毎年、企業が工夫を凝らすのが正月の新聞広告である。
ここ数年でもっとも面白かったのは、一昨年(2024年)のカネボウだ。
「唇年」(カネボウ 2024年)
辰年の「辰」+口=「唇」年としたリップの広告。うまい。作者は「2024年元日のタイミングでしか出せなかった」という。とはいえ、これは変化球だ。通常は、明るい未来を感じさせるキャッチコピーが多くなる。今年も例外ではなかった。
「次の100年を、この国から。」(トヨタ センチュリー)
「2026年。希望の光を、キヤノンから。」(キヤノン)
「未来への、リレーが始まっている。」(旭化成 ヘーベルハウス)
等々。美しいが、新年の広告としては、やや物足りない。近年で最も印象的だったのは、2024年の宝島社の広告だ。

宝島社プレスリリースより
「それでも、ニッポンはいい国だ。」(宝島 2024年1月5日)
手掛けたのは、宝島社創業者の故蓮見清一氏。企業広告に人一倍情熱を注いできた人物でもある。これが、氏にとって最後の新聞広告となった。
一見、“日本スゴイ系”の広告にみえる。だが、手放しで賞賛しているわけではない。コピー先頭に「それでも」が付いている。「それでも」の前段には、過去、宝島社が訴えてきた様々なメッセージがある。同社のこれまでの企業広告を見てみよう。
真珠湾と原爆

宝島社プレスリリースより
「忘却は、罪である。」(2017年1月5日)
15段見開きの左に1941年12月の真珠湾攻撃。右に1945年8月の広島原爆投下の記録写真。下部中央に、やや小さめのキャッチコピーが添えられている。
オバマ大統領の広島訪問やトランプ新大統領の誕生、イギリスのEU離脱など不安が高まっていた当時。テーマ「世界平和」を、抽象的な平和礼賛ではなく、「忘れてはならない事実」をつきつけることで訴えた。当時以上に不安感が高まっている今こそ、このキャッチコピーがふさわしいのではないだろうか。
ガラスの天井

宝島社プレスリリースより
「男でも、首相になれるの?」(2022年1月6日)
ドイツのメルケル氏が16年首相を務めた結果、子どもたちがこのように尋ねるようになったという。「男が首相になる」という常識が16年で逆転したのだ。
コピーは「ほんの少しでもひびが入れば、ガラスはもろく壊れてゆく」と続いている。はたして、昨年の日本初の女性首相誕生は「ひび」止まりか。それとも常識の「破壊」にまで至るのだろうか。
負の連鎖

宝島社プレスリリースより
「敵は、嘘。」「嘘つきは、戦争の始まり。」(2019年1月7日)
隠蔽、陰謀、収賄、改ざん、そしてフェイクニュース。多くの人が平然と嘘をつく。その状況に慣れ、怒ることさえ忘れている。この負の連鎖はきっと私たちをとんでもない場所へつれていく。嘘について改めて考え、立ち向かってほしい。そんな思いを込めたという。
2011年9月2日
「それでも」の前段を見てきた。このような問題をニッポンは抱えている。「それでも」ニッポンはいい国だ。蓮見氏はこう訴えたかったのではないだろうか。
氏が手掛けた以下の広告は、多くの日本人を力づけた。

宝島社プレスリリースより
「いい国作ろう、何度でも。」(2011年9月2日)
掲載は、東日本大震災からおよそ半年後の2011年9月2日。
11年9月2日と「いい国」とのごろ合わせの日。そして、第二次世界大戦の降伏文書に調印した日でもある。天災・敗戦などを乗り越え、国を再建してきた日本人の「内なる発奮」を促したい。苦難の年に、日本人が本来持っている力を呼び覚ましたい。そんな意図があったという。
たかが広告。されど広告。「社会を映す鏡」とも言われる広告。今年、これから目にする広告が、より大きく希望に満ちたものになることを願う。
【参考】
宝島社プレスリリース、公式サイト
「嘘つきは、戦争の始まり。」 宝島社が広告で問いかけた「平和」とは
他






