全国の自治体で、観光を目的とした拠点整備事業が相次いでいる。人口減少が進む中、交流人口の拡大を掲げること自体は、もはや珍しいものではない。
しかし、その多くで「交流人口を増やす目的は何か」「誰を呼ぶのか」「どのように来てもらうのか」という指標や集客設計、すなわちマーケティングが、事業の中核として明確に位置づけられているとは言い難い。
本稿では、千葉県佐倉市が進める「ふるさと広場拡張整備事業」を題材に、地方議会の一般質問と、それに対する行政の答弁を一次資料として読み解く。

西印旛沼水辺拠点整備 ふるさと広場周辺計画 イメージパース
佐倉市HPより
一般質問は、政策の理念や意思決定の前提が、最も端的な形で言語化される場である。そこに表れる説明のあり方を追うことで、個別事業の成否を超えた、自治体観光事業に共通する構造的課題を考えてみたい。
マーケティングの定義
本稿で用いる「マーケティング」とは、単なる広報や宣伝活動を指すものではない。誰を主要な来訪者として想定し、その人々がどのような動機と経路で現地を訪れ、どのような体験をし、結果として何が地域にもたらされるのか——そうした一連のプロセスを、事業の初期段階から設計し、検証可能な形で共有する考え方を意味している。
言い換えれば、マーケティングとは「集客の技術」ではなく、「事業目的と手段を接続するための設計思想」である。この視点が事業にどの段階で、どの程度組み込まれているのかを確認することが、本稿の中心的な関心である。
この定義に照らすとき、地方議会の一般質問で問われているのは、必ずしも「事業は成功するのか」「賛成か反対か」といった二項対立ではない。むしろ焦点となるのは、事業がどのような前提に基づいて設計されているのか、そしてその前提が行政内部でどこまで共有されているのかという点である。
一般質問で暴かれる設計思想の欠如
実際、佐倉市のふるさと広場拡張整備事業をめぐる一般質問をたどると、議員ごとに切り口は異なりながらも、共通して浮かび上がる問いがある。それは、誰を主要な来訪者として想定しているのか、来訪者はどのような経路で現地にアクセスするのか、そしてその結果として、地域にどのような変化をもたらそうとしているのか、という事業の成立条件に関わる問いである。
これらは一見すると個別具体的な質問の集合に見えるが、マーケティングを「事業目的と手段を接続する設計思想」と捉えるならば、いずれも本来、事業の初期段階で整理されているべき論点である。一般質問の場で繰り返し問われているという事実は、これらの前提が十分に言語化・共有されないまま事業が進んでいる可能性を示唆している。
重要なのは、一般質問がその不足を「暴く」あるいは可視化する場であるという点だ。議員は、行政が内部で暗黙に前提としている考え方を、あえて言葉にさせる役割を担っている。その過程で示される答弁は、事業の公式見解であると同時に、行政がどの水準で事業を理解し、説明しようとしているかを映し出す鏡でもある。
次回は、こうした問いが投げかけられる前提となった、ふるさと広場拡張整備事業そのものについて、時期、目的、位置づけといった事実関係を整理したうえで、具体的にどのような一般質問と答弁が交わされてきたのかを確認していく。






