にした経緯やその意味を知らない有権者が世間に溢れてしまった」(拙稿「岸・石が崩した自民党という砂山」)。

バイデン政権の副大統領と違い、政権と距離を置いていた党内野党の石破氏こそは、この「裏金」のレッテルを剥がすのに最も適した存在だったのではなかったか。日本国のために自民党が必要だ、と信じるならやれるはずだ。が、彼は却ってそれを争点に蒸し返す愚を犯した。

よろず人事異動の理由は大きく二つ。一つは、問題のある前任者の首を挿げ替えて体制を立て直すことであり、他の一つは、抜擢した後任を育てることだ。ハリスや石破氏が後任に指名された理由が前者であることは、前任の不支持状況からも明らかだった。

斯くて、単独過半数を持っていた自民党は200に届かない大敗を喫した。このままでは来年夏の参院選でも議席を減らすことだろう。米国民は対立党とメディアに叩かれたにも関わらずトランプの実績に掛けた。筆者が期待する高市氏や萩生田氏を外したのも似た勢力である。

ハリスは今朝、潔く敗北宣言しトランプに祝意を示した。それに比べて石破氏の体たらくは何としたことか。先ずは辞意を表明し、必要な予算編成などが済んだら降りると宣言することだ。合わせてその時は、岸田氏がしなかった「懺悔」、即ち「裏金」の払拭が必須である。

トランプと電話で話したと会見で述べた石破氏は、防衛費増額について問われ「日米同盟を高い次元に引き上げる」と述べた。が、「我が国の真の独立に必要な主張はしてゆく」と即座に答えられない辺り、「日米地位協定改定」が彼の身に染みた政策でないと知れる。両国の国益に適えば受け入れるし、相手の話をよく聞くのがトランプである。