8月2日の「今週のつぶやき」でも申し上げたようにアメリカの雇用統計で5月、6月分について修正がなされました。その修正が度肝を抜いたのです。5月分は14.4万人増から1.9万人増へ、6月分は14.7万人から1.4万人増に下方修正です。
私はこの雇用統計を過去20年以上欠かさず注目しています。過去2か月分の修正は以前からごく普通に行われてきたのですが、それは修正や調整の域でありました。ところが今回修正の結果、5月分の雇用者数は7分の1以下、6月分は10分の1以下になっているのです。
こんなのはだまし討ちとしか言いようがなく、トランプ氏が激怒して統計局局長を即日解雇したくなる気持ちはわかりますが、根拠を示さずそのような判断をしたのは蛮行と言われそうです。(トランプ氏に言わせれば統計のばらつきが生じる原因を発見、修正できなかった局長の能力に問題があると論点をすり替えるでしょうけれど。)
この統計資料レベルでは中国の方がまだまし、ともいえる状況であります。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
私としても局長のクビよりもなぜこれほどの大修正がなされたのかそこが知りたい点です。アメリカ統計局の今回のレポートを拝見する限り、修正についてはRevisions for May and June were larger than normalとあり、その説明についてはMonthly revisions result from additional reports received from businesses and government agenciesとだけあり、具体的にはなんら理由が記されておりません。マスク氏旋風が吹き荒れたDOGEの影響ですが、 Federal government employment continued to decline in July (-12,000) and is down by 84,000 since reaching a peak in January. とあり、5-6月に政府関連者が大量に解雇されたとは読めないのです。
では統計局長が改ざんや政治的理由による調整が行えるようなものなのか、一応、私なりに探ってみましたが、計算方法は高度な計算式の上に成り立っており、その与件を変えない限り小手先の修正はできないように見えます。ということは統計データ発表後に計算データの基準となる民間企業約13万社と67万の政府機関事務所の一部から修正報告がなされたと想定するのが妥当かと思います。もう1つはデータ提出期限に間に合わなかった企業が多く生じ、遅れて出した数字によくないものが多くあり、統計のぶれが生まれた可能性もあります。もしも企業部門でストライキなどが起きるとその数字は反映されるのですが、このところ大規模なストライキが起きていたという報道はなかったはずです。
では表面に表れない修正ですが、私の想定は雇用の自然減に対して補充採用がかかっていないのではないかと思ってます。失業率の細かい分析を見ると27週間以上失業している人はこの1年で18%増加しており、企業がトランプ関税に関してその先行きの見通しが立てられない状態にある、これが答えではないかとみています。もう一つの可能性はトランプ氏が不法外国人労働者を追い出した結果、正当な外国人労働者も何らかの理由で職を離れた可能性もあるかもしれません。
ではFRBはどうするのでしょうか?パウエル氏は先週、不動の姿勢を見せましたが、さすがこの統計局の発表は青天の霹靂ではないかと思います。そして7月度の雇用も10万人に達しておらず雇用の健全性は保たれていないと言えます。
ただ、その究極の原因はトランプ氏の関税や移民政策にあり、金利を引き下げても雇用は戻らない可能性が出てきます。企業は様子見を続けるでしょうし、政府部門の雇用が増える状況にもないと考えます。とすれば雇用市場だけ見ればContraction つまり収縮が起きておりpoint of no return (引き返し不能)となりつつある懸念があります。
アメリカの消費支出データをみると伸び率がトランプ氏の2つの政策が表面化する前までは伸び率は概ね0.4%程度だったものが4月0.2%増,5月0.0%、6月0.3%と確実に下がっており、消費者に消費力が無くなってきているように見えますし、本来であれば関税引き上げ前の駆け込み消費があったはずですがそれもないのです。
ということは8月にトランプ関税が本格的に施行されることで企業業績及び個人の景観は秋に向けて悪化すると見たほうがよく、仮にパウエル氏が9月に金利を下げたぐらいでは効果は薄いという風に読めます。
まずはジャクソンホールでパウエル氏がどのようなコメントをするのか着目するしかありません。ただし、私の予想では氏は「9月に発表される8月の雇用統計がどのようなものになるか見たい」といいながら自分の気に入るデータが出てくるのをひたすら待つ気ではないかという気がします。
もちろん芳しい姿勢ではないことはたしかでトランプ氏がパウエル氏に激怒しているのもわかります。だけど本当に悪いのはトランプ氏なんですけどね。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年8月5日の記事より転載させていただきました。






