もはや資産1億円の「億り人」ではFIREできない

「億り人」という造語があります。投資で資産1億円を稼いだ人のことを羨望の気持ちを込めてこう呼んでいます。

しかし、最近のインフレで1億円は羨むほどの大金ではなくなり、投資家の目標というより単なる通過点のような中途半端な金額になってしまいました。

例えば、東京の中心部の港区のマンション価格は中古の70平米程度の物件でも3億円を超えるのが当たり前になつています。今朝のチラシに入っていた勝どきの物件も、70平米程度で2億円弱です(写真)。

もはや1億円では都心のそこそこの広さの中古マンションすら買えないのです。

賃貸にしても家賃が上がっていて、50万円くらい出さないと家族全員で都心には住めません。年収1,000万円では都心ではまともな暮らしができなくなってしまいました。

資産運用の世界では、以前FIREがブームになりました。FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった造語で、経済的に自立し、早期に仕事をリタイアするライフスタイルのことです。

しかし、FIREした時の経済環境から今は大きく変化しています。保有している資産だけをあてにして、早期リタイアした人たちは今後悔していることと思います。

円の価値がどんどん下がっていく中で、保有している円資産や円のインカム収入の実質的な価値が低下しています。

本気でFIREしたいなら、最低でも3億円くらいの資産を保有しないと安心できません。いや、これからさらにインフレが加速すれば、それでも不十分かもしれません。

不確定な要因が増えている現状の経済情勢で過去の資産の蓄積から将来の経済的な豊かさを確保することは今までになく難しくなっています。

少なくともこれからFIREしようとする人はくれぐれも慎重に判断することです。そして、既にFIREしてしまった人はこれからのライフスタイルを現実的に考え、必要であれば再度仕事に就いて収入の確保に努めるべきです。

mapo/iStock


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年10月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。