ギリギリ日本の「空の守り」 スクランブル恒常化、隊員・機体に負担

航空自衛隊の「緊急発進(スクランブル)」が常態化しつつある。中国軍が日本周辺で訓練を活発化しているためだ。領空侵犯を警戒する空自の負担が増し、戦闘機や隊員の備えが逼迫している。
空自はF2、F15、F35Aあわせて350機弱の戦闘機を運用する。スクランブルには主にF15を用いる。スクランブル時は対象機の情報を収集しつつ、日本の領空に近づくと無線で立ち退くよう伝える。
北海道の千歳基地、沖縄県の那覇基地など7つの拠点が24時間体制でスクランブル任務にあたる。各基地ごとに4機が常に離陸できるよう待機している。
スクランブルは2016年度に最多の1168回となり、その後も高止まりしている。過去5年の平均はおよそ800回と00年前後と比べて5倍近い水準だ。
地域別にみると半数以上が南西方面だ。中国機への対処が全体の6割以上を占める。爆撃機や戦闘機に加え、無人機の飛来も増えている。自衛隊は無人機であっても領空侵犯の恐れがあれば有人の戦闘機が対応にあたる。
中国は6月の訓練で、空母を日本の小笠原諸島の近くまで展開した。小笠原諸島の周辺は現状ADIZが設定されていない。対応すべき範囲がさらに広がる可能性がある。
スクランブルが増えれば機体の維持や整備の負担がそれだけ重くなる。戦闘機は飛行前後の点検に加え、400〜1200時間の飛行ごとに本格的な整備が必要とされる。
戦闘機の整備経験がある空自隊員は「部品の備蓄が少ないため、他の機体から部品を取り外して再利用するケ-スもある」と話す。
パイロットの数も不足している。空自にはおよそ2000人のパイロットがいるが、戦闘機を操縦できる人員は限られる。領空侵犯への無人機による対応も検討課題となる。
航空自衛隊は精神的な動脈硬化を起こしている組織です。外的な環境が変わっても適応できない。ひたすら身内の顔色を窺ってだけ仕事をしている。
だから無人機の導入も遅れたし、少子高齢化に対応する組織変革にも無関心です。
やっと来年から無人機を使った方法を模索しますが、それは海自が導入するシーガーディアンを使います。アラート任務に対する組織的な疲労対策を全く空自がとってこなかった証左です。
アラート任務はこういうもの、というところで思考停止をしている。恐らく中国は意図的に無人機による接近を試みているはずです。
空自はこれに対して有人機、それも極めて機体も維持費も高価であるF-15JやF-2、F-35を使ってアラート任務をこなしています。

機体の損耗は飛行時間よりも離着陸回数が大きく作用します。アラ-トを繰り返すとその分機体寿命が減っていきます。人民解放軍は安価な無人機で挑発するだけで、航空自衛隊の戦闘機部隊に疲労と大きなダメ-ジを与えることができます。特にステルス機であるF-35は維持費も高いうえに、調達費も高い。空自の戦力を戦わずして削っています。
問題はその術中にはまり、ホイホイと引っかかって機体損耗の泥沼に入り込んでいます。
その意味では海原治氏は賢かった。安価なF-5系列の戦闘機を導入しておけば、戦闘機自体のコストはかからなかった。空自はひたすら高い米空軍と同じおもちゃが欲しいと駄々をこねてきた。だからバンカーも燃料タンクの地下化もなく、戦時備蓄の燃料や弾薬もない。彼は練習機は、F-5系列のT-38を採用することも主張していました。米空軍もF-5を推しており、これを日本で生産して第三国に販売することも提案していました。
それにF-104の滑走路は厚さ15センチ、F-4は厚さ25センチのコンクリートが必要だがF-5は芝地からでも出撃できる。また更に再出撃はF-104は30分はかかるが、F-5はその四分の一で済む。整備員は4名でサイドワインダー2発とナパーム弾を登載して6分40秒しかからない。
対策は無人機の導入もありますが、それにはかなりの時間がかかるでしょう。どの機体が適正か防空のシステムとしてどう機能させるのか。
後は既存のアラ-トに特化した安価な戦闘機の導入です。これは中等あるいは高騰練習機を導入しそれと同じ機体を使うことも一つの手でしょう。あるいは中古の安価な機体を調達して使うか。
ぼくはF-2、更にF-15Jを退役させてグリペンの最新型を導入、これをライセンス国産すべきだと思います。
