エアコン「2027年問題」は一人暮らし若者への実質大増税なのか

Pavel Vorobev/iStock

「エアコンの2027年問題」が話題になっている。

エアコンが「2027年問題」で2倍の価格に?:格安機が消える「見えない増税」の衝撃

エアコンが「2027年問題」で2倍の価格に?:格安機が消える「見えない増税」の衝撃
国の省エネ基準見直しによって、現在10〜15万円で買える「格安エアコン」が市場から消える可能性が現実味を帯びてきた。政府は「脱炭素」の名のもとに2027年度の省エネ規制を大幅強化するが、その結果として、実質的な「見えない増税」が家計を直撃し...

省エネルギー基準の改正により、これまでの安価なエアコンが買えなくなり、結果としてエアコンの価格が2倍になり、これまではエアコンを10万円で設置できたのに、20万円ないと設置できなくなるのではないか、ということだ。これが本当なら、エアコンを諦める人も出てくるかもしれない。

もちろん、省エネ性能が向上すれば、電気代は下がる。問題は、本体価格が上がった分を、電気代の節約によって何年で回収できるのか、という点である。

そこで、リリースされたてのChatGPT 5.2を用いて、実在機種の市場価格と性能値を使って投資回収年数を試算してみた。計算は2通り行った。

サラリーマン世帯(10畳用1台)の場合:投資回収まで17年

まず、一般的なサラリーマン世帯を想定する。東京の住宅で、リビングに10畳用(2.8kW級)の壁掛けエアコンを1台導入するケースである。

同一メーカー・同一販売店で、

  • 2027年度省エネ基準「未達(達成率87%)」の低価格帯機種
  • 2027年度省エネ基準「達成(達成率100%)」の上位機種

を比較した。

標準工事費込みの価格差は約12.5万円。一方、JISで定義された「期間消費電力量」の差は年間167kWh程度である。東京電力EPの標準的な料金体系(従量電灯B)を前提に限界電力単価を置いて計算すると、年間の電気代削減額は約7,200円にとどまり、投資回収年数は約17年となった(表1)。

17年という時間は、エアコンの実際の使用年数(10~15年程度)を考えると、決して短いものではない。「省エネだから元が取れる」とは言えないものだ。

表1 サラリーマン世帯(10畳用) 投資回収年数試算

項目 低価格機(未達) 高効率機(達成) 差分・計算
本体+標準工事費 115,280円 239,800円 差額 124,520円
期間消費電力量 913 kWh/年 746 kWh/年 差 167 kWh/年
電力単価(東京電力EP) 43.06円/kWh
年間電気代削減 約7,191円/年
投資回収年数 約17.3年

ワンルーム単身世帯の場合:投資回収まで160年

次に、一人暮らしのワンルームに住むサラリーマンを想定する。

  • 平日は朝9時に出勤し、夜9時まで帰宅しない
  • 土日は在宅

という、よくある生活パターンである。この場合、エアコンの稼働時間はかなり短い。

さきほどと同様、同一メーカーで、6畳用の低価格帯機種と上位機種を比較した。JISの期間消費電力量を、この生活パターンに合わせて稼働時間比で補正すると、年間の電力量差はわずか約34kWhにまで縮む。

ワンルーム単身世帯では電力使用量が少なく、電気料金も第1段階(安い単価)に近い。この条件で計算すると、年間の電気代削減額は約900円程度しかない。結果として、投資回収年数は約158年(≒160年)という、事実上「回収不能」と言ってよい数字になった(表2)。

表2 ワンルーム単身世帯 投資回収年数試算

項目 低価格機 高効率機 差分・計算
本体+標準工事費 90,640円 230,899円 差額 140,259円
期間消費電力量(JIS) 717 kWh/年 594 kWh/年 差 123 kWh/年
稼働時間補正 0.278*
年間電力量差 約34 kWh/年
電力単価(第1段階相当) 26.08円/kWh
年間電気代削減 約887円/年
投資回収年数 約158年

※ 単身ワンルーム世帯について、JISが想定する「1日18時間稼働」に対し、平日は帰宅後3時間、土日は10時間使用するという生活パターンを仮定した。この場合の1日平均稼働時間は約5時間となり、JIS想定比で約0.28(=5/18)となるため、期間消費電力量をこの比率で補正して計算している。

単身若者には10万円を超える単なる値上げ

17年でも十分に長いが、160年となると意味合いがまったく異なる。これは、省エネ規制の強化が、世帯によって全く異なる影響を与えることを示している。

  • 在宅時間が長く、電力使用量の多い世帯ほど、省エネ機の恩恵は大きい
  • 単身ワンルームのように、使用時間が短く電力消費の少ない世帯ほど、恩恵はほとんどない

もし規制強化によって低価格機が市場から消え、高価格機へのシフトが事実上強制されるなら、単身者や若年層、低所得層ほど14万円もの「単なる値上げ」を押し付けられる構図になる。

夏の猛暑の中で、エアコンはもはや生活必需品である。それにもかかわらず、初期費用のハードルが上がれば、買い替えや新規設置を諦める人が出てくる可能性は否定できない。

費用便益分析を徹底すべきだ

本稿の試算は、あくまでサンプル機種のデータによるものであり、より精密な分析が必要である。しかし、ワンルーム単身世帯では投資回収が殆ど期待できないという方向性自体は、前提を多少変えても大きくは動かないのではないか。

本当にこのような規制強化が必要なのか。低所得層や単身世帯への配慮は十分か。今一度、投資回収年数についての分析を徹底的に行った上で、省エネ規制強化の是非を再検討すべきではなかろうか。

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