モルドバで28日、議会選の投開票が行われ、マイア・サンドゥ大統領の与党「行動と連帯」(PAS)が過半数を獲得した。同国選挙管理委員会が29日早朝公表した選挙結果(開票率99.9%)によると、親欧州派政党PASが得票率約50.1%と過半数を獲得する一方、親ロシア派の野党連合「愛国選挙ブロック」は約24.2%となり、PASは議会(定数101)で55議席を獲得、野党連合は26議席に留まる。投票結果を受け、サンドゥ大統領が主導する親欧州派は欧州連合(EU)への統合政策を一層進めることが予想される。一方、親ロシア派は29日、サンドゥ政権に抗議する大規模なデモを予定している。

欧州議会でスピーチするサンドゥ大統領 2025年9月9日 モルドバ大統領府公式サイトから
選挙ではその他、キシナウ市長のイオン・チェバン氏が率いる「オルタナティブ」連合が約8%の得票率で第3党、実業家レナト・ウサティ氏の「われらの党」が約6.2%の得票率で議会に進出した。また、これまで全くの無名だったヴァシレ・コスティウク氏が率いる右派政党「国内民主主義党」(PPDA)が、約5.6%の得票率で議会進出に必要な5%のハードルをクリアした。投票率は約52%で、2021年(48%)を上回った。
今回の議会選は同国の未来の方向性を決定するものとして、EUのブリュッセルもその行方を注視してきた。選挙戦では、ロシアからの選挙干渉が表面化し、サンドゥ大統領はロシアと親ロシア派勢力による票の買収、ソーシャルメディア上の偽情報、サイバー攻撃を批判してきた。一方、モスクワは首都キシナウの指導部による選挙操作、親ロシア政党の排除などを非難してきた。
サンドゥ大統領は選挙戦では「未来を決めるのは、モスクワではなくモルドバ国民だ。私たちは過去3年間で大きな進歩を遂げてきた。モルドバは10年後にはEUに加盟できると確信している」と国民に呼びかけた。ちなみに、同国は2022年にEU加盟候補国となった。昨年の国民投票では、僅差で過半数でEU加盟が支持された。
モルドバは人口240万人、そのうち約100万人が国外に居住している。国外在住の有権者は選挙に大きな影響を有している。多くはイタリアに住み、親欧州派の国民だ。
一方、親ロシア派の社会党党首で元大統領のイゴル・ドドン氏は「我々こそ明らかに選挙に勝利した」と主張し、、親ロシアの支持者に対し、抗議デモへの参加を呼びかけた。モルドバ当局は、騒乱や暴動を懸念し、警戒態勢を敷いている。
ところで、モルドバの東部トランスニストリア地方は親ロシア勢力が実質的支配する「沿ドニエストル共和国」が存在する。同地方はウクライナ南部のオデッサ地方と国境を接し、モルドバ全体の約12%を占める領土を有する。同地方にはモルドバ人(ルーマニア人)、ロシア系、そしてウクライナ系住民の3民族が住んでいる。
なお、同地域には1200人から1500人のロシア兵士が駐在し、1万人から1万5000人のロシア系民兵が駐留。ロシア系分離主義者は「沿ドニエストル共和国」を宣言し、首都をティラスポリに設置し、独自の政治、経済体制を敷いている。状況はウクライナ東部に酷似している。ロシアのプーチン大統領はモルドバを親ロシア国家に留めたいため、モルドバの少数民族ロシア系住民の権利を守るという名目でロシア軍をいつ派遣しても不思議ではない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