グリペンのC、D型の維持費は約4,700ドルと世界でも最低水準にあります。新型のE、F型もそれを引き継いでいるし、整備員の数を減らせます。F-2とF-15Jの全機をグリペンに置き換えるとかなりの整備員が削減できます。これは隊員確保に苦労する自衛隊にとって大きなメリットのはずです。
調達単価は円安もあって120億円以上になるでしょうが複座のF型であればそれで訓練が出来るので、中等あるいは高等練習機が不要です。空自が採用したT-6でそれまでの訓練が可能である。もしダウングレ-ドしたなら、官製談合までして何であんな高価な機体をかったのでしょう。またそうすればあえて中等あるいは高等練習機の部隊を作る費用がなく、人員や整備設備の集約も可能です。
実は空自には複座戦闘機で乗員を養成した「実績」がある。F-4EJ導入時にはセットでT-38タロンを約200憶円で導入するはずが、それがF-4EJのライセンス生産費用の不足に充てられた。このためF-4EJを「練習機」として使用した。T-2高等練習機が導入されたのはその後の1976に練習部隊が発足してから。
F-2でリンク16を登載する機体はごく一部であり、米空軍は戦域に入れてくれません。つまり戦力外です。F-15Jの近代化は後から怪しげなミサイルを搭載するとか言い出したので、開発&調達コストは高騰しています。そして機体寿命がそれほど長く残っているわけではない。
対してグリペンならばリンク16も搭載しているし、スーパークルーズ機能も付いています。ライセンス生産ならば例えばコンフォーマルタンクを登載するなどのカスタマイズも可能でしょう。またブラジルが南米でやっているようにアジアのグリペンの整備を請け負うことも、更にサーブと共同でアジアにグリペンを売り込むことも可能でしょう。また一定の機体の部分をオフセットとして生産することも可能でしょう。
GCAPの完成は既に遅れるとみられており、そのギャップを埋めることにもなります。
そして既存の2機種をグリペンに置き換えれば、整備や訓練も統合できます。
今後F-35A及びBが増えれば増えるだけ戦闘機の維持費が高騰します。それをどうやって捻出するのでしょうか。高市内閣が進める「責任ある積極財政」が破綻するのは目に見えています。防衛費をGDP2パーセントに引き上げてもそれは数年で破綻するでしょう。つまり野放図に整備を確保できるわけではない。
グリペンを導入するならば全部複座のF型でしょう。これであれば練習機としても使えるし、戦闘機でドロ-ンを率いる場合、オペレーターを載せることもできます。単座の戦闘機で複数のロイヤルウイングマンを統制するのは難しいと思います。
更には無人機導入と有人戦闘機の削減が必要です。現在でもパイロットの数が期待の数に対して足りていない。戦時にどうしますか?機体の数よりパイロットの数を確保すべきです。グリペンは整備時間が短いですから、連続しての出撃が可能です。ですがパイロットは損耗します。そうであれば帰ってきた機体を手早く整備して、交代のパイロットが搭乗するというシステムも構築できます。
パイロットの確保では予備制度を拡充すべきです。例えば日系エアラインに再就職するのであれば予備役として一定訓練を義務付ける。その代わり会社には人件費の例えば2割を防衛省が負担するなどといったスキ-ムを作るべきです。有人機でもネットワーク化がすすめば単にミサイルキャリアーとして使うことも増えるでしょう。そういう任務に練度の低い予備役を使うのも手でしょう。
■本日の市ヶ谷の噂■
1丁700万円という、ぼったり価格で導入された新型狙撃銃G28E2だが、国産の7.62ミリ弾が使用できずに弾薬も輸入。水陸機動団では調達した輸入弾薬を撃ちつくして、訓練に支障がでている、との噂。
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編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2025年12月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。








