西側指向のジョージア国民の「苦悩」

南カフカスのジョージア(前グルジア)の首都トビリシや他の都市で29日、親ロシア派の与党「グルジアの夢」のイラクリ・コバヒセ首相が前日、欧州連合(EU)の加盟問題を2028年まで今後4年間、延期することを決定したことに抗議した親欧州派の野党、国民がデモ集会を開いた。それに対し、当局は治安部隊を動員し、放水などで議会周辺に集まった国民を強制的に鎮圧した。同国では憲法でEU加盟を国是とすることが明記されているが、政府はEUへの批判を強め、EU統合を願う国民と対立を繰り返してきた。

国民に呼び掛けるジョージアのズラビシュヴィリ大統領(ジョージア大統領府公式サイトから、2024年11月29日)

与党「グルジアの夢」が主導する議会で28日、コバヒセ首相が再任され、その直後、同首相は「欧州議会と一部の欧州政治家の動きは脅迫だ」と非難。2028年までEU加盟交渉を停止すると発表した。ジョージアは昨年12月、正式にEUの「加盟候補国」として承認された。しかしその後、EUはジョージアの民主主義が後退していると非難。ジョージア政府が具体的な措置を講じるまで加盟プロセスを凍結した。ちなみに、人口約370万人の小国ジョージアでは、世論調査によると、国民の80%がEU加盟を支持している。

現地からの情報によると、親ロシアの与党「グルジアの夢」が主導して決定したEU加盟交渉の停止決定に対し、外務省や国防省内の外交官、職員、そして裁判官たちから「政府の決定は違憲だ」という声が上がってきた。ロイター通信などによると、100人以上の外務省関係者が政府宛ての公開書簡を送り、ネット上で広まった書簡のコピーによると、外務省や国外に駐在する外交官114人がこの書簡に署名したという。また、国防省職員は声明文で「欧州統合は、国の安全保障を強化し、主権を確立するための唯一の選択肢であり、外交および安全保障政策の最優先事項である」と述べている。政府の決定に抗議する声は広がり、国内の5つの大学でも反対の声が高まり、授業が中止されたという。

外電によると、警察当局は28日夜の抗議デモでは、放水、催涙ガスなどを使用してデモ参加者を鎮圧した。内務省が29日発表した情報によると、43人が逮捕され、32人の警官が負傷した。最大野党「変革のための連合」は、抗議中に党の指導者2人が警察に襲撃され、負傷したと発表している。

ジョージア駐在のEU大使パヴェル・ヘルチンスキ氏は、政府当局のデモ参加者への暴力を非難し、「国民の圧倒的多数の意思にも反している」と述べている。EU自体は年初に、ジョージアの加盟申請を保留している。

ちなみに、欧州議会は28日、今年10月26日に実施されたジョージア議会選挙の結果を「重大な不正があった」として無効と表明し、1年以内に再選挙を求める決議(非拘束決議)を採択した。「グルジアの夢」は選挙で勝利したと宣言しているが、選挙の無効を訴えた多くの抗議行動が行われている。野党は「グルジアの夢」による選挙不正を訴え、新議会をボイコット。野党に近い立場のサロメ・ズラビシュヴィリ大統領は、新議会を「違憲」と主張し、憲法裁判所に選挙結果について異議を申し立てている。法的専門家によれば、裁判所がズラビシュヴィリ氏の訴えに対して判断を下すまで、新議会の決定は無効であるとされている。同大統領は28日、「非合法な政府は自国民に対して戦争を宣言した」と述べている。

EUとジョージア間の加盟交渉の経緯

ジョージアは2003年の「バラ革命」以降、西側諸国との関係強化を目指し、EUとの協力を進めてきた。EU加盟はジョージアの憲法にも明記されている国家目標であり、長期的な政策課題とされている。1999年にEUとパートナーシップと協力協定を締結。同国はEUとの「欧州近隣政策」(ENP)に参加。そして2014年にはEUジョージア連合協定を結んでいる。協定には包括的貿易協定が含まれ、同国はEU単一市場へのアクセスを得た。2017年にはピザ免除協定が結ばれた。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、ジョージアは2022年6月、EU加盟申請を行った。ブリュッセルはジョージアの加盟申請に対して、加盟候補国の地位を付与することを保留した。理由は司法の独立、報道の自由な度で民主主義の後退が見られることだ。例えば、政府が2023年に提出した「外国代理人法案」は、ロシア型の法律に類似しており、人権団体や市民社会の活動を制限する可能性があると批判を受けた。同法案は国際的な圧力を受けて撤回されたが、EUはこの動きを加盟交渉の進展を妨げる要因としている。また、ウクライナ戦争を巡るロシアへの融和的な政策が批判されている。

ジョージアに対するロシアの影響は

ジョージアとロシア間には歴史的、政治的、経済的なつながりが深い。両国間にはアブハジアと南オセチアという領土問題を抱えている。ロシアは2008年、それら地域の独立を承認し、事実上、占領している。エネルギー供給では現在はアゼルバイジャンからの供給に切り替えているが、ロシアの影響は依然大きい。ロシアに出稼ぎに行くジョージア国民の送金は同国にとって貴重な収入源であり、ワイン、農産物などの輸出先としてロシアとの経済的結びつきは強い。ウクライナ戦争勃発後、ジョージアに移住するロシア人が増えている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年12月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。