
AscentXmedia/iStock
「識学」とは、組織内の誤解や錯覚がどのように発生し、どのように解決できるか、その方法を明らかにした学問です。
今回は、「若手リーダー」に向けた刺激的なマネジメント論を紹介します。
「リーダーの仮面」(安藤広大著)ダイヤモンド社
[本書の評価]★★★★★(90点)
【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
部下を褒めることの違和感とは
現代のマネジメント手法の多くは、上司と部下のコミュニケーションを中心に据えています。多くの研修プログラムや書籍もこの考え方に基づいており、しばしば山本五十六の名言「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」が引用されます。
しかし、この言葉が生まれた戦時中の環境は、現代の職場環境とは大きく異なります。当時の軍隊では厳格な階級制度があり、部下が上官に逆らうことは不可能でした。そのため、この格言を現代のビジネス環境にそのまま適用すると、違和感が生じるのは当然と言えるでしょう。
「褒める」マネジメントに違和感を覚える理由はいくつか考えられます。過度な称賛は真の評価を曖昧にし、部下が改善すべき点を見逃す可能性があります。また、不適切な褒め方は偽善的と受け取られ、モチベーション低下を招くことがあります。
効果的な「褒める」とは、具体的な行動や成果に基づいた質の高いフィードバックです。単に相手を操作するための手段として用いると、部下はすぐに見抜いてしまいます。
真の効果を生むためには、信頼関係に基づいたものでなければなりません。さらに、個々の価値観や性格に応じたアプローチが必要であり、すべての状況で「褒める」ことが最適とは限りません。
確かに「褒める」ことがモチベーションの源泉になる場合もありますが、自己成長、達成感、社会貢献など、他の要因を重視する人も多くいます。「褒める」は外発的動機付けであり、内側から湧き上がる意欲(内発的動機付け)を阻害し、逆効果になることもあります。
また、「褒める」ことが部下の成長を妨げる可能性や、特定の部下だけを賞賛することで生じる不公平感が、チーム全体のモチベーション低下につながることもあります。
部下を簡単に褒めてはいけない
安藤社長は部下を褒めることの問題点について、次のように指摘しています。
「部下を全く褒めないというわけではありません。しかし、必要以上に褒めすぎると、部下は誤った認識を持ってしまい、長期的には成長の妨げになります。また、過度に褒める上司のチームは、継続的な競争力を維持するのが難しくなるでしょう」
安藤社長は具体例を挙げて、この問題をわかりやすく説明します。上司からの褒め言葉が部下の思考にどう影響するかを考えてみましょう。
「売上100%達成か。すごいね、よく頑張ったな!」
このような褒め言葉を受けた部下は、「このチームでは売上100%の達成は特別なこと」と認識し、それが当然の目標ではないという誤った基準を内面化してしまうのです。
「上司が売上100%達成を褒めることで、『あたり前』の基準がそれよりも低いレベルに設定されてしまいます。つまり、褒められる行動は特別なこととなり、それ以下が日常的な期待値になってしまうでしょう」(安藤社長)
「このように、頻繁に褒めることを習慣とする上司の組織では、『あたり前』とされる基準が徐々に下がっていってしまいます。結果として、組織全体の期待値と実力が低下していくことになるのです」(同)
部下を不必要に褒めることは避けるべきです。なぜなら、過度な褒め言葉は部下が認識する「あたり前の基準」を引き下げてしまうからです。
部下の将来の成長を考えるなら、上司がすべきことは必要以上に褒めないことです。褒めるタイミングは、部下の成果が上司の考える「あたり前の基準」を大幅に上回った場合に限定しましょう。
さて、あなたの会社の「褒める」は正しいですか?
<識学安藤社長との対談から学ぶマネジメント論>
2025年4月1日に識学にて安藤社長と対談をしました。本稿は対談時のやり取りを記事化したものですが、読みやすいようにアレンジを加えています。

右:安藤社長、左:筆者 於:株式会社識学にて
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
■
2年振りに22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)








