欧州連合(EU)のコスタ大統領は19日朝、首脳会談後の記者会見で「EUが10月、2026年と2027年のウクライナの緊急財政ニーズを賄うことを決定した。そしてロシアがモスクワの侵略を停止するまで、その資産を無期限に凍結することで合意した。そして本日、我々は今後2年間でウクライナに900億ユーロ(約16兆円)を供与することを承認した。緊急措置として、EU予算を担保に市場から資金を調達する。これにより、ウクライナの緊急の財政ニーズに対応できる」と発表し、「ウクライナはこの融資を、ロシアが賠償金を支払った場合にのみ返済する。EUは、この融資の返済に際し、固定資産を活用する権利を留保する。同時に、欧州委員会に対し、ロシアの固定資産に基づく賠償融資に関する作業を継続するよう指示した。」と述べた。

EUのコスタ大統領、EU理事会公式サイトから
コスタ大統領は更に、「ロシアに送るメッセージは極めて明確だ、①ロシアはウクライナにおける目的を達成していない、②欧州はウクライナを支持する。今日も、明日も、そして必要な限りずっと、③ロシアは真剣に交渉のテーブルに着き、この戦争に勝利できないことを認めなければならない」と表明した。
ロシアの凍結資産を担保にウクライナに融資する案を主張してきたドイツのメルツ首相は会談後、「ロシアが戦争被害の賠償を行わない場合、EUに凍結されているロシア資産を返済に充てるべきだ」と主張、今回の解決策に対しては、「ロシア凍結資金の活用は見送られたが、大成功だ」と称賛した。
メルツ首相は、主にベルギーに保有されているロシア中央銀行の資金を、最大2100億ユーロの融資に直接充当することを望んでいた。ドイツ通信(DPA)によると、この計画は、フランスとイタリアが、ベルギーのバルト・ドゥ・ウェイヴァー首相が要求したセーフガード・メカニズムに必要な資金を提供することに消極的だったことなどから、頓挫したという。
ベルギー政府は、ロシアがロシア国内での国有化などを通じて、欧州の個人や企業に対して報復措置を取る危険性をとりわけ懸念してきた。何よりも、ベルギーはEU域内に保有されるロシア資産の大部分を管理する金融機関ユーロクリアの存在を懸念していた。ロシア中央銀行は最近、ユーロクリアに対し18兆2000億ルーブル(約1950億ユーロ)の損害賠償を求めて訴訟を起こした。
ドゥ・ウェイヴァ―首相は首脳会談後、「ウクライナは勝利し、ヨーロッパは勝利し、金融の安定も勝利した」と満足を表明した。同首相は「もし今日、ブリュッセルを分裂させたまま去っていたら、ヨーロッパは地政学的重要性を失っていただろう。それは完全な破滅だっただろう」と述べた。ちなみに、フランスのマクロン大統領は、今回の解決策を「最も現実的かつ実践的だ」と評価した。
なお、ウクライナへの財政支援に反対してきたハンガリー、スロバキア、チェコの3国も今回の妥協案に同意したが、その見返りとして、3カ国は今後発生する可能性のある借款の返済からは免除されることになった。
一方、ロシアはEUが達成した妥協案を歓迎し、プーチン大統領の投資・協力担当特使キリル・ドミトリエフ氏は「法と健全な理性が勝利した。EUの理性的な声が、ロシアの外貨準備の違法なウクライナへの資金提供を阻止した」と、テレグラムに記している。
ウクライナのゼレンスキー大統領はEUに感謝の意を表し、「今後2年間で900億ユーロの支援は意義深く、ウクライナの回復力を真に強化するものだ」とテレグラムに投稿した。「ロシアの資産が凍結されたままであり、ウクライナが今後数年間の財政的安全保障の保証を受けることが重要だ」と付け加えた。
EU首脳会談前、ゼレンスキー大統領は「ロシアの資産はロシアの侵略から防衛し、ロシアの攻撃によって破壊されたものを再建するために使われなければならない」と強調し、「ウクライナが支援を受けなければ、ウクライナは存続できない可能性が高い。そうなれば、ヨーロッパはもはや金ではなく、血で償うことになるだろう」と警告していた。ゼレンスキー大統領は、ポーランドのトゥスク首相が「今日金を払わなければ明日血を払わなければならない」と警告した言葉を繰り返した。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






