先日、SNSで“財務省解体デモ”なるものが話題となりました。
「は?」って思った人が大半でしょうけど、やってる本人達はいたって本気の様子。
はたして財務省をやっつけたとして、それで問題が解決するんでしょうか。というか、そもそも彼らは何を求めてるんでしょうか。
一見するとしょうもないことしてるように見えても、その行動原理をひもとくと意外な事実に気づかされることもあるものです。
いい機会なのでまとめておきましょう。
財務省を目の敵にする人たちの本音
まず彼らのロジックですが「財務省が緊縮財政するもんだから日本がこんなに貧しくなった」というものです。
ちなみに財源については「自国通貨はいくら刷っても大丈夫」とか「バラマキで経済成長するからOK」「まず減税させれば税収増えるから心配ない」とか、MMT、元祖バラマキ派、減税派などごった煮状態ですね。
まあアホという点では大差ないですけど。
まず世界最大の債務残高を抱える日本が緊縮財政の対極にいるという点で異論のある人はまずいないでしょう。
くわえて財務省というのは国の決めた事業を維持できるように歳出歳入をチェックする組織でしかありません。
たくさん税金取られて生きていけない!というのなら、それはそれだけのお金を使い込んでいる国民の側に問題があることになります。
だからまず国民の側で「歳出が多すぎるから○○を減らせ」と合意形成して選挙を通じて政治に反映させるしかありません。
そういうの一切無視していきなり財務省に「おまえが金を使うのを見直させろ」「税金取るのやめろ」というのは、極論すれば炊飯器に向かって「米が値上がりしてるから使う量を減らせ」と説教してるようなもんです。
想像してみてください。近所に毎週末、炊飯器に向かって「最近米が高すぎる!米の使用量を減らせ!」って怒鳴ってる一家がいたらどうします?
「うわこいつらヤバいな」って目が合わないように避けるでしょ?財務省解体デモやってる人は一般人からそういう目で見られてるって自覚した方がいいです。
ちなみに減らすべきなのは社会保障一択で議論の余地はありません。
ただし。
じゃあ上記デモの参加者が揃いも揃ってみんなバカかというと、筆者はそれも違うと考えています。
というのも、少なくとも上記デモの黒幕の一角と思われるれいわ自身が「税金は不要」なんてまったく考えていないからです。
最近の政策を見ると「自国通貨なんだからいくら刷っても大丈夫」なんて言ってなくて、実は大増税路線に舵を切っているのがよくわかります。
以下、現在のれいわの税制に関する政策の抜粋ですが、消費税廃止を掲げる一方で、増税に関するラインナップはこんなにあります。※
実はれいわ自身が「税は財源ではない」なんて1ミリも信じてないのは明らかでしょう。
- 法人税を引き上げ、累進課税を導入する
- 所得税の累進を強化する
- 金融所得課税は、株の配当や譲渡益を分離課税とする現行制度を見直し、総合課税を検討する
- 大企業の自社株買いに課税し、株価ではなく企業の利益を従業員に分配するように動機付ける
- タックスヘイブンを利用した日本の大企業の租税回避を規制し、公平で公正な負担を求める
- 財産相続によって格差が固定されないよう、是正方法を検討する
- 不況期には高額資産への資産課税を実施することで、富裕層の支出を促す
- 国際的な金融取引に対する課税や金融資産課税の導入を検討し、タックスヘイブン、課税逃れへの取り締まりを国際協力のもとで強化する
- 炭素などの温室効果ガスや汚染物質の排出に課税し、排出削減を促すことで健康や環境への被害をなくす
- インフレ抑制が必要な場合は、優先度の低い設備投資への課税を検討する
- 円安など為替の変動による企業の棚ぼた利益に課税を検討する(ウインド・フォール税)
- 雇用を海外移転する企業への税控除廃止と国内回帰する企業への税控除を導入する。日本企業の海外収益への課税を強化する
- 将来的に介護保険制度は廃止し、累進性を組み込んだ税方式にすることを検討する
