「怒らない人=優しい人」ではない

黒坂岳央です。

昔の自分は、瞬間湯沸かし器タイプだった。学校では「お前 舐めとったらしばくぞ!」とヤンキーみたいな人間もおり、あちこちで火花バチバチの環境で育ったので、「腹が立ったら感情を爆発させるのは当たり前」という感覚だった。

ところが今は違う。歳を重ね、仕事や家族を抱え、怒らない人格を後天的に“獲得”した。付き合う人のレベルも変わり、周囲にも“絶対に怒らない人”が増えたように思う。

一般的に「怒らない人=優しい人」と考えられがちだがそれは違う。怒らないことと優しさは、似て非なる概念だ。それはアメリカの組織心理学のレビュー、Barsade & Gibson, 2007でも「感情の抑制」と「親切行動」はまったく別の回路で作動すると指摘されている。

guirong hao/iStock

怒らない人は無関心

人は関係性が近い相手ほど感情を出すし、無関心な相手には出さない。理由はシンプルで、相手との距離が遠すぎると感情が発火しないからだ。

たとえば意見発信者はアンチコメントにイチイチ怒りを見せたりしないことからもそれが分かる。自分はインフルエンサーと呼べるほど影響力はないが、それでもメディア出演や記事、動画に対してそこそこ攻撃的なメッセージを受け取る立場である。

自分の発信内容に明確な間違いなどを指摘してくれる意見には感謝とともに善処する旨回答をすることもあるが、基本的に攻撃的なメッセージには一切反応しないし、感情もまったく動かない。

仮に家族や友達といった関係性の深い相手から攻撃的に言われたら自分も対応するが、初対面でいきなり食って掛かるような相手に強い関心を持つのは難しい。故に怒りも湧いてこないのだ。

怒らない人は忙しい

怒りを伝えて相手に理解させる、一連のプロセスには時間がかかる。仕事や家庭やらでやることがたくさんある忙しい人はイチイチ怒りというタスクに時間を使いたくないという価値観を持っている。

自分も仕事と家庭で毎日たくさんのタスクがあるので、怒って感情をスッキリさせるのは贅沢品で、時間がもったいなくて使えないという感覚がある。

上述したように攻撃してくる相手に反応しないというだけでなく、胸糞悪くなるような悲劇的なニュースも見ない。付き合って不快にさせられる相手とも関わらない。時間がもったいないからだ。

自分に限らず、忙しい人は怒らない。

怒らない人は怒りはムダと考える

まるで悟りを開いたような話に聞こえるかもしれないが、怒りというのは基本的にムダな感情だと思っている。

スタンフォード大学の研究によると、怒りが持続すると判断力をつかさどる前頭前野の活動が一時的に鈍るという結果もある。

人間関係についていえば、怒らずとも対話して相手と意見交換をして解決すればいい。もしも対話ができないなら自分の落ち度で関わる相手を間違えているので、反省して静かに相手から距離を取ればいいのだ。

怒りは利益ではなく、常にコストである。怒りには必ず対象が必要となるので、その相手に振り上げた拳をおろし、やりすぎたら落ち込んだ相手の精神的フォローをし、下手をすると社会的に超えてはいけないラインを超えてしまうことだってある。

つまり、最初から最後まで時間やエネルギーという資源を手出し一方なのだ。だから可能な限り、人生から排除するに越したことはない。

それでも怒りを使う場面があるとすれば?

怒りという感情は多くの場合、相手を動かす道具として機能する。親が子供に「片付けなさい」と怖い顔をするのは、心の底から腸が煮えくり返っているというより子供に片付けという行為をさせるためだ。

長い対話をスキップして怒り一つで相手を動かせるなら低コストに思える。だから話し合いの代わりに怒りを選択する人は多い。

だが、実際はそうではない。怒りは繰り返し見せると慣れるし、「手までは出してこない」と逆に舐められることすらある。だから怒りは伝家の宝刀で、頻繁に抜いてはいけないのだ。

忙しい現代人にとって、怒りは「最もコスパの悪い感情」だ。無闇に怒らず、「怒る必要があるか?」と立ち止まる習慣を持つことには価値があるだろう。

 

■最新刊絶賛発売中!

[黒坂 岳央]のスキマ時間・1万円で始められる リスクをとらない起業術 (大和出版)

アバター画像
働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。