オープンレターは甦える:予言されていたフジテレビ・キャンセル

中居正広氏のスキャンダルに端を発するキャンセルが、止まらない。

率直に「なんで?」と感じた人が多いと思うが、笑福亭鶴瓶氏が、スシローのCMとNHK(BS)の放送をキャンセルされた。想像される理由は事件の前に、疑惑のフジテレビ・プロデューサーも交えて中居宅でバーベキューをしていたから、というだけである。

中居正広BBQに参加した笑福亭鶴瓶がスシローHPから削除「ペロペロ事件の恩を仇で返すな」利用客たちの怒り | 週刊女性PRIME
中居正広の女性トラブル騒動の余波か、スシローのホームページから中居とBBQに参加しただけの鶴瓶が消えたーー
笑福亭鶴瓶がMCのBS11「無学 鶴の間」2・4放送回の休止を発表 - 芸能 : 日刊スポーツ
タレント笑福亭鶴瓶(73)がMCを務めるBS11(イレブン)「無学 鶴の間」が2月4日放送回を休止することが30日、分かった。同社公式サイト内で発表した。公式… - 日刊スポーツ新聞社のニュースサイト、ニッカンスポーツ・コム(nikkansports.com)

ひとつ目の記事に出ているが、鶴瓶氏は途中で帰り、滞在中にトラブルはなかったと見られる。BBQで中居氏にプロデューサーが被害者を紹介し、後日の不祥事の「きっかけ」になったのは事実のようだが、問題が起きる前に同席しただけなら、さすがに事件の責任を問うのは酷だろう。

この結果、再度の注目を集めているのが、2021年の春に起こったオープンレターの顛末である。

……ですよね。なんせ、あの時は「鶴瓶さん」に相当する人=事件を起こし炎上した呉座勇一氏の交遊関係者(SNSをフォローする学者)が、一斉に「私まで燃やさないでください!」と逃げ出し、むしろオープンレターに署名して炎上を加速し煽る側に回りましたからねぇ。

「言い逃げ」的なネット文化を脱するために:呉座勇一氏の日文研「解職」訴訟から考える①
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よく知られるように、今回の問題を詳報してきた『週刊文春』が第一報(昨年12/26発売)を訂正したため、守秘義務により伏せられてきた事件の内実は一層、不透明になっている。ざっくりまとめると、以下のようになる。

「フジテレビ・中居問題 記事の訂正について」【編集長より】 | 文春オンライン
橋下徹氏のご指摘を受けて訂正に至った経緯についてご説明します。 昨年12月26日発売号では、事件当日の会食について「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」としていました。しかし、その後の取材により「…

訂正前 フジテレビのプロデューサーが中居宅での会食を被害者に提案し、ドタキャンして二人きりの状況を作ったことが、「上納」にあたる。

訂正後 プロデューサーは(おそらく「上納」の狙い込みで)BBQに被害者を帯同し、中居氏に紹介した。後日に中居氏が被害者を「フジのみんなも来るから」と偽って誘い、事件に発展したことが、「上納」にあたる。

ともに文春の「見立て」なことに注意

第一報が「誤報だ」と非難を集めるのは一理あるが、もともと同誌も含めて、業務命令のような上意下達で「性的な行為を強要した」と報じたメディアはない。むしろ日本では「仕事のつき合い上、断りにくい雰囲気を醸す」形でハラスメントが起こり、結果として(具体的な内容だけでなく)責任の主体も曖昧になる。

フジテレビ・中居くん問題を生んだ「終わらない80年代」|Yonaha Jun
連日、メディアは中居正広氏のスキャンダルに端を発する「フジテレビ問題」で大荒れだ。1月27日の会見では社長・会長の辞任が発表された。 フジテレビ 港社長と嘉納会長が辞任 社長後任に清水賢治氏 | NHK 【NHK】中居正広さんと女性とのトラブルに社員が関与していたなどと週刊誌で報じられたことをめぐり、フジテ...

