中野区民に十分な説明をしないまま、サンプラザの解体が行われようとしている。計画はすでに遅れ、いくつかの不可解な点が明らかになっている。
不可解な事業計画
たとえば、豊島区庁や渋谷区庁は『定期借地権契約』での開発を行っているが、中野区の場合は『敷地売却』を前提とした契約が締結されている。区民が知らない間に、中野サンプラザと区役所の土地が約1000億円の価値にもかかわらず、半値以下の400億円でディベロッパーに売却されようとしている。
さらに、これらの詳細は区民には知らされていない。中野サンプラザを「中野4丁目」と称し、区報に掲載することで再開発事業を推進している。莫大な借金を将来に残すリスクがある。
さらに、工事費だけで2250億円がかかる。この規模は北海道新幹線の建設費をも凌駕する。「北海道新幹線の建設費、総額2060億円」というニュース記事が参考になる。
建物は、高さ262メートル、60階、1100戸の超高層タワマンである。ちなみに、この規模は池袋のサンシャイン60を凌ぐ規模である。果たして必要なのだろうか?超タワマンにすることにどのようなメリットがあるのだろうか?
サンプラザのDNAとレガシー
中野駅新北口駅前エリアの市街地再開発事業の進捗について(中野区議会資料/2024年6月19日)
資料のP3に完成予定図が描かれている。「中野サンプラザの記憶の継承」とされているが、これはDNAといえるのだろうか?次のように書かれている。
「展望エリアとアトリウム空間をつなぐ斜めのラインを形成することにより、現中野サンプラザのシンボリックな三角形のフォルムを想起させ、中野サンプラザの記憶・DNAの継承を表現するデザインとする。」
なるほど、三角形がDNAであるという。
ちなみに、筆者はDNAについて次のように考えていた。
「中野サンプラザは、多目的ホールで、地域文化の発展と交流の拠点としての役割を果たしている。そのDNAは地域に根ざした文化活動を支えることにある」
また、区議会などでよく話題になるレガシーについては次のように考えていた。
「中野サンプラザのレガシーは、1973年に『全国勤労青少年会館』として開館し、地域文化の発展に大きく寄与したことである。中野区のランドマークとして親しまれ、コンサートホールやイベント会場として多くのアーティストや観客に利用された。また、若者文化の発信地としても知られ、地域の文化活動を支え続けた」
建物の一部を三角形にデザインすることがDNAの継承とは、まことに残念である。
政治家が言葉を使い分けることは大切なスキルであるが、有権者に裏切られた印象を残すことは好ましくない。信頼感が揺らぎ、政治不信につながる危険性がある。
言葉の解釈で押し切っても有権者は納得しない。政治家の説明は具体的でなければ説得力がない。なお、筆者は、区民にとって有益であれば解体中止の立場ではないことを申し上げておく。さらなる善処と情報公開を期待したい。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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