退職代行サービスって知っていましたか?:自分の言いたいことも言えない若者たち

奇妙な報道を見つけました。「若者に人気の退職代行サービス『モームリ』運営会社を家宅捜索 谷本社長は問いかけに無言」(産経)です。同様の記事は他社報道にもあり、目にした方も多いでしょう。

記事の趣旨は退職代行会社が提携する弁護士事務所からあっせん手数料をもらっていてそれが違法になるというもの。また代行会社が直接、当該企業との交渉をするのも違法なのですが、それらが引っ掛かって家宅捜査になったようです。

正直申し上げると退職代行サービスなるものがあるのを私は全く存じ上げておりませんでした。そこで業界団体である日本退職代行協会のウェブサイトを拝見しましたが、その中で目に留まったのが「苦情履歴一覧」というタブで、見ると会員会社ごとの苦情一覧(中身は見えない)が出ており、ご丁寧に利用者と退職対象会社からの苦情件数が出ています。母数が分からないのですが、割と多いなという印象があります。

私は雇う側ですので仮にカナダにこんなサービス会社が出来たら面倒だな、とは思います。が、私のボトムラインは雇用関係は恋愛のようなもので、相手が「あなたをもう愛していない」というなら相思相愛にならないので「どうぞお引き取りください」というスタンスにしています。つまり、雇用者から見て従業員は奴隷ではないのです。決して上から目線ではなく、同じ立場に立っているので労働を無理やりやらせることはできないし、仮に辞めたいという方が在籍していても仕事のクオリティや能率は低いでしょう。ご存じ通り、私は低いレベルの仕事は嫌いなので情熱がない者が職に就いていること自体が不愉快であります。

例えば皿洗いの仕事に就いたとしましょう。(私も若かりし頃にやったことがあります。)1時間で何枚の皿やグラスをどれだけスポットレス(=汚れなく)洗い、それをキッチンの皿の収納棚に戻せるか、これが皿洗いの職に求められる能力です。皿洗いの仕事は嫌なものです。他人の食べ残しが詰まりシンクはすぐに流れなくなるので頻繁にその食べ残しを取らねばなりません。ゴム手袋をしているとはいえ嫌でしょう。しかし、客はピカピカの皿の上に載せられた料理を食べるために店に足を運んでいるのです。もしも皿の端っこに米粒が残っていたらどうしますか?

実際によくあるのが食べ放題系の店で自分で取る皿に異物がいろいろ残っているケース。当地ではホテルのビュッフェですら汚いものが時折混じっています。「たかが皿洗い、されど皿洗い」であり、どんな仕事にも従業員は愛を持って仕事に当たらねばならないのです。

では会社が嫌になり、辞めたいと決めたら普通「一身上の都合により…」という非常に形式的な退職届を出すか、最近ではEmailで「私、〇月〇日で辞めます」にしろ、会社に一報を入れ、それで「はい、シャンシャン」のはずです。その後の事務手続きは好き嫌いの問題ではないと思います。雇用者の義務です。ところがどうやらそうは問屋が卸さないらしいのです。

これは最近のバンクーバーのケース。ある飲食系従業員が退職の意思を経営者に伝えたところ「お前の教育にどれだけ時間を費やしたと思っているんだ。辞めさせない」と意気込んだのです。とはいえ、雇う方と雇われる方では辞める時は雇われている方が圧倒的に強いのです。だって、出社しなきゃいいわけですから。この方は丁寧に事情を説明し、退職を数週間延長し、新しい方にまで引継ぎをして辞めたのですが、最後の給与の時、辞めた日までのチップはもらえなかったそうです。これは明らかに違反です。

では辞める方は業者や時として表題のケースのように弁護士まで介入させて退職させるのか、というのが疑問なのです。あくまでも私は経営側の立場の目線ですのでお許しください。もしも相談した従業員が業者や提携している弁護士に事情を説明して弁護士也がその会社に「通知」をしたとしても基本は一方通行の話なのです。つまり会社を辞めたい従業員は自分の話を一方的に業者や弁護士にするわけでその話に妥当性や事実曲解がないかは判断できないわけです。従業員の言い分を一方的に聞いて法律という鎧をまとった通知を準備する代弁者でしかないのです。当然、会社側にも揉めるにはそれなりの理由があったはずですが、それを勘案していないわけです。

もう一点、従業員側は一つ、重大な点を見逃しています。それは人事のReferenceというものです。最近は転職者が多いため、就職面接後、採用方針とする場合、人事担当者は前職や職歴のあった会社に「この方の在職中の勤務内容や勤務態度について教えてください」という問い合わせをするのです。私にも来ます。酷い場合は10数年前に辞めた方のリファレンス調査も来ます。調査の仕方も様々でしっかりしたフォームに記入する場合もあれば、電話でやり取りする場合もあります。

私はほとんど意地悪はしないのですが、例外が1つだけあります。ある元従業員は勤務態度が悪く、手を焼いていました。その人が退職したのち、いろいろな会社からその人に関するリファレンスの問い合わせが来るのです。私は当時、相当ムカついていたので「リファレンス出来ません。お察しください。」と返事しておりました。これは最悪です。その人は仕事が全然決まらないのです。その後もその方のリファレンス問い合わせが5-6年以上続きました。

つまり会社の人事担当者も人間なのです。そこには心証というものがあります。AIの時代、心証なんて必要か、と言われればこれぞAIにわからない領域と申し上げます。時折、「性格が悪くてもい、仕事ができれば高給で迎える」というケースもあります。ものすごい才能を持ったプログラマーとかハッとするほどの美貌のホステスとか…。しかしそれは例外中の例外。普通は組織の中での仕事なので一匹狼ではなく、組織力が発揮できることが最重要なポイントとも言えるのです。

とすれば私から見れば退職代行サービスという存在そのものがおかしいと思うのです。自分の言いたいことも言えないそんな若者が社会で育ちつつあるのか、と思うと先行き頭が痛い世の中になったとも言えます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月26日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。