ドイツ東部のテューリンゲン州で「キリスト教民主同盟」(CDU)、「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」(BSW)、そして社会民主党(SPD)の3党党首は22日、連立政権を樹立することで合意したと発表した。各党内で承認を得れれば、BSWが初めて政権入りする3党連立政権が発足する。
ただし、3党連立では、CDUが23議席、BSWが15議席、そしてSPD6議席で計44議席だ。同州議会の定数は88議席だから、3党連立政権は過半数を有する安定政権とはいえない。
独メディアはCDU、BSW、SPDの3党連立を「黒・紫・赤」連合と呼んでいる。3党は現在、政府組閣に向けて準備を進めており、早ければ12月にもテューリンゲンCDU党首のマリオ・フォイト氏が州首相に選出される予定だ。ただし、最後の障害は、各党の党員による連立協定への承認だ。フォイト党首は「合意した協定は新しい行動可能な連立だ」と指摘し、「共に責任を担い、我々の州を前進させる」と説明している。
ドイツ通信(DPA)によると、3党の連立交渉で難航したのはテーマは米軍の長距離および極超音速ミサイルの配備計画についてだ。BSWが「ドイツの関与なしでの配備」に批判的で交渉が一時暗礁に乗り出す危険性があったという。連立協定文の中で「テューリンゲン州の多くの国民は米国のミサイル配備計画に懸念している」と記述されている。ちなみに、バイデン米政権は7月10日、2026年から対空ミサイルや巡航ミサイル「トマホーク」、開発中の極超音速ミサイルなどをドイツに配備する方針を発表している。
一方、CDUのフォイト党首は亡命申請者の受け入れ削除を重視し、「亡命申請を却下された移民を自治体に分配することはしない」と強調している。126ページに及ぶこの文書では、3党は「移民政策の方向転換」を求め、「州外国人局」の設立を発表している。この局は、受け入れ、職業資格の承認、統合、送還を統括する。
「保護の理由がない者、身元を偽る者、あるいは規則を守らない者、特に犯罪を犯した者は、再び我が国を離れなければならない」と連立協定には記されている。また、欧州連合(EU)の亡命政策改革を支持し、「将来性のある滞在資格を持つ者のみが加盟国に移送されるべきだ」と明記されている。
9月1日に実施されたテューリンゲン州議会選では極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が2013年の結党以来、州レベルの選挙で初めて第1党に躍進した。AfDの大躍進について、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は「ドイツの政治的激震」と表現した(「AfD、テューリンゲン州で第1党に」(2024年9月3日参考)。
テューリンンゲン州議会でトップとなったAfDのヘッケ党筆頭候補者は「歴史的な出来事だ。国民は変化を求めていることが明らかになった」と勝利宣言し、州首相就任に意欲を見せていたが、他の政党がAfDとの連立を拒否したために、政権を組閣できない。その一方、CDUが主導となってBSWとSPDの3党から成る連立政権の交渉が始まり、合意に達したわけだ。
同合意では左翼党から今年1月に離脱して新党結成したBSWが州レベルでは初の政権入りとなるだけに、その動向が注目される。BSWはテューリンゲン州議会選で15.8%を獲得し、ラメロウ現州首相が率いる左翼党(13.1%)の支持者を奪って躍進した。
当方がテューリンゲン州議会の動向に関心がある理由は、選挙で第1党となった極右政党が政権交渉に乗り出すことが出来ない状況に陥っているからだ。
オーストリアでは9月29日の国民議会選で極右党「自由党」が初めて第1党になったが、選挙後の連立交渉からは完全に疎外された立場にある。両者の状況は酷似しているのだ。民主的選挙で第1党になりながら、政権を発足できないのだ。AfDや自由党にとってはフランストレーションが溜まる状況だ。
一方、AfDを政権に参加させないために他の政党が政治信条の相違にもかかわらず連立政権を発足させるため、そのような連立政権は遅かれ早かれ政権内で対立が表面化し、崩壊する危険性がある。ドイツで連邦レベルで初の3党連立政権を組閣したショルツ政権が任期を1年余り残して崩壊したばかりだ(「極右『自由党』に政権を委ねられるか」2024年10月10日参考)。
すなわち、極右政党を排斥するためには、不安定な連立政権に甘んじなければならなくなる。どちらがいいか、といった選択ではない。どちらも国民にとって大きな影響が出てくる。賢明な道は、なぜ極右政党が選挙で多くの有権者の支持を得るかを冷静に分析することではないか。極右政党を支持する国民の票はもはや単なる現政権への抗議票ではないのだ。
テューリンゲン州議会選で第1党に躍り出たAfDを率いるヘッケ氏は反憲法、反民主主義、反ユダヤ主義的な世界観を標榜し、ホロコースト記念碑を「恥の記念碑」と呼んだことがある政治家だ。そのAfDが同州で32.8%の得票率を獲得した。特に、若者の間でAfDの支持者が増えている。同じことが、自由党の支持者にもいえるのだ(「AfD支持者はもはや抗議票ではない」2024年9月4日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。