黒坂岳央です。
マイホームは、かつて「一度きりの人生最大の買い物」とされてきた。終の棲家として、ローンを完済するまで30年、そこからは年金で暮らすというのが昭和・平成時代の住宅観である。だが、令和の今、この価値観が変わり始めている。
もはやマイホームは一生に一度の買い物ではない。人生のフェーズごとに住み替え、買い替えることが自然で合理的な時代に突入したのだ。

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マイホームが「資産」になった令和
この背景にはインフレと金融環境の変化がある。物価がじわじわと上昇する中、住宅ローン金利は依然として低水準にとどまっている。これは、家を買うことでインフレヘッジが可能になっていることを意味する。
たとえば、固定金利で住宅ローンを組めば、今後の物価上昇によって実質負担が軽くなっていく。一方で、賃貸で暮らし続ける場合は、インフレとともに家賃も上がる可能性が高い。これは住宅ローンと家賃の「逆転現象」である。
さらに注目すべきは「イールドギャップ」である。住宅ローンの金利が1%以下で借りられる一方、金融資産のリターンが年3〜5%以上出るとすれば、差分で資産を増やすことも可能だ。つまり、住宅ローンは「借金」ではなく、「レバレッジを効かせた資産形成ツール」として再定義されつつある。
過去30年間はこの真逆にデフレだった。デフレ経済では現金貯金がベストな選択肢で「借金は悪」である。しかし、もう時代は変わったのだ。
ライフステージに応じて住み替えるという発想
家を持つことがゴールではない。むしろ、人生の各段階に合わせて「住む場所・広さ・立地・機能性」を変えていくほうが、合理的かつ快適な暮らしに近づけるのだ。
実際、筆者も現在進めている家の購入は、子どもがのびのびと暮らせる快適空間を意識しての選択である。だが、その子どもが独立したら、その広すぎる家を持て余すのは明白だ。将来はその段階で家を売却し、新たな生活に合った住まいへと買い替えるつもりである。
つまり、「買い直す前提」で住宅を選んでいる。リセールバリュー(売却時の価値)を意識し、将来の流動性や市場性も計算に入れて購入を決めている。これが令和の住宅戦略なのである。
住宅に限らず、モノの所有の価値観も同様に変化している。すでに家以外でもこの現象は当たり前になった。車、スマホ、パソコンなどは「古くなったらメルカリで売却し、その資金でまた買い直す」というリセール前提戦略を考えている人は昔に比べて随分増えたはずだ。
買い替える前提で買う
「何度も家を買い替えるのは、手数料や税金がもったいない」との意見もあるだろう。確かに、売却時には仲介手数料や譲渡所得税などのコストが発生する。筆者も何度も新しい家の購入時にこの点、そろばんを弾いた。だが、それを上回る資産価値の上昇や、生活の質の向上が見込める場合、それらは必要経費にすぎない。「トータルだと経済的にもQOL的にも得」という構図はそれほど難しくはない。
また、「不動産価格が下がったらどうするのか」という懸念もある。これに対しては、資産価値の下落リスクが少ない立地を選ぶこと、買うときに「出口戦略」を明確に持つことで対応が可能だ。そもそも、日本の不動産価格は全国平均では停滞気味でも、都市部の優良立地においては上昇傾向にあるのが現実だ。人口減少の中でも、価値のあるエリアは今後も残り続ける。
もちろん、「一生住む家がほしい」という価値観も否定されるものではない。だが、柔軟に住まいを見直すという選択肢があることは、これからの時代を生きるうえで大きな武器になるだろう。
◇
これからの住宅購入は、「買って終わり」ではない。「いずれ売る」「貸す」「住み替える」可能性を含んだ設計であるべきだ。だからこそ、購入時点で将来の出口戦略を考える視点が重要になる。
「マイホームは一生に一度」というこれまでの感覚は終わりを告げた。その先には、より自由で合理的な住まいと暮らしが待っているのだ。
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