世界的実業家イーロン・マスク氏の話が続くが、トランプ次期大統領とマスク氏のパワー・カップルが世界で風雲を呼び起こしているのは至極当然かもしれない。世界最強国家の米大統領と世界一の資産家が結束すれば、文字通りもはや怖いものがない、といった印象を受けるからだ。
ところで、大衆迎合型政治家のトランプ氏と派手な言動で世界を驚かしている実業家マスク氏の組み合わせがいつまで続くか、といった声が聞こえる。この懸念はトランプ嫌いの欧州の政界の偏見から生まれてきたものではなく、「トランプ・マスク組」は必ず終わりを迎えると予想する声があるのだ。その一人、ドイツ民間ニュース専門局ntvの著名なコラムニスト、ヴォルフラム・ヴァイマー記者は「両者の関係が決裂する4つの理由」を挙げている。以下、同記者の4つの理由を紹介したい。
トランプ氏もマスク氏も右派リバタリアン的な政治を施行してる点で酷似している。その男同士の友情を「ブラザー・ロマンス」と呼ばれ、それを短縮して「ブロマンス」(Bromance)と言われる。米国メディアではトランプ氏とマスク氏の組み合わせを「男の友情」と受け取っている。昨年の大統領選では、マスク氏が突然選挙戦の舞台に登場し、豊富な資金を投入してトランプ氏の選挙戦を支援した。その甲斐があって、リベラルな米メディアの予想を大幅に覆し、トランプ氏は民主党の対抗候補者ハリス副大統領に圧勝した。そしてトランプ氏は選挙戦の論功行賞に基づき、マスク氏を新設した「政治効率化省」の責任者に抜擢した。それ以降、マスク氏の言動はメディアで更に大きく報道されるようになった。スポットライトが他者に集まることを嫌うトランプ氏はここにきてマスク氏の派手な言動を苦々しく感じるほどになってきた。
ヴァイマー記者が指摘する「トランプ・マスク組」のブロマンスが決裂すると予想される最初の理由は、両者のエゴと性格的衝突だ。曰く、両者は極端なアルファ型の性格を持つため、そのうち互いの虚栄心、利己主義、使命感が衝突するというのだ。マスク氏もトランプ氏もナルシシストであり、長期間にわたり対等なパートナーシップを築くことは困難だ。すなわち、両者は半世紀前のフィデル・カストロとチェ・ゲバラのような関係でいつかは対立するというのだ。同記者によると、カストロ・ゲバラ組は反資本主義の同士であり、トランプ・マスク組は「左翼的なエコ社会主義」と「官僚主義的ディープステート」に対抗する「兄弟」だというのだ。
2番目はトランプ氏の同盟者への厳しい対応だ、トランプ氏は最も親しい同盟者でさえも、自分に逆らったり、退屈になったり、スケープゴートとして必要になったりすれば容赦なく切り捨ててきた。米政治学者アンドリュー・ゴースロープ氏は「トランプ氏は最終的にマスク氏に飽き、新しい輝く存在へと目を向けるだろう」と予測している。
3番目は、共和党内での対立だ。マスク氏は共和党のプロの政治家たちを敵に回している。彼らは選挙で選ばれたわけでもないマスク氏が官僚主義の改革を仕切ることに苛立ちを感じている。党の指導部はマスク氏の行動を快く思っていない。曰く「政治とビジネスは違う」というのだ
最後は、対中政策での対立だ。トランプ氏は中国をアメリカの主敵と見なしているが、マスク氏は中国で大量の電気自動車を販売しており、貿易戦争や対立を望んでいない。マスク氏のテスラは上海にアジア市場向けの巨大工場を持ち、中国政府から補助金を受けている。中国市場はテスラの売上の4分の1を占めるほどだ。マスク氏は中国との協力関係を強化しており、これがトランプの反感を買う可能性がある。また、トランプ氏の関税を武器とした貿易政策に対し、マスク氏は基本的には反対の立場だ。
以上から、同記者は「トランプ・マスク組」の「ブロマンス」は近いうちに破綻するだろうと予想しているわけだ。
ところで、4つの理由のうち、最大の決裂要因は対中政策の相違だろう。マスク氏にとって中国は極めて重要な市場だ。中国政府との良好な関係がビジネスの成否を大きく左右する。このため、マスク氏が中国との関係を悪化させることは考えにくい。一方、トランプ氏は中国をアメリカの主要な敵と位置づけ、対中強硬政策を進めている。この根本的な立場の違いは妥協が難しい。トランプ氏にとって反中政策は彼の政治スタイルを象徴する。マスク氏が中国市場での利益を守ろうとすれば、トランプ氏から「裏切り者」扱いされるリスクが出てくる。すなわち、対中政策の衝突は、単なる一時的な意見の相違ではなく、両者の価値観や目的そのものの不一致に根ざしているからだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。