士業の開業時に揃えるべき設備、判断の基準は?(横須賀 輝尚)

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大企業に勤めていても副業が推奨される今、起業に興味を持つ人は増えています。そんな中、常に注目されているのが資格の取得。すでに資格を持っている人はもちろん、資格を取って独立したい人や資格に興味がある人に必読のQ&Aを、経営コンサルタントで士業(特定行政書士)でもある横須賀輝尚氏の著書『資格起業バイブル』から、再構成してお届けします。

現役の士業でも、手書きでやっている事務所は少なくない

Q:プロになる以上、業務用ソフトは完璧に揃えたいのですが、資金が足りません。

行政書士の資格を取りました。開業のため、準備を進めていますが業務ソフトをどう考えたらよいのか悩んでいます。10万円以上を超える業務用ソフトもあり、とても全部そろえられそうにありません。どこまでそろえればよいのでしょうか?

士業の商品は基本的に「書類」になります。この書類という商品には2つの品質側面があり、ひとつは「許可が下りる」「補正がない」などという内容的な質、そしてもうひとつが「書類の見栄え」です。

士業としてプロフェッショナルな仕事をするということは、内容ももちろんのこと見た目にも気を配る必要があります。書類の体裁にも2つの品質的側面があり、ひとつが「手書き」か「パソコンなどによる機械印字」なのかという点と、もうひとつが紙そのものの質です。

たとえば行政書士が許認可などの書類をつくる場合には、パソコンで業務用のソフトを使用して書類をデータ上でつくり、プリンタで印刷して書類をつくるという方法が一般的です。この業務ソフトがなかなか高額で、売上の目処が立っていない新人には厳しい金額なのです。

もっとも、設備投資という意味では、こういった業務用ソフトも含めて創業資金と考えるのがビジネスでは当たり前と見ることもできます。ですから、「ソフトが高くて困っている」という悩みは、ビジネス上級者から見れば甘えに見えるかもしれません。しかし、私自身もお金がないところから始めたので、気持ちはよくわかります。では、業務用ソフトは本当に必須なのでしょうか。

まず前提として、現役士業の100パーセントが業務用ソフトを完備しているかというと、そうとは言い切れません。60歳を超える人たちも現役で働いている世界ですから、時代背景などから鑑みてもこの年代では少なからずパソコンが得意でない人たちがいます。そのため、2012年現在でも手書きで書類をつくっている士業はいるのです。

顧客にとっては書類の美しさよりも「許可が通るかどうか」「申告が無事に終えられるかどうか」が最重要ポイントなので、たとえば値段が安ければ手書きでも何でもよいというお客様は決して少なくないのです。

私自身も初めて宅建業許可の変更届の仕事をしたときはワープロ印字ではありませんでした。手書きで書類をつくってお客様に押印をいただいたりしましたが、手書きだから値下げを要求されたとか、依頼を断られたということは一度もありません。

実際に株式会社の経営者になって税理士に仕事を頼むようになって、税理士がつくった手書きの書類や届出に押印する機会があっても、「こういうものか」としか感じません。ですから、「手書きで申し訳ありません」というようなネタばらしを自分からしない限り、意外とお客様は気にしないものです。

ただ、だからといって手書きでつくった書類に比べれば、業務ソフトを使ってワープロ印字をしたほうが書類としては美しいので、早目に導入したいものです。

会計ソフトのような日常的に使うものや顧客メリットがあるものは購入する

税理士の会計ソフトのように、最低限必要なソフトは入れる。最初はこれでかまわないでしょう。そのほか、書類をつくるにあたってすべての業務にソフトが必要なわけではありませんので、ワードやエクセルなどで代用できるものは代用しましょう。契約書や内容証明、登記書類などはワードでも十分つくることができます。

ただし、できる限り導入したいのが、行政書士や司法書が取り扱う「電子定款」のような、顧客にメリットがあるソフト類です。

電子定款とは、これまで紙で作成していた書類を電子データで作成するもので、印紙代の4万円が不要になります。つまり、この電子定款を導入することでお客様は4万円分のコストを抑えることができます。

このような顧客メリットがあるものは、業務として取り扱う予定があるなら導入したいものです。「お客様には不利益になるけど、うちの事務所はお金がないから……」という気持ちはわかりますが、プロフェッショナルとしては看過できません。こういったソフトを入れることによって、顧客メリットがある業務を事務所のラインナップに入れるならば、それは必要経費として迷わず導入すべきです。

行政書士なら仕事を受けるごとに購入しよう

業務ソフトの種類でいえば、一番多くのソフトが必要になるのはやはり行政書士でしょう。行政書士になると毎月会報が行政書士会から送られてきますが、巻末には建設業や産廃業などの数多くの業務用ソフトが紹介されています。

司法書士なら登記、税理士なら会計などと業務範囲がある程度決まっている士業では、それほど頭を悩ませることもありませんが、行政書士ではすべてそろえようと考えたら100万円では足りません。

では、どのようにそろえればよいかというと、「その仕事を受けるごとに検討し、今後もその業務を取り扱うなら購入する」というのがもっとも効率的でしょう。

たとえば、建設業の新規許可の依頼を受けて、今後も取り扱うなら建設業許可に関する業務用ソフトを購入します。依頼を受ければ報酬もいただけるので、よいタイミングです。一度に購入すると資金的負担も大きいので、少しずつ購入していくのがよいでしょう。

ところで、最後に書類の紙品質については、無頓着な士業が多いといえます。廉価なコピー用紙を使用する方も多いですが、プロとしては紙の品質にも少しこだわりを持ちたいところです。安いコピー用紙などを使用すると紙の劣化も早く、長期間にわたる契約では契約書も長期保存になるため、保存に適した書類を使ってお客様に渡すなどと気をつかいたいものです。

もちろん、お客様から見たら紙の品質の違いまでは気づきません。しかし、お客様に気づかれないところまで細部に魂を込めて仕事をするのがプロの仕事ではないでしょうか。ぜひあなたも開業した際は、こういうところまで気づく士業になってもらいたいものです。

横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年9月19日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。