日銀が19日、政策金利を30年ぶりという水準の0.75%に引き上げ、物価高の要因になっている円安抑制の一助にしようとしました。一方、高市政権は3%前後のインフレが続いているのに、財政膨張策を継続したため、円相場は1㌦=157円台に下落しました。市場は政権の動きをよくみています。
「日銀がブレーキ(利上げ)を踏む一方で、政府はアクセル(財政膨張)をふかしている」とか「物価高対策と称しながらインフレの燃料(財政膨張)を注入している」と、まともな専門家は批判しています。高市政権ではチグハグな政策が目立ち、先行きが心配になります。
政府の有識者会議は同じ19日、首都直下型地震(マグニチュード7級)が発生すれば、「死者1.8万人、経済被害は83兆円、建物の全壊・焼失は40万棟」とする報告書を公表しました。その際の震災対策費は政府が巨額の国債発行をして、確保しなければなりません。すでに1300兆円の国家債務(借金、国債)の残高がある上に、積極財政と称する18兆円の補正予算を組みました。来年度予算も過去最大の120兆円に達する見込みです。
首都直下型地震か東南海地震、富士山噴火が起きれば、日本はトラス・ショックが起きます。トラス首相の大規模減税政策(財源不明)をきっかけに発生した英国金融市場の大混乱(2022年)のことで、株安・債券安・ポンド安というトリプルを招き、就任44日で辞任に追い込まれました。
そんな具体的事例が身近にあるにもかかわらず、高市首相は意に介していません。最悪の事態への備えをしておくのが政治的リーダーの務めです。高市首相は「最良のシナリオ」を描いて、楽観的に構えているようです。台湾有事では最悪の事態を想定しているのに、経済財政政策では最良の展開を夢みる。これはもチグハグなことをしています。
日銀の利上げに反応して、長期金利が2%を超しました。市場では日本の国債には買い手がつきにくいとして、価格下落・利回り上昇が起きているのです。長期金利の上昇は、国債の利払い費の増加に直結します。
国債の利払い費は25年度、10.9兆円(国債費総額は28.2兆円)で、この時点で防衛費の8.7兆円を上回っています。国際情勢の緊迫化に合わせ、防衛費を増やしていかなければならないのに、借金の利払い費がそれを上回る事態なのです。しかもインフレによる税収増は瞬時に実現するのに、国債費は償還(返済)が増えていくにつれ、どんどん膨らむ。首相がその時間差を考えているようには見えない。チグハグな展開です。
26年度には利払い費は13兆円に達する見込みです。その後さらに増え、34年度の利払い費は25ー34兆円まで膨張します。「責任ある積極財政」という高市首相のスローガン「責任ある」の意味は「財政の持続可能性」であるはずです。せめて直近の補正予算、本予算からは「財政膨張を避ける」という判断が必要なのに、首相は真逆のことをしています。
高市首相は安倍・元首相を信奉し、アベノミクス(異次元金融緩和、財政膨張策)の継承者を自称しています。アベノミクスの時はデフレ、円高という環境でした。高市氏の場合は、インフレ、円安と真逆の状態です。経済環境が様変わりをしたのに、アベノミクスの継承者として、同じことをやろうとするのは間違いでしょう。
さらに高市氏は「アジアのサッチャー」だそうです。サッチャー首相は「小さな政府、新自由主義」の政策でした。高市氏が始めたことは、「大きな政府、国家主導型経済」です。サッチャー首相と真逆の高市政策なのに「アジアのサッチャー」というのは理解できません。
高市首相は、「経済あっての財政再建」が持論です。名目GDPが増大すれば、国の債務(国債)残高比が下がっていくはずと、楽観的なようです。とにかくインフレによって名目GDPを増やしたいのでしょう。
実質を伴わないGDPの増大なら意味がありません。高市首相は「17分野の重点投資」で重要産業を育成するそうです。閣僚全員に担当を割り振る。政策、議論が拡散するだけです。しかも国家主導型で推進するようです。中国の産業政策のマネですか。国家主導型の産業育成は日本では失敗に終わる。中国のように有無を言わせぬ独裁政権でないと成功しないのです。
新聞社説は高市政権をどうみているのでしょうか。朝日新聞は「日銀の力量が一段と問われている。きめ細かな政策運営を心がけるべきだ」と主張しました。「きめ細かな」ではなく、大きな枠組みの下で論評することです。
日経は「高市政権の財政拡張への懸念がくすぶる」、読売は「高市政権の下で財政が悪化する懸念や日銀が利上げを継続する観測で、長期金利は2%を超えた」です。なぜもっとはっきり「高市政権の金融財政政策はチグハグすぎる」と明言しないのでしょうか。腰が引けた論評です。

高市首相 自民党HPより
編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2025年12月20日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。






