(前回:不可解なサンプラザ問題!DNAとレガシーはどうなったの?)
中野区が示した中野サンプラザの「DNA」の説明は、物理的なデザイン要素に焦点を当てていますが、その内容にはいくつかの問題点が見受けられます。
「中野サンプラザの記憶の継承」(P3)を引用します。
「展望エリアとアトリウム空間をつなぐ斜めのラインを形成することにより、現中野サンプラザのシンボリックな三角形のフォルムを想起させ、中野サンプラザの記憶・DNAの継承を表現するデザインとする。」
中野駅新北口駅前エリアの市街地再開発事業の進捗について(中野区議会資料/2024年6月19日)
中野区の解説は、具体的な建物の形状やデザインに過度に依存しています。三角形のデザインはシンボリックであるかもしれませんが、これをもって「DNAの継承」と主張するのは、あまりに表面的です。
「DNA」とは、シルエットの外観の特徴や形状を指すものではありません。物理的な形状だけでなく、その場所が持つ歴史や記憶、社会的な影響力など、もっと包括的な意味を持つべきです。サンプラザが持つ本質的な機能や社会的な役割、歴史的に見た価値を含めなければ意味がありません。
歴史や役割とはどのようなことを指すのでしょうか。中野サンプラザは1973年に「全国勤労青少年会館」として開館し、地域文化の発展に大きく寄与してきたという事実があります。多くのアーティストや観客に利用されてきたという具体的なエピソードを挙げることで、より説得力のある説明が可能になるはずです。
中野サンプラザは、コミュニティの核としての役割 多目的ホールとしての特性を活かして、コンサート、展示会、会議など多様な用途に対応してきました。つまり、地域住民の交流の場だったのです。これらの役割は、建物の形状ではなく、その空間が持つ社会的な価値によって実現されてきたものです。
さらに、若者文化の発信地として、また地域文化活動の拠点として上げてきた実績は、建築デザインには表現できない重要なレガシー(遺産や伝統)です。DNAやレガシーは、その場所が果たしてきた役割や社会的・文化的な影響を含む広い概念であり、これを踏まえた具体的な説明が求められるはずです。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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