個人事業主の所得水準とは? 1人あたり混合所得(総)の国際比較

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この記事では、個人事業主の平均所得となる1人あたり混合所得(総)の国際比較をご紹介します。

1. 日本の個人事業主の所得水準

経済統計におけるGDPの分配面において、個人事業主の取り扱いは少し特殊です。

個人事業主は家計の一部として扱われ、その所得は事業の利益と、自身の所得が合算され不可分のものとなります。

家計は個人事業主として持ち家の運用を営む不動産事業者として扱われますが、もちろん持ち家の運用以外のその他の事業を営む事業主も多く含まれます。

前者の所得は家計の営業余剰として、後者の所得は家計の混合所得として集計されています。

今回は、家計の個人事業主としての所得である混合所得について着目してみます。

まずは、日本の混合所得と個人事業主数の推移から見てみましょう。

図1 混合所得・固定資本減耗・個人事業主数 日本
国民経済計算より

日本の家計(個人事業主)による混合所得は、1992年にピークとなっていて固定資本減耗を含む総額(総)で44兆円に達していました、その後減少傾向が続き、2023年では14兆円と3分の1程度に減少しています。

減価償却費に相当する固定資本減耗を差し引いた混合所得(純)でも、1992年のピーク34兆円に対して2023年には14兆円と半分未満です。

個人事業主数は、もっと前から減少傾向が続いていて、1980年で1800万人、1992年の1420万人、2023年には750万人です。

日本は労働者(就業者)の総数は大きく変わりませんが、個人事業主が減少し、代わりに企業に雇用される雇用者が増えています。

2. 1人あたりの混合所得

つづいて、個人事業主1人あたりの混合所得を見てみましょう。

個人事業主の平均的な所得水準を計算する事になりますね。

図2 混合所得・固定資本減耗 個人事業主 1人あたり 日本
国民経済計算より

個人事業主1人あたりの混合所得は、総額(総)で見ても純額(純)で見ても、1990年代にピークとなっていて、その後は減少傾向が続いています。

個人事業主数が減少しているだけでなく、1人あたりの所得水準も低下しているのはとても印象的です。

1990年代には(総)で1人あたり310万円程度でしたが、2023年には180万円と、4割ほど減少している事になります。

高所得な個人事業主が減り、低所得な個人事業主が残っているなど、内訳の変化も考えられそうですね。

個人事業主数には無給の家族従業者も含まれますので、相対的にその構成比率が高まっているなども考えられるかもしれません。

3. 為替レート換算値の推移

日本の個人事業主の平均所得が低いのかどうか、国際比較をしていきましょう。

まずは、為替レート換算値の推移から眺めてみます。

図3 混合所得(総) 個人事業主1人あたり 為替レート換算値
OECD Data Explorerより

図3が個人事業主1人あたりの混合所得(総)を為替レートでドル換算した推移です。

アメリカが圧倒的な水準なのが印象的ですが、ドイツも相対的にかなり高く2023年では日本の8倍ほどの水準に達しています。

フランスがリーマンショック以降低下傾向ですが、近年では他の主要先進国でも日本の3倍以上の水準となっています。

日本は、横ばいから近年では低下傾向で、OECDの平均値ともかなり差が開いている状況のようです。

4. 為替レート換算値の国際比較

個人事業主1人あたりの混合所得について、もう少し広い幅で国際比較してみましょう。

図4 混合所得(総) 個人事業主1人あたり 2023年
OECD Data Explorerより

個人事業主1人あたりの混合所得について、OECD31か国で国際比較してみると、日本は12,932ドルで31か国中28位、G7中最下位です。

メキシコを下回り、ラトビアやコスタリカ、コロンビアよりも上位となっていて、先進国の中でも極めて低い水準となるようです。

アメリカとは20倍の開きがあるのが印象的ですね。

もちろん国によって個人事業主による仕事の違いも大きいと思いますが、日本の個人事業主の所得水準は国際的に見て非常に低い事は確かなようです。

個人事業主と聞いて思い浮かぶのは、農林水産業やフリーランスとしての仕事ではないでしょうか。

どちらも、日本ではあまり所得水準の高い仕事のイメージがないとおもいますが、他国ではそうとも限らないようです。

5. 購買力平価換算値の推移

個人として見た場合の所得水準は、物価水準を揃えた上で数量的な比較のできる購買力平価換算も適用できる範疇だと思います。

個人事業主1人あたりの混合所得について、購買力平価(家計最終消費支出)でドル換算した結果も見てみましょう。

一般的に購買力平価と聞くと、GDPの購買力平価を指しますが、所得をドル換算する場合は家計最終消費支出の購買力平価(Purchasing Power Parities for household final consumption expenditure)が用いられます。

時系列的な実質値を求める際に、GDPの場合はGDPデフレータを、賃金の場合は民間最終消費支出デフレータや消費者物価指数を用いるのと同じですね。

図5 混合所得(総) 個人事業主1人あたり 購買力平価換算値
OECD Data Explorerより

個人事業主1人あたり混合所得(総)の購買力平価換算値を見ると、近年の各国の水準が為替レート換算値よりも高まっている事がわかります。

近年はドル高が進んでいたため、アメリカに対して他の主要先進国の物価が割安となっているためですね。

空間的実質値と呼ばれる購買力平価換算値で見ると、もう少しアメリカとの差は縮まるようです。

とはいえ、アメリカの圧倒的水準は変わりません。

日本は購買力平価換算すると、2023年で17,851ドルと為替レート換算値の12,932ドルよりも大きく水準が向上します。

アメリカとの差は多少縮まりますが、他国との差はたいして変わりません(他国も購買力平価換算値は嵩上げされるため)。

6. 購買力平価換算値の国際比較

最後に、購買力平価換算値の国際比較もしてみましょう。

図6 混合所得(総) 個人事業主1人あたり 購買力平価換算値 2023年
OECD Data Explorerより

2023年の水準を比較すると、日本は17851ドルでOECD31か国中29位、G7中最下位です。

為替レート換算値よりもむしろ国際的な順位が1つ低下する事になります。

7. 個人事業主の所得水準の特徴

今回は、個人事業主の平均的な所得水準として、個人事業主1人あたり混合所得についてご紹介しました。

日本では個人事業主が減少し、混合所得の合計値も減少しているばかりか、1人あたりの所得水準も低下している状況になります。

国際的に見ても日本の個人事業主の水準は極めて低い事がわかりました。

個人事業主数の中には無給の家族従業者が含まれるため、統計上この家族従業者がどの程度捕捉されているかという懸念も有ったり、個人事業主数や混合所得がどれだけ正確に集計できているのかという懸念もあります。

とはいえ、日本では個人事業の農林水産業者やフリーランスはどちらかと言えば低所得の仕事と言ったイメージが強いと思います。

もちろん収益の高い事業を営んでいる人もいらっしゃると思いますが、平均でみれば相対的にかなり低い所得水準ですね。

個人事業主は本来自分の強みを生かして仕事をしているはずなので、その仕事の質に対して自ら交渉し、その価値を上げていきやすい働き方であるはずです。

ただし、日本の場合は仕事によっては規制があったり、相場そのものが極めて低かったりして、個人事業主の対価が非常に低く抑えられているように見受けられます。

「仕事の価値」を考える際に、非常に典型的な領域のようにも感じました。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年12月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。