前回の記事では、今参議院議員選挙で急浮上した「外国人政策」をめぐり、3つの論点を整理した。

今回はそのうちの1点、「報道における制度的視点の欠如」を取り上げ、各党の外国人政策報道に見られる問題点を指摘したい。

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報道における3つの問題点
報道各社に欠けているのは、制度の構造や実務運用を深く掘り下げる視点である。大きく分けて以下の3点に要約できる。
感情的フレーミングの優先
「ナチスの歴史を忘れるな」「差別の扇動」といった強い言葉で締めくくる定型構成が多い。
その結果、政策の中身よりも視聴者の感情や空気感に訴え、政党評価が印象論に終始しがちだ。
制度の構造的分析の欠如
労働力不足の推計、外国人就業者の分野別分布、制度の変遷などのデータをほとんど報じない。
「外国人が増えている」という事実は伝えても、「なぜ増えているのか」「どこで必要とされているのか」が語られないため、政策の必要性が見えにくい。
政党間比較の浅さ
各党の主張を「排外的か否か」で分類しがちで、運用面の違いや制度設計の工夫があいまいにされる。
たとえば維新と参政党はともに「規制強化」を掲げるが、司令塔機能の考え方や運用方法は異なるにもかかわらず、その違いがほとんど報じられない。
取材リソースの制約を乗り越える工夫
テレビも新聞も報道リソースには限りがある。だからといって、視聴者・読者に対して「深く理解させる」努力を放棄していいわけではない。
たとえば、
- 報道の枠内では結論を簡潔に示し、詳細はウェブで公開する
- データや図表をオンラインで補足し、視聴者が自由に掘り下げられる仕組みを整備する
などの手法を組み合わせれば、限られた時間・紙面でも「構造的分析」や「政党間比較の深掘り」は十分に可能だ。
感情的報道による陳腐化を回避すべき
多くのニュース番組や記事は、政党の過激な表現を抜き出し、定型の専門家コメント──特に「ナチス」の話──で締める構成を繰り返している。この形式はすでに陳腐化しており、一部の視聴者からは「マスゴミ仕草(既視感のある定型的手法)」と揶揄されるに至っている。
候補者の選挙演説等の過激性を報道することに意味はあるが、制度論をないがしろにしてひたすらに右傾化に警鐘を鳴らすだけの報道姿勢は、一つの偏向報道の在り方ととらえられてしまうという問題にも気づくべきだろう。
有益な選挙報道に必要な5つの要素
今、外国人政策をめぐる報道が真に選挙民の判断材料となるためには、以下の構成を備えるべきだ。
- 前提の提示:労働力不足の推計、外国人就業者の分布、制度の変遷を簡潔に示す
- 政策の分解:目的(治安・経済・人権)と手段(規制・支援・教育)を明確に分離する
- 政党間比較:理念だけでなく、具体的な制度設計や運用方針の違いを並べて解説する
- 国際比較:日本の制度が諸外国と比べてどの位置にあるのかを示す
- 当事者の声:外国人労働者、雇用主、自治体、地域住民など、多様な立場の声を並列で紹介する
報道機関は、候補者を直接取材できる立場にあると同時に、選挙民に「納得できる投票行動」を促す情報提供の責務を負っている。選挙戦最終盤を迎えた今だからこそ、各社には改めて自社の報道姿勢を点検し、「制度的視点」を取り戻すことを強く求めたい。






