さあ大変!高市首相の拠り所、リフレ学者(アベノミクス派)が内部分裂?

高市首相の「積極財政」の理論的な応援団であるリフレ派(アベノミクス派)学者グループに内部分裂といっていいような事態が生じました。

10年に及ぶアベノミクスに対しては、「大規模金融緩和、超低金利政策は長期に及ぶと副作用が大きい」と、日銀自身が自己否定する検証結果を昨年12月に公表しました。それを後押しするような主張が飛び出したのです。

リフレ派の理論的支柱とされる浜田宏一・エール大名誉教授が「外国からみて日本は安売りになっている(円安と物価上昇)。日本に必要なのは真逆の政策。かつて私は大規模金融緩和を提言しました。このままでは庶民が苦しむだけ」と、文春のインタビューに答えました。「サナエノミクスに苦言」の見出しです。円安、インフレ、拡張財政に警鐘を鳴らしました。

浜田氏は円安・超金融緩和政策を唱え、安倍・元首相のアベノミクスの後ろ盾になったとされる経済学者です。リフレ派(円安、財政拡張派)の主柱ともされる人物が警告を発したとなると、大型の補正予算を決めたばかりの高市首相はどう反応するのでしょうか。

浜田教授の主張はこれまで二転三転してきましたから、「また変節か」で終わるのかもしれません。2011年6月、浜田氏は「金融緩和で歳入を増やし、増税をなるべく少なくするのが経済学の常識」と、財政負担増大の回避を政府の勉強会で主張しました。13年1月の安倍内閣の時には、リフレ派の主要人物の一人として声がかかり、首相主導の打ち合わせで「物価上昇率2%明記、期限は2、3年」とすることで参加した4人は一致したそうです。

その期限がすぎても、物価が上昇する気配はなく、何年か後、浜田氏は「異次元金融緩和の効果はない。財政政策が必要だ」と、財政拡張派に逆もどりしました。デフレ下の増税を避けるために、当初は異次元金融緩和論を唱えていたのです。そして今回、インタビューで、「高市流の拡張財政、円安では日本は安売りされている」と、指摘しました。2転、3転です。

もっとも経済環境、経済理論の前提が変われば、政策を変えるのは間違ったことではありません。ただし、政府に政策提言をするならば、「いつまでにその目標は達成できるかという時期の予想」、「それが外れた場合は、そのことの検証」が学者なら必要です。浜田氏の場合、そのいづれもが十分だったとはいえません。

一方、リフレ派はどうかと言えば、「アベノミクスは歴史的な失敗に終わり、リフレ派学者はもう何人もいない」と言われるなかで、若田部昌澄・前日銀副総裁(早大教授)と永浜利広氏(第一生命研究所)が連盟で読売新聞に「責任ある積極財政、成長と健全化を目指す」と題する寄稿をしました。

高市財政は財政健全化目標として、国の債務残高のGDP比を重視することにしました。この寄稿の中で、両氏は「政府の負債(国債残高など)は1300兆円に対し、890兆円の金融資産がある。債務から資産を差し引いた純債務も考慮すべきだ」と主張しました。GDP比は名目では、どんと下がります。手品みたいな話です。リフレ派の考え方です。

借金が多くても、資産もあれば、それほど心配ないといいたいのでしょう。問題はこの890兆円の金融資産の内訳に触れていないことです。最大の金融資産は外貨準備高で、1.3兆㌦ほどあります。1㌦=150円の相場なら、200兆円にはなるでしょうか。米国国債などでしょう。

いざとなったら、これを売ればいいと考えているのか。財政赤字の穴埋めに巨額の米国債を売ることに米政府が同意するでしょうか。米国債は暴落し、ドルの信認が低下します。

さらに政府は短期国債(円資金)を発行して、ドル国債(資産)を買い外貨準備に組み入れていますから、ドル国債の売却代金は短期国債の返済に回されてしまうはずです。財政危機対策に使えるとすれば、外貨準備の運用益でしょう。

他に政府金融資産には、公的年金の運用資産が含まれているはずです。それを財政危機対策に投入したら、国民が受け取る年金が減ってしまします。リフレ派がいう「890兆円の金融資産」で動かせる部分はずっと小さいはずです。つまり帳簿上の資産額とその流動性は区別しなければならない。

さらに債務残高のGDP比といっても、インフレが進めば名目GDPは増える。税収も増える。高市首相はインフレの永続を期待しているようにしか見えない。インフレが長期化すれば、見かけはこの比率が下がる。技術革新、生産性の向上を伴わないGDPの増大を安易に比較の尺度にしてはいけない。

日銀はインフレの長期化を懸念し、今月中旬の金融政策決定会合で0.25%利上げし、0.75%とするようです。一方、「積極財政」を掲げる高市政権は18兆3千億円の補正予算を組みました。

インフレ下の財政拡大はチグハグな経済政策であり、多くの経済学者、識者、主要メディアは猛反対しています。高市氏はアベノミクスの継承者であることを看板にして財政拡大に固執し、一方、日銀は3年近くも続く2、3%の消費者物価の上昇をもう放置できないと腹を決めたようです。

高市氏は経済財政諮問会議の民間議員にリフレ派経済学者、専門家を取り込み、「積極財政」の理論的応援団にしています。アベノミクスが失敗に終わった時点で、リフレ派の存在価値はなくなっているのです。

高市首相 首相官邸HPより


編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2025年12月13日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。