「核禁条約」加入運動
長年、核廃絶運動を展開してきた「日本原水爆被害者団体協議会」が昨年度のノーベル平和賞を受賞したことを契機に、広島・長崎の被爆者団体や日本共産党などが、日本政府に対し「核禁条約」への早期の署名と批准を求める運動を活発化させている。
その主たる理由は、世界で唯一の「戦争被爆国」である日本は、核兵器廃絶を目指す「核禁条約」に速やかに加入し、核廃絶へ世界をリードすべきだ、というものである。
「核禁条約」と「核の傘」の矛盾
「核禁条約」では、核の平和利用を除き、核兵器の開発・実験・生産・製造・取得・占有・委譲と受領・使用・威嚇・配備などが禁止され、法的拘束力がある。
このように、「核禁条約」は核兵器の使用などを禁止しているところ、「日米同盟」に基づく『核の傘』は、核兵器による攻撃を受けた場合における核兵器による反撃すなわち核兵器の使用を否定せずこれを前提とするから、『核の傘』は「核禁条約」と矛盾する。
「日米同盟」の最重要な抑止力は『核の傘』である。なぜなら、日本は核兵器を保有していないため、核保有国である中国・北朝鮮・ロシアによる核攻撃や核恫喝を抑止するためには、「日米同盟」による『核の傘』の抑止力に依存せざるを得ないからである。すなわち、これらの国が日本に対して核攻撃をすれば、米国の核による反撃を受けることで、核攻撃を防止する抑止力となっているのである。
しかし、上記の通り、『核の傘』は「核禁条約」と矛盾するから、日本が「核禁条約」に加入すれば、「日米同盟」の最重要な抑止力である『核の傘』を失う危険性がある。
米国自身も、核兵器の使用等を禁止する「核禁条約」に日本が加入した場合には、『核の傘』を日本に提供しない可能性がある。米国と同盟関係にあるドイツなどの欧州諸国や韓国・豪州などが「核禁条約」に加入しないのはそのためと言えよう。
「核禁条約」加入後の日本の安全保障
「核禁条約」加入を主張する日本共産党は、加入後の日本の安全保障や核抑止について、国民が安心できる具体的な対策を一切示していない。ひたすら、米国を敵視する「反米反戦」「大軍拡反対」のイデオロギーに基づき、「日米同盟」に反対し、米国の『核の傘』を全面否定し、「平和外交」を唱えるのみである。
しかし、上記の通り、日本が「核禁条約」に加入すれば、「日米同盟」の最重要な抑止力である『核の傘』を喪失し、核兵器に対して無防備となり、核保有国である中国・北朝鮮・ロシアによる核攻撃から日本を守れない危険性が大きくなる。
日本及び日本国民を守るためには、核廃絶の理想と核抑止の現実を混同してはならないのである。