大きく変わった新入社員への扱い:会社側は腫れ物に触る感覚

就職に関して日本ほど優れた仕組みを持っている国はないと思います。これは半分褒めで、半分皮肉です。日本が歴史的に若年層を企業活動を通じた社会教育に力を入れてきたことで世界でも有数の低い失業率となり、望めばほぼ確実に仕事がゲットできる状況にあります。

一方、一部の職業訓練的な学校卒業生を除き、ほとんどの新卒者は社会人として、あるいはその企業で働くための能力的備えはありません。それ故に企業が入社後、職業訓練をするという特殊な仕組みが存在します。企業はそれこそそれら新人のために莫大なコストをかけ、人材育成という投資をし続け、歩留まり率が3年後に7割、10年後に5割という中でこれぞという光る逸材を探し出す、ということが毎年繰り広げられている光景であります。

入社後、すぐに退職する人も昔から後を絶たないわけですが、その多くの理由は「自分で何をやりたいかわからないまま、皆につられて就活して内定もらったけれど、いざ、入社してみて、やっぱりしっくりこなかった」だと思います。そう思う人は昔と変わらないですが、かつてはもう少し、我慢して会社にいたと思いますが、近年は退職するという踏み出しは昔より早い気がします。

このあたりはそれでも我々の時代と大きな相違はないと思います。

key05/iStock

大きく変わったのが新入社員への扱い。希望する職場に対して我々の時代には聞いてももらえるものではありませんでした。私が入社した会社では約150名の新入社員が全員の前で希望赴任地とその理由は一言ずつ言わされました。その1週間後ぐらいに人事課長が「では発表します!」と全員の前で「〇〇君、大阪支店」「〇〇君、札幌支店」…とアナウンスされその度に「オー」とか「ええっー」という声が上がったものです。希望がかなったのは150名中で片手程度。

ところが今は一部の会社では希望赴任先をガチャで決めるところもあるようです。それだけではなく、就活の際の面接官選びをガチャで行う会社もあります。アタリが出れば「一次面接免除」、それ以外にも面接官指名などができるそうで完全に遊び感覚で若者のハートを釣り上げるような状態です。逆に言うとそこまでしないと学生は来ないということです。あえて私は「優秀な学生」とは申し上げません。誰でもいいからとにかく頭数が欲しい、そんな就活キャンペーンののち、入社後には「せめて3年は働いてね」という会社側の懇願の姿勢が手に取るようにわかります。

また赴任先に就いた後の会社側の扱いもこれまた懇切丁寧、腫れ物に触る感覚、いや、管理職の方々からみれば無菌状態で育った培養人に近い感覚かもしれません。「先輩、なぜこれをやる必要があるのですか?」「先輩、これ、無駄じゃないでしょうか?」「先輩、この方針は社会が求める方向と比べて間違っていないでしょうか?」…。これらに対して懇切丁寧に対応するの現代でしょう。昔なんて「そんなの、俺が知るわけないだろう!会社が決めたことなんだ。それに従うのがしもべに与えられたこと」ぐらいでした。

私も若い方々と仕事をして感じるのは現代人はますます知識先行型になっている点です。更にその行為に対して批判的な目線で見ることもしばしばあります。「こんな資料を作っても会議の説明で一瞬、使うだけじゃないですか?本当に必要なんですか?」と食って掛かるのは若手から見れば無為無駄と感じられるからでしょう。

ところが会社の業務というのは長年築かれたラインの業務の中で様々な理由からそのやり方に収斂したはずです。入社数か月の方に「この会社、おかしいだろう」と簡単に反駁されるはずはないのですが、そういった張り切りをみせる方もいらっしゃるようで、会社も現代の猛者に一苦労なのでしょう。

私がサラリーマンを20年やって思ったことは自分の所属している組織と関連組織との連携性が全てであり、企業では決して個人プレーでは動かないという点です。故にサラリーマンになった以上、所属部署の成績向上のためのチームワークが全てであり、和を重んじなければ会社は動かないのです。ところが一人っ子が増え、怒られることを知らない世代となる中でチームワークができず、個人プレイや自己都合が前面に出るケースもあります。「なんでこんな時に休むの!」と言いたくなるような欠勤届も「体調が悪いのに働けっていうのですか?」と言われれば現代社会ではぐうの根も出ません。

「なぜ働くのだろう」といえば私は「天照大神が天から降りてきたら日本の神々は皆仕事をしていた、神様だって働く国なら私はその何倍も働くのが道理だ」といっても「はぁ?」と言われるのがオチ。そこで思いだしたのが80年代のアメリカ人も働かなかったよなぁ、という点。日本は高品質な労働力を抱えているというけれど年間就労時間は相当下がりました。中国、韓国との差のみでありません。アメリカの管理職は何時クビ切りがあるかわからない中で得た高額報酬の仕事は必死でこなすので労働時間は極めて長いです。

いやそれだけではありません。日本の管理職は「残業をさせるのは上司の管理上、マイナス点だ」と言われ、部下を定時で帰らせ、上司は残業に週末出勤でへたっています。それを見た部下が「僕、管理職にはなりたくないな」では冗談にもなりません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年4月2日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。

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