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なぜここまで日本では消費税が嫌われるのか?
消費税と仕組みの同じ「付加価値税」(VAT)は、世界で広く導入がされていますが、なぜか、日本では、この消費税がやたらと嫌われています。
その理由は何かというと、少なくとも税率が高いということではなさそう。
というもの、ヨーロッパなどでは、日本よりも遥かにその税率が高い国も多いです。
消費税に対する批判として、低所得者層ほどその負担率が高いとの声も聞かれます。
しかし、短期的には、低所得層の負担割合が大きく「逆進的に見える」ものの、ライフサイクル全体や給付を含めた再分配を考えると「それほど強い逆進性はない」というほうが経済学者の共通認識に近いといわれています。
仮に逆進性があったとしても、それは付加価値税が導入されている国ならばどこも一緒。
それに、日本では低所得者層のみならず、お金持ちの多くは消費税が大嫌いです。
では、なぜ、日本では、ここまで消費税が忌み嫌われるのか。
今回は、その理由を消費税導入時の背景から考えて見ることにします。
付加価値税導入は苦難の道
1950年のシャウプ勧告(GHQの財政調査団報告)では、「直接税中心主義」が打ち出され、所得税・法人税が税収の柱とされました。
しかし、高度経済成長後、景気変動に左右されやすい直接税依存が問題視され、安定的な間接税の必要性が議論されるように。
そこで、以下のような、大型間接税の導入が試みたものの、その都度、白紙撤回に追い込まれたり、導入を目指した与党が大きく議席を減らすということになったのです。
(1)1979年:大平内閣「一般消費税」構想
大平正芳内閣が「一般消費税」(売上に一律課税する方式)を提案。税率は5%程度を想定し、安定財源確保を目指しました。
しかし、与野党・世論から「庶民大増税」と猛反発を受け、79年の衆院選で大敗し、この一般消費税案は白紙撤回されました。
(2)1987年:中曽根内閣「売上税」構想
中曽根康弘内閣の竹下登大蔵大臣が「売上税」を提案。消費段階だけでなく、事業者間取引にも課税する制度設計で、実質的には消費税(VAT)に近い仕組みに。
しかし、業界団体や中小事業者から「多段階での課税は事務負担が大きすぎる」と猛反発。わずか3か月で撤回され、導入は頓挫しました。
(3)1989年:竹下内閣で消費税導入
中曽根内閣で頓挫した後、竹下登内閣が再挑戦。
支払先が納税しているのか確認(インボイス)を不要とするなど、”補助輪つき”ともいえる消費税(VAT型) を導入。
税率は 3%。課税ベースは広く、一律課税でした。
たった3%の税率でも、導入には猛反対。
既に二度の大型間接税導入に失敗していたため、今度こそ、とにかく導入をするのだという考えから、自民党の支持基盤でもある中小事業者の負担を軽減しようと、以下のような、今から考えると過分なほどの措置が講じられました。
免税措置
基準期間(二期間前)の課税売上高が3,000万円以下の事業者は納税義務なし
簡易課税制度
基準期間(二期間前)の課税売上高が5億円以下の事業者は、概算のみなし仕入率による納税額の計算が可能
これで大半の中小事業者は、面倒な事務負担はほぼなし。
そのみなし仕入率も卸売業90%、その他80%とラフで、控除額は実際の支払よりも大きいことも。
限界控除制度
当期の課税売上高が6000万円未満の事業者は、税負担が緩やかに発生するよう負担軽減
仕入税額控除
課税の重複を排除するための控除なのに、事務負担軽減のため、相手が消費税の納税をしているのかの確認(インボイス)を不要に
このように消費税の導入時に「どうすればスムーズに始められるか」を優先し、事業者の負担をできる限り軽くしようという制度設計がされたのです。
価格への転嫁をスムーズにさせ事業者の負担を軽減しようという配慮が仇に
事業者の消費税の納税額を軽減する仕組みや事務負担を軽減するための措置が講じられましたが、この消費税の負担を事業者がスムーズに価格に転嫁できるような配慮も随所にされました。
消費税が価格にスムーズに転嫁されるということは、その分、消費者の負担が増えるということ。
結果的に、次の二つの配慮が、日本で消費税がここまで嫌われる理由になったのではないかと考えます。
(1)消費税は預り金だという啓蒙
消費税は、事業者が納税をするもので、その課税標準は、消費税の課税対象となる「売上高」です。
消費税は、源泉所得税などと異なり、その徴収を相手に求めなくても良いことになっています。
つまり、国としては、事業者が消費税を支払ってくれれば良く、事業者がその消費税を価格に上乗せしようがしまいが、どちらでも良いということです。
しかし、「消費税が、事業者の売上に対する税金である」と消費者に認知がされると、消費税を価格に上乗せしようにも、付加価値税に不慣れな消費者には「知らんがな。そっちで負担しろや」と言われてしまい、スムーズな価格への転嫁が難しいことが予想されました。
そうなると、結果的に、事業者が、消費税分の負担を泣く泣く被らなくてはいけません。
そこで、当時の大蔵省は、「消費者から受け取った消費税は、”預り金のようなもの”であり、事業者はとりあえず預かっているだけ。だから、事業者に怒りをぶつけることなく、素直に消費税も払おう」という啓蒙を積極的に行ったのです。
実際に、これらの啓蒙と消費税の関連法規や公正取引委員会による消費税を転嫁することを妨げることのないような勧告などにより、事業者間取引では、消費税を価格に「全て転嫁できている」と答えた事業者が93.1%であるなど、実質的に、消費者がその負担をする間接税として機能していると言ってよいでしょう。
消費税の転嫁状況に関するサンプル調査の結果を取りまとめました|経済産業省
(2)外税方式での表示の容認
消費税導入時には、事業者は、価格表示を消費税別の「外税」でも消費税込の「内税」でもよいとされました。
事業者としては、「うちは、この本体価格で売っているのだ」ということをアピールするためにも、少しでも店頭での価格を安く表示するためにも、多くの事業者が「外税」を選択しました。
結果的に、レジでお金を払う時になって、値札に消費税が上乗せされた金額を支払うことで、消費者は、買い物のたびに消費税の支払いを嫌でも意識させられるようになったのです。
一方、欧州の付加価値税(VAT)は、導入当初から「税込価格」での表示が徹底されていました。
レシートには税額が書かれているものの、値札と支払額が一致するため、消費者は「上乗せされた」という心理的負担を感じにくいといえます。
なお、日本でも、2004年に消費者向けの商材の販売については、消費税込の「総額表示義務」が導入されましたが、「消費税は大嫌い」という印象が定着していたので、時すでに遅しというところでしょう。
どう考えても社会保険料のほうが負担は大きいのに
消費税(国税分)の税収は、約25兆円になり、今や国税の中で最も税収の大きなものとなっています。
しかし、給与から天引きされている社会保険料の負担のほうがずっと大きいという人も多いのではないかと。
それでも、多くの人が、社会保険料の負担よりも消費税の負担を嫌うのは、やはり、その取られ方によるのかもしれません。
とはいえ、2040年と今からわずか15年後には、社会保障費は、年間で約190兆円と今よりも50兆円も増えることになります。
それを賄うためには、消費税を増税するか、社会保険料の負担を増やすか、あるいは、社会保障給付を削減するか。
我らは、どれを選択することになるのでしょうかね。
編集部より:この記事は、税理士の吉澤大氏のブログ「あなたのファイナンス用心棒」(2025年10月16日エントリー)より転載させていただきました。






