無知の悲劇?本も読まずに批判する愚かさについて

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(前回:炎上の背景と本質を探る:『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』

神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(三笠書房刊)をめぐる発売前騒動は、現代社会の病理を如実に表しています。最も顕著なのは、批判者の大半が本書を一行も読んでいないという事実です。彼らは出版前の書籍に対して、タイトルだけを見て「これは差別だ」と決めつけ、感情的な攻撃を繰り広げています。

「読んでいない本を批判する」という究極の愚行

批判者たちは本を読まずに著者や出版社の意図を完全に曲解し、非難の大合唱を始めています。これは中世の魔女狩りと同じく、内容も確認せずに集団ヒステリーによって特定の対象を「悪」と決めつける行為です。

知的に誠実な人間なら、批判する前にまず対象を理解しようと努めるはずです。本を読まずに批判するということは、「私は無知ですが、それでも意見を言う権利があります」と宣言しているようなものであり、そのような無責任な発言に価値はありません。

実際に本書を読むと、著者の意図が誤解されていることは一目瞭然です。本書は「困った人」を排除するためのマニュアルではなく、多様な特性を持つ人々との効果的なコミュニケーション方法を提案するものです。三笠書房の公式見解にもあるように、本書は「理解を深めるもの」として企画されています。

もちろん、「困った人」という表現の選択には議論の余地があるでしょう。しかし、その一点のみを取り上げて著者の意図全体を否定することは短絡的です。本を読まずに「この著者は差別主義者だ」と決めつけることは、著者に対する差別行為ではないでしょうか。

「正義の仮面」を被った批判者の自己矛盾

この騒動で嘲笑すべきは、「社会正義の戦士」を自任する批判者たちの滑稽な自己矛盾です。彼らは「差別をなくせ」と叫びながら、相手を一方的に悪者に仕立て上げるという差別的な行為を平然と行っています。

批判者たちは自分の行為を「弱者を守るため」と正当化していますが、実際には単なる自己満足です。もし本当に当事者のことを考えているなら、まず本を読み、その上で建設的な対話を行うはずです。

さらに皮肉なのは、彼らの行為が発達障害を含む多様な特性についての理解を深めるための議論そのものをタブー視させ、結果的に当事者に不利益をもたらしていることです。

結論:無知と偽善を超えて

この書籍をめぐる騒動は、現代社会における議論の劣化を象徴しています。本を読まずに批判するという愚かさ、「正義」の名を借りた自己満足的な攻撃、そして批判の結果として当事者理解がむしろ阻害されるという皮肉です。

この状況を乗り越えるためには、批判する前に本を読み内容を理解すること、感情的な叩きではなく建設的な提案をすること、そして自分が「正義の側」にいるという思い込みを疑ってみること。SNSでの軽率な批判に参加する前に、「自分は本当にこの本を読んだのか?」と、冷静に問い直すべきです。

読まずに批判するという知的怠慢から脱却し、真に建設的な対話を通じて社会を前進させる—それこそが、この騒動から学ぶべき教訓です。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(神田裕子著)三笠書房

[本書の評価]★★★★★(90点)

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★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
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★★★  「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★   「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★    「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満

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