黒坂岳央です。
「世の中コネ」と聞いて、多くの人は眉をひそめるだろう。何より、自分自身が昔はそうした運要素をとても嫌っていた。
縁故採用、天下り、裏口入学など、そうした負のイメージは今も強く残っている。一部において地方の家族経営の企業や、親の地位や出身校のつながりなど、生得的な人脈が力を持つ場面も確かにある。
だが、現代社会におけるコネの多くはそうした特権的なものではない。実際には、日々の行動と信用の積み重ねによって、誰でも構築し得る戦略的資産なのだ。

Jacob Wackerhausen/iStock
コネは実力で作るもの
「アメリカは実力主義社会」とよく言われる。たしかに飛び抜けたスキルや成果があれば評価されやすい風土ではある。だが、その実態は「コネ社会」と言っても過言ではない。
米国労働省の調査によれば、求人全体のうち約70%が「非公開求人」であり、その多くがネットワーキングや内部推薦(リファラル)を通じて埋められている。また、LinkedInの調査でも、企業が最も信頼する採用経路は「社員の紹介」であり、書類選考を通過する確率は通常の応募者より約9倍高い。
つまり、実力があっても「紹介されない人材」は評価される場にすら立てず、逆に強固な人脈があれば多少スキルに劣ってもチャンスを得られるのが現実である。
外資系転職でもリファレンスチェックといって、前職の上司などに「本人の働きぶりを確認する」ということは珍しくない。そのため、やめ方を間違えると上司や同僚に酷評されてしまい、そうなると転職ができない。昨今、日本で受け入れられる「退職代行」なんて使って強引に退職してしまえば悪評がついて転職は難しいだろう。
筆者自身、昔MBAに出願した際、推薦状が必要と言われて愕然とした経験がある。自分は勤務先のCFOに推薦を依頼し、快く引き受けてもらった(結局入学はしなかったが)。CFOとは日常的に仕事で深く付き合いがあり、二人で飲み会に行くなど信頼の積み重ねがあった。推薦状はその結果だと思っている。
日本でもコネは大事
一方の日本はどうか。「人に頼らず、職人気質に一人で勝負することが美徳」とされがちだが、ビジネスの実態はむしろ逆である。特に法人営業、出版、広告、メディア業界などでは、「信頼ある担当者との関係性」が取引継続の鍵を握っている。
筆者は独立したばかりの駆け出しの頃、正直コネを軽視していた。「人脈形成などに勤しむ暇があれば一人で努力して仕事をするべきだ」という青い考えがあった。
しかし、その後働いて仕事を得る中で出版社やテレビ局、Webメディアなど多数の取引先と関係を築いてきたが、その多くは「信頼できる編集者」とのやり取りを通じて継続的に仕事を得てきたものである。仮に毎回、初対面の相手に企画書を送っていたとすれば、結果はまったく異なっていたに違いない。
また、自主開催セミナーなどの集客において、筆者は記事やYouTubeでの情報発信による「関係性の蓄積」が効いていると感じる。仮に無名の主催者としていきなりイベントを開いても、間違いなく誰一人来ない。
日頃の発信を通じて信頼を得た上での集客こそが、現代のリアルな集客モデルだ。これも見方を変えた「コネ」であり、日頃の信頼構築があって初めて仕事は成り立つ。
「面倒なしがらみが嫌で起業」みたいな意見をよく見るが、むしろ自分で仕事を取り続けなければいけない独立ほどコネは重要だ。
ビジネスは信用の積み重ね
「GIVE & TAKE」という書籍では、与える人(ギバー)こそが長期的に成功するとされている。コネもまた、他者に価値を提供し続ける中で自然と形成される。「自分にとって得か損か」で動くテイカー(奪う人)では、信頼は得られず、長期的には機会を失う。
コネは実は誰でも作ることができる。その第一歩は、「困っている目の前の相手に価値を提供する」という小さな行動の積み重ねである。
たとえばこのようなビジネス記事を書いて「今度イベントをします」と告知すれば、読者の一部ははるばる会いに来てくれる。しかしただなんでも書けばいいというわけではなく、読者の悩みを解決するような価値を感じてもらえる記事であることが大前提だ。
◇
「コネ=ズル」とする固定観念は、もはや時代遅れで独りよがりなズレた考え方である。現代社会において、コネとは努力で築く信頼ネットワークであり、誰もが手にできる公平な資産だ。コネの否定は信頼構築をせず、利益だけ得たいという社会性を欠如した自分本意な考え方とすら言える。
成功とは、個人のスペックではなく、「誰とつながり、誰に信頼されているか」によって決まるのだ。
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