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(前回:炎上する「職場の困った人」をめぐる書籍と議論に関する考察)
今回紹介する『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(神田裕子著・三笠書房刊)は出版前にもかかわらず炎上騒動に巻き込まれた。版元の三笠書房も公式見解を公表している。
私にはジャーナリストとして公平な立場で取材を行うことが求められる。本書を入手したので解説したい。
【三笠書房の公式見解】
神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』について
本書の内容例
本書では、職場でのコミュニケーション上の問題について具体例を挙げながら解説している。例えば以下のような事例が紹介されている。
品質管理の業務に携わるAさんは、取締役にもタメ口を使い、商談の場に不適切な服装で現れるなど、社内で「変わった人」と見られていた。著者は、この事例について「ASDの傾向がある人」という観点から解説し、対応方法として専門家のアドバイスを参考にするよう勧めている。
「取引先に不適切な格好で行こうとするのも、自分にベクトルが向いているからです」と著者は説明し、「ASDの傾向がある人は、平等意識に長けていて正義の味方でいる半面、権威に弱い傾向があります」と続けている。著者は、このような人物に対して専門家が書いたマナー本を渡したり、専門家の研修を受けるよう勧めたりする方法が有効だとも述べている。
この本が炎上した主な理由は、発達障害などの特性を持つ人々を「困った人」と表現したことにある。複数の障害者支援団体が、本書の表現が障害者への偏見を助長する可能性を指摘した。
多様な視点からの考察
本書の内容については、当事者の視点も含めた多角的な視点から読み解くことが重要だ。職場での多様性を理解し、適切なコミュニケーション方法を模索するための議論は必要だが、その表現方法には配慮が求められる。
障害者関連団体が懸念を表明することには妥当な理由がある。一方で、メディアや出版業界の反応には様々な見解がある。「困った人」という表現が適切かどうかという議論よりも、批判・擁護の二項対立に陥っている面もあるように思われる。
社会の変化とともに言葉の意味や受け止められ方も変わってきている。私(この記事の筆者)は40年以上障害者支援活動に携わってきたが、障害に関する表現の扱いは年々慎重になってきていると実感している。これは社会的配慮として重要な変化でもある。
一方で、社会的配慮として特定の表現を避けることと、その言葉が実際に当事者にどのように受け止められているかは、必ずしも一致しないケースもある。当事者の間でも多様な意見があることを認識する必要がある。
私が読んだ感想
私が実際に読んだ印象としては、障害者差別を意図的に助長するような内容ではないことが理解できる。この件を通じて、発達障害などの特性についての理解を深め、より適切な表現方法を模索する機会となることを願う。
単純な批判ではなく、なぜこのような表現が問題視されるのか、どのような表現が望ましいのか、そして職場における多様性の理解をどう深めていくかという建設的な議論が必要である。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(神田裕子著)三笠書房
[本書の評価]★★★★★(90点)
【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
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