思った以上に意見がばらけている21兆円経済対策、どう思う?

高市首相の目玉政策の一つである積極財政の方針を受けて今般21兆円の経済対策が発表されたわけですが、思った以上に意見がばらけている気がします。

高市首相 自民党HPより

週末のサンデージャポンで杉村太蔵氏が「正気の沙汰とは思えない」としたうえで「うちのような家にも(子供が2人いるから)4万円来る」と強い口調で発言していて思わず「杉村サン、なかなか言うねぇ!」と思ってしまいました。

週末にNNNと読売新聞が調査した世論調査で政府の物価高対応について評価するが33%、評価しないが52%と出ています。この結果はよく考えないと意味を180度取り違えてしまいます。過半が落第点をつけた理由が物価高対策が十分ではないという意味なのか、こんな物価高対策をする意味があるのか、のどちらだかわからないのです。一応、読売新聞をチェックすると21兆円の経済対策を評価とするのが63%でしないの30%を大幅に上回っていることから私が思うのは「この程度の物価高対策じゃ足らへん」ということなのでしょう。

この経済対策は見る人とその人の立場によって違った色に映ります。物価が高くて本当にしんどい思いをしている人にとっては「電気・ガスで7000円?子供一人2万円?何それ、そんなので足りるわけないじゃん」と激おこ型かもしれません。一方、杉村氏のように生活にゆとりがある人には「別にいいよ、なくても」でしょう。日経が少し前に行った経済学者50人へのアンケートをみると電気ガスの補助金は過去の分については77%が否定的見方をしているとあります。

何故経済対策が必要だったのでしょうか?高市氏が積極財政派で今まで財務省主導で引き締め型だったからリベンジをすることが理由でしょうか?それとも本当に物価が高くて国民生活に疲弊感あるからでしょうか?

経済の強さを示す指標の一つに需給ギャップがあります。これは国内の需要と供給をマクロ的にみた極めて重要な統計です。需要が高ければ消費に対する意欲は強く、物価は上がります。9月に発表された4-6月の需給ギャップはプラス0.3%。コロナ期には需給ギャップはマイナス9%ぐらいまで落ち込んだものの着実にリカバーし、ベクトルは上に向いています。これはコストプッシュ型インフレというよりディマンドプル型のインフレに見えます。

物価が上がった原因は何か、といえば海外物価が上がったことで輸入物価が上昇したのが主因だったのは少し前まで。今は国内の人件費上昇が最大のトリガーとみています。海外物価はご存じの通り欧米諸国が利上げに次ぐ利上げで経済の熱を冷まし続け、物価水準は目指す2%程度の枠組みに収まりつつあります。むしろトランプ関税などもあり、景気は冷えてきているのが現状です。ところが日本の場合、どちらかといえば人件費が異様に安いまま放置された30年でありました。私はこのブログで大昔に人件費を抑えているから物価が上がらない日本の独自の問題と指摘し、社会もそれに呼応し、安いものばかりを目指す悪循環に陥っていると指摘させていただいたことがあります。

仮に人件費上昇による物価上昇が起因ならこれはコストプッシュ型になります。つまり見えてくるのはディマンドプル型とコストプッシュ型の併合型物価高ではないかという気がしています。

人件費については安倍氏の時代の後期に春闘やベアを通じた賃上げに力が入るようになり、その後の政権もそれを引き継ぎ、石破氏に至っては最低時給を20年代に1500円まで引き上げると強く主張しました。おまけに企業は人材確保に血眼であり、それこそ店員から管理職まで良い人材なら待遇は大盤振る舞いという状況にあります。私から見ればこれでは人件費インフレになるだろうと思うのです。

杉村太蔵氏の発言は国民世論の一部の意見かもしれませんが、妙に説得力があるのです。それは被雇用者の一部は明らかに待遇が改善され、余力が出てきています。一方、その恩恵に預かれない人がいるのも事実で私が最近K字経済と申し上げているのは明白な経済と所得の二極化が進んでいるということなのです。リタイアした方も同様。例えば株式などで運用している方はホクホクでしょうが、そのような知識も金もないという人は「俺には関係ねぇ」と数少なくなったセンベロでつぶやいているのでしょう。

個人的には物価高対策はKの字でいう浮上できない人だけにフォーカスすることで十分なのではないかと思います。

アベノミクスの生みの親である浜田宏一エール大学名誉教授も今回の経済対策について「財政赤字は生産性や雇用の改善に必要な時は仕方がないこともあるが、供給制約がある時に使うのはインフレを助長し、とんでもない」(日経)と厳しい指摘をしています。アベノミクスは1㌦80円台という超円高のもと、景気が前政権を継いでどん底だったから意味があったのです。今はその真逆なのに大丈夫か、というわけです。また個人的には浜田氏のいう供給制約には労働力の供給制約が含まれると考えています。

最後に為替です。私は以前から何度か「ドル円相場はファンダメンタルズが変わらない限り、160円から80円のレンジで収まる」と述べています。為替レートは通貨量の比率が前提にあるのでその枠組みが変わるような相当の変化がない限りそこに収まるべきだと考えています。しかし仮に今回160円を抜けてしまうと底抜けのようになるのですが、今の日本経済がK字型経済の大先輩であるアメリカ経済と比して歴史的抵抗線を抜ける事態となればそれは世界が見る日本の評価が変わったと考えるべきなのでしょう。

土曜日のつぶやきでも述べたとおり、経済対策は何をどうするかというプランにひと工夫もふた工夫もすべきなのです。今回は数字ありきだったかなぁ、ちょっと急ぎ過ぎてやしないかな、という心配はあります。

あくまでも私はマクロ経済的に見ていますが、ミクロや個々の声、更には政治的ファクターが加味される場合ではまるで答えは違ってくるでしょう。しかし単なるポピュリズムではだめだと思います。もっと長編の日本経済再興というナラティブの中の一章という位置づけをした方がよろしいかと個人的には思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月25日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。