証券会社は、株式の個別銘柄の調査を行い、その情報を顧客に提供することで、取引注文を貰えると期待する。故に、証券会社の株式営業の実質は、個別銘柄の開示情報を分析加工し、投資家の判断の形成にとって有益な情報を提供することに帰着するはずである。では、その情報の提供は、法律上、いかなる行為に該当するのか。

ImpaKPro/iStock
まず、証券会社が株式の取引注文を受けることは、「金融商品取引法」第2条第8項にいう「有価証券の売買の媒介」に該当する。媒介というのは、株式の売買は取引所における市場集中取引によって成立しているので、証券会社は、取引の当事者ではなく、顧客のために取引の成立に向けて必要な努力をなすものであることを意味する。
次に、同法第35条は、証券会社の業務範囲を定めていて、本業に付随して行える業務を列挙しているが、その第1項第8号は「有価証券に関連する情報の提供又は助言」となっていて、証券会社による個別銘柄の調査分析資料の提供は、この付随業務に該当すると考えることもできる。
しかし、同号には括弧書きがついていて、「第2条第8項第11号に掲げる行為に該当するものを除く」と書かれている。ここで除外されたのは投資顧問契約に基づく助言であって、投資顧問契約とは、「有価証券の価値等」に関し、顧客に対して「助言を行うことを約し、相手方がそれに対し報酬を支払うことを約する契約」であるとされている。
つまり、法律は、独立した業務として投資顧問契約に基づく助言を定めていて、実際に、法律上の登録をして、顧客から報酬を得て、本業として助言業を営む投資顧問会社は少なからず存在するのである。では、証券会社の付随業務としての助言と、投資顧問会社の本業としての助言との違いは、報酬の有無なのであろうか。
ところが、証券会社は、助言を提供しても報酬を得ていないが、顧客は、証券会社の助言に価値を見出すが故に、その対価の支払い手段として注文を出し、委託手数料を落としているとみなせるから、価値の提供という意味では、両者に差はなく、報酬についても、支払い形態の差しかないとも考えられて、どこに差があるのか不明になるのである。
■
森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
X(旧Twitter):nmorimoto_HC
Facebook:森本紀行






