国民の経済厚生を測る指標として注目されている1人あたりNDPの国際比較をしてみます。
1. 1人あたりNDPの推移:為替レート換算値
前回は、日本の国内純生産(NDP:Net Domestic Product)についてご紹介しました。
今回は1人あたりNDPの水準について国際比較するとともに、固定資本減耗についての日本の特徴も確認してみます。
NDPは、国内総生産(GDP)から減価償却費に相当する固定資本減耗を差し引いた指標です。
固定資本減耗は、建物・構築物、機械・設備など固定資産の維持費用と言えます。
NDPは、稼いだ付加価値のうち固定資産の維持費用を差し引いた、実際に家計、企業、政府へと分配される総額とと考えれば良いと思います。
経済的豊かさを測る指標として、1人あたりNDPの推移から眺めてみましょう。
図1が主要先進国の1人あたりNDPについて、為替レート換算値での推移となります。
日本(青)は1990年代に高い水準に達していて、その後は横ばい傾向が続いています。
2022年はドル高が進んだ事で各国で減少傾向が見られますが、日本は大きく減少してイタリアや韓国を下回っています。
アメリカの半分未満で、OECDの平均値を大きく下回る事になります。
2. 1人あたりNDPの国際比較:為替レート換算値
続いて、1人あたりNDP(為替レート換算値)について、国際比較をしてみましょう。
図2が2022年の1人あたりNDPの国際比較です。
水色が1人あたりNDP、橙が1人あたりGDPを示します。
日本の1人あたりNDPは25,189ドルで、OECD34か国中22番目の水準です。
1人あたりGDPでは日本はスペインを上回っているのですが、固定資本減耗が多く1人あたりNDPでは下回り順位を1つ下げる結果となっています。
相対的に、順位の割には固定資本減耗が多い事が視覚的にもわかりますね。
1人あたりNDP 為替レート換算値
2022年 34か国中 単位:ドル
1位 108,804 ルクセンブルク
5位 56,495 アメリカ
9位 46,480 カナダ
16位 39,773 ドイツ
17位 39,193 イギリス
18位 32,838 フランス
19位 29,339 イタリア
20位 27,215 韓国
22位 25,189 日本
平均 38,461
3. 1人あたりNDPの推移:購買力平価換算値
続いて、1人あたりNDPについて購買力平価換算した数値を見てみましょう。
NDP用の購買力平価は公開されていないので、GDPベースの購買力平価にて代用いたします。
(購買力平価の本来の目的からは若干ずれた使用方法となるので、参考値として眺めていただければ幸いです。)
図3は1人あたりNDPをGDPベースの購買力平価でドル換算した推移です。
日本(青)は1990年代にフランスをやや上回り、イギリスと同程度、カナダやドイツとも遜色ない水準ですが、徐々に劣後していき、2022年にはかなり差が開いている状況です。
韓国には2009年に抜かれています。
1人あたりGDPよりも日本の水準が低くなるようです。
4. 1人あたりNDPの国際比較:購買力平価換算値
最後に1人あたりNDP(購買力平価換算値)の国際比較です。
図4は2022年の1人あたりNDP(購買力平価換算値)の国際比較です。
購買力平価換算だと日本は34,890ドルで、OECD平均値の6割ほどとなります。
OECD34か国中29位で、他の主要先進国を大きく下回ります。
1人あたりGDPだとポーランド、イスラエル、ポルトガル、ハンガリーよりも高いのですが、固定資本減耗の割合が大きく1人あたりNDPだとこれらの国々を下回るようです。
1人あたりNDP 購買力平価換算値
2022年 34か国中 単位:ドル
1位 127,475 ルクセンブルク
8位 58,495 アメリカ
12位 54,385 ドイツ
13位 51,959 カナダ
15位 48,825 イギリス
16位 46,774 イタリア
17位 46,256 フランス
19位 43,369 韓国
24位 34,890 日本
平均 52,677
5. 1人あたりNDPの特徴
今回は、より実質的な国民の豊かさを表すとされる1人あたりNDPの国際比較をご紹介しました。
日本は固定資本減耗が多く、1人あたりNDPは1人あたりGDPよりも国際順位が低下します。
特に生活実感に近い購買力平価換算値で見ると、先進国の中でもかなり低い水準となっているようです。
GDPの中でも固定資産の維持費が嵩んでいて、固定資産によって稼いでいる分が多いという事が言えそうです。
逆に言えば、固定資産が多い割には労働者が付加価値を稼げていないという事になります。
日本経済の特徴の大きなポイントと言えそうです。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年1月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。