99%の社長が陥る「売上至上主義」という名の経営放棄 --- 長瀬 好征

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「売上さえ上げれば、会社は何とかなる」

もしあなたが経営者で、心のどこかでそう思っているなら、非常に危険です。

30社以上の中小企業を支援してきた経験から断言しますが、売上を追いかけることに必死な社長ほど、本質的な経営力が育たず、結果として会社を危機に陥れています。

事実、私が支援したある製造業の社長は、前年比150%という急成長を成し遂げながら、その3ヶ月後には資金ショートの直前に立たされていました。

恐ろしいのは、彼が倒産寸前まで「自分は正しい経営をしている」と信じ込んでいたことです。

売上という「目に見える数字」に依存した結果、経営の生命線である財務の構造を理解する思考力が完全に停止していたのです。

「思考のフレームワーク」なき経営の末路

中小企業庁の調査によれば、事業計画書を作成している企業は約30%に過ぎません。

つまり、残り70%の社長は「地図なき航海」をしています。

計画がない経営者にとって、唯一の判断材料は「売上」という分かりやすい数字だけです。

しかし、売上至上主義は経営手法の選択ではありません。それは「考えるための枠組みを持っていない」という症状に過ぎません。

一橋大学名誉教授の伊丹敬之氏は、40年も前から日本の経営者の「思考力不足」に警鐘を鳴らし続けてきました。現在、そのツケが中小企業において「売上はあるが金がない」という、歪んだ形で顕在化しています。

経営は「術」ではなく「科学」である

私はかつて融資サポートのプロとして活動していましたが、今はその看板を降ろしました。銀行から金を引っ張る「術」を教えても、社長の頭の中に経営のロジックがなければ、穴の空いたバケツに水を注ぐのと変わらないからです。

経営は、才能や勘で行う「術」ではありません。

認知脳科学、会計、そして事業計画という3つの柱に基づいた「科学」です。

理化学研究所の研究によれば、高度な直観力(瞬時の判断力)は、正しいフレームワークを用いた4ヶ月の集中的な訓練で習得可能であることが証明されています。

将棋のプロが盤面を一目見て最善手を見抜くように、経営者も正しい「型」を学べば、数字の背後にあるリスクを瞬時に察知できるようになります。

「当たること」より「なぜズレたのか」

多くの社長が事業計画を嫌うのは、それを「予測を当てるためのもの」や「補助金申請の作文」だと思っているからです。

しかし、計画の真の目的は「当たり外れ」ではありません。

大切なのは、計画と実績が「なぜズレたのか」を凝視し、未来のために次の一手を考えることです。

未達の理由(言い訳)を探すのをやめ、経営の羅針盤を持つ。

この「振り返り」の質こそが、年商1億、10億、そして50億という壁を突破する唯一の鍵となります。

令和の時代、政府は明確に「思考力(経営力)のない社長」を市場から淘汰する方向に舵を切っています。

補助金採択率の低下はその明確なサインです。

しかし、逆を言えば、経営を科学として捉え、LV1の基礎から学び直す意志のある経営者にとって、今の日本ほど「緩やかな競争環境」はありません。

「売上に振り回される経営」を卒業し、自らの手で「売上をコントロールする経営」へと脱皮できるか。その「器」の成長こそが、2200年まで続く繁栄の土台となるのです。

長瀬 好征
経営コンサルタント。一倉定の思想と認知脳科学を融合した「収益満開経営」を提唱。元融資サポートのプロとして30社以上の財務改善を支援。年商50億円突破を見据えた経営の科学化を伝承している。
収益満開経営(ブログ):https://evergreen-mgt.biz/blog/