自民党が少数与党に転落してから、日本の政治にも少し変化がみえてきた。特に国民民主党の躍進で玉木雄一郎氏は「現役世代のヒーロー」になったようだが、冷静に考えてほしい。国民民主の要求している所得減税は、本当に現役世代の利益になるのだろうか?
最大の恩恵を受けるのは「非課税世帯」になる年金受給者
国民民主の案では今の年収103万円の課税最低限度額を178万円(このうち基礎控除123万円)に上げるが、これによって最大の恩恵を受けるのは年金受給者2000万世帯である。
公的年金の世帯あたり平均受給額は年額約170万円で、今は基礎控除48万円と公的年金控除110万円の合計158万円が所得控除されている。この基礎控除が123万円になると、年金控除との合計238万円が課税最低限度になり、年金受給者のほぼ全員が住民税非課税世帯になる。
今は非課税世帯は約1500万世帯だが、これに約2000万世帯の年金受給者が増えると、重複を除いても合計3000万世帯以上が非課税になる。これによる恩恵は多い。
- 国や地方自治体の特別給付金:たとえば今回の補正予算の給付金3万円の対象も非課税世帯だが、これが4500億円から9000億円に倍増する。
- 後期高齢者医療制度:非課税世帯は窓口負担は1割なので、年金生活者はすべて1割負担となり、保険医療費は約2兆円増える。
- 高額療養費制度:高齢者の自己負担額は非課税世帯は月額の自己負担限度額が2.5万円だが、これがすべての年金生活者4000万人に拡大されると、高額療養費制度の支出約2.8兆円は倍増するだろう。
- この他にも非課税世帯にはNHK受信料が免除され、水道・ガス料金が減免され、高校・大学の授業料が減免されるなど、非課税世帯には多くの自治体支援がある。
年金控除を廃止すれば財源は出る
それに対して、平均的なサラリーマン(年収460万円)の場合は、現状だと課税所得が約360万円なので、所得税5%・住民税10%で税額は54万円。基礎控除・給与所得控除が178万円になると課税所得が282万円になるので、税額は42万円。約12万円の減税になる。
財務省のいう「7.6兆円の減収」は、この所得税・住民税の減収分だけをみているが、年金受給者が非課税になると、医療費だけでも後期高齢者医療制度と高額療養費制度で約5兆円増える。その他の給付金などを合計すると、非課税による減収は合計15兆円近い。
この減収は財政赤字になり、国債が増発される。それは納税者にとっては課税の延期にすぎないが、年金生活者にとってはフリーランチである。つまり国民民主党の財源なき減税案は、納税者から年金生活者に巨額の所得移転をおこない、世代間の所得格差をさらに拡大する老人優遇税制なのだ。
これを防ぐ簡単な方法は、公的年金控除を削減することだ。給与所得控除は必要経費だが、年金受給の経費は保険料を払うときの社会保険料控除があるので、二重控除になっている。これについては厚労省の社会保障審議会の年金部会でも「年金控除は多すぎる」と批判が出た。
年金控除を廃止すれば課税最低限度額は110万円下がり、年金受給者の所得税額が2兆円ぐらい増える。所得減税の財源も医療費などの支出増も一部まかなえる。現役世代の味方のはずの国民民主党が、これに沈黙しているのはどういうわけだろうか。