……ところが、オープンレターはその程度ではひるまない。なにが起こったかがまったく不明でも、当事者(今回は中居氏およびフジテレビ)が一度でも謝罪したら「それを根拠に極限まで叩くべきだ」というのが、当時レターの署名者によって語られた「正義」だからだ。

1月28日
引用されている植村氏が署名者で、
発言当時の文脈はこちら

いやはや、まったくすごいことである。週刊誌やワイドショーを見る人の今の状態に先んじて、大学の先生が率先してこれやってたんですよ?

さてそのオープンレターが炎上する際中、自分に不利な指摘を「事実誤認だ!」と攻撃したところ、そう言う本人こそ事実誤認をしていた証拠を突きつけられて、沈黙に至った学者がいる。

北村紗衣氏の「指摘」に応える:呉座勇一氏の日文研「解職」訴訟から考える⑥
とくに英文学に詳しくなくとも知る人の多い、「吠えなかった犬」というシャーロック・ホームズの挿話がある(白銀号事件)。番犬が不審者を見かけて吠えたことではなく、むしろ問題の夜には吠えなかったことを手がかりとして、探偵が事件の真相を見抜...

さすがにそうした失敗から、「学者」ならなにかを学んだはずだと、ふつうは期待する。ところが、なにも学んでいないらしい(苦笑)。

北村紗衣氏Twitterより

上記のツイートは今年の1/12付だが、そもそも『週刊文春』は(後に一部訂正された)前年末12/26発売の第一報から、一貫して取材のソースは「被害者の知人」だと明示している。

(2ページ目)「私は許していない」中居正広と密室で2人きりにさせられ…週刊文春が“パイプ役”のフジテレビ幹部を直撃した | 文春オンライン
(2ページ目) 記事によると、2023年にX子さんは中居、フジテレビの編成幹部A氏と3人で会食する予定だったが、A氏がドタキャン。彼女と中居は2人で会食することになったが、そこでトラブルが発生。その後、中居は代理人…

X子さんの知人が打ち明ける。
「あの日、X子は中居さん、A氏を含めた大人数で食事をしようと誘われていました。多忙な日々に疲弊していた彼女は乗り気ではなかったのですが、『Aさんに言われたからには断れないよね』と、参加することにしたのです」

(中 略)

彼女〔X子〕は知人に対し、次のように当時の苦労を明かしている。
「……弁護士探しは本当に大変だった。結局、〔被害の後に入院した〕病院経由で知り合った女性支援団体の方が『この人だったら女性の味方をしてくれるから』と女性弁護士を紹介してくれました。『芸能界の力に屈しないから』って」

上に引いた「文春オンライン」への転載は、同サイトの表示によれば1/10。要は、ネットのチラ見でわかる情報すら一切確認せず、「私の立場的にはこうであってほしいストーリー」を、根拠なく断言しているだけなのだ。

「世間を知っている!」と自称する学者ほど世間知らずなことは、みんな知ってるんだし、失笑して流せばいいのかもしれない。しかしやはりオープンレターと関わった、自称「ジャーナリスト」も同様では話が変わる。

こうした学習能力のない面々が、インフルエンサー気取りで2021年の失敗に懲りずに、25年も誤情報を拡散する現実は、どうすれば改善できるか。

簡単である。かつて過ちを犯し(これは誰にでもある)、その後も反省しない「嘘つき」を、信じるのをやめることだ。

ニセモノの発言は批判され、謝罪を促されねばならない。当初から問題を指摘してきた、ホンモノの発言が拡散され、参照されねばならない。

それでは具体的に、いかなる人たちが、自らの過去に向きあい誤りを認めるまで、追及と批判に晒されるべきであるのか。

次回の更新では「然るべき基準」に基づく名簿を公開する。ぜひ、ご期待とご協力を賜りたい。

参考記事:

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(ヘッダーは2023年7月、キャンセルされたCMへの笑福亭鶴瓶氏の起用を報じたPR Timesより)


編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2025年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。