で、ここからが重要なんですが、れいわがいうところの増税というのは、そのほとんどが企業とそこで働く人間に集中してる点です。ちなみに、法人税は実際にはそのほとんどが従業員の賃金に転嫁されるため、法人の課税強化=サラリーマンの負担増と考えて問題ないです。
要するに「消費税は廃止しろ。足りない分は企業とサラリーマンに負担させろ」というのが彼られいわの主張ですね。
そう考えると、上記デモの見方がずいぶんと違ってくるはず。
「自国通貨はいくらでも刷れる」なんて本気で考えているMMT支持者なんて恐らく3割もいないと思いますね。
れいわ支持層以外は、そのほとんどが「全部分かった上で参加している自営業か無職」でしょう。
彼らに共通するのは「とにかく消費税だけは逃げられないので廃止してほしい。足りない分はサラリーマンから天引きしろ。昔はそれでやってたんだから昔に戻せ」ということでしょう。
なんでこのタイミングで盛り上がってるのかというと、やはり所得税減税議論の影響でしょう。
賛否はありますが、あれで所得税の減税が実現してしまうと、消費税を下げる余力はもう日本社会からは完全に消滅してしまいますから。
「税こそが財源であり、消費税を下げるには法人税や所得税等を上げないといけない。逆に言えば先に所得税を下げられてしまえば消費税を下げることはもう不可能」ということは、れいわ界隈の人間はよくわかっていて、だから焦っているんでしょう。
あとは、少なからぬサラリーマンが社会保険料負担の重さに覚醒し、社会保険料の引き下げと消費税による置き換えが選択肢の一つとしてクローズアップされていることも影響しているはず。
現役世代の保険料の負担を軽減したいと考えています。
表は2021年度の医療保険ごとの保険料の流れをまとめたものです。(日本総合研究所作成)

2021年度に、協会けんぽの保険料収入は9兆9千億円ありましたが、この年度の医療保険の給付額は6兆7千億円でした。… pic.twitter.com/XGDIs1BKvt— 河野太郎 (@konotarogomame) January 21, 2025
年金保険料を消費税に置き換えるのはサラリーマンにとっては負担減ですが、もともと保険料なんて払ってない連中にとっては単なる消費税増ですからね(苦笑)
そうした状況に危機感を持つ人たちが集い、財務省解体を叫んでいると考えれば、バカどころか相当に狡猾でしょう(まあサラリーマンで上記デモに参加してました、という人は真正のバカでしょうけど)。
だって財務省を解体しちゃえば、まあ消費税廃止は厳しいかもしれないですが少なくとも消費税を引き上げようという圧力は消滅するでしょう。
どさくさにまぎれて半分の5%くらいにでも出来れば、彼らはまたあのほとんど税負担無しでほぼすべてのインフラを享受できた夢のような時代に戻れますから。
所得税は自分で確定申告している人は色々調整出来て抑えられるし国民年金は月16,980円の定額です(それすら未納の人も少なくはない)。
消費税さえやっつけられれば界隈の人たちにとっては夢のような美味しい暮らしが待っているのです(サラリーマンには地獄の日々でしょうが)。
そう考えると、ああしたデモは単なるバカの一言では片づけられないですね。
※れいわは一応社会保険料の引き下げも口にしていますが政策集をよく見ると「国民健康保険料や介護保険料などの社会保険料を国庫負担で引き下げる」となっているので高齢者や無職が対象であり、サラリーマンは対象外と思われます。
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以降、
・財務省を潰したら何が起こるか
・減税議論が迷走するワケ
Q:「中途採用で感じた違和感の正体は?」
→A:「最初に感じた違和感は意外と大事だったりします」
Q:「Z世代は本当にワークライフバランス重視?」
→A:「人によりますが、大切なのは人事制度に見合った人材の採用です」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2025年2月27日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。