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8日に投開票された衆院選の投票者数は、小選挙区が5806万人(在外投票者約3万人を除く)、比例区が5806万人(同)で、当日時点の有権者数(1億321万人)で除した投票率は、小選挙区が56.26%、比例区が56.25%と前回比2.41ポイント上昇し、投票数は約260万票増加した(総務省の速報値)。
各地で大雪に見舞われた投票日の悪天候を考えれば、前回からの260万票の増加は今回の総選挙への関心の高さを大いに物語る。それには、前回に比べて600万票以上増え、2700万票を超えた期日前投票の寄与があった。差し引きすれば、当日の投票者は前回より340万人減った計算になるからだ。
筆者は「投票のご案内」が届いた翌日に持参して投票したが、ある自治体のサイトを見ると「ご案内」なしでも、告知した住所・氏名・生年月日が選挙人名簿に登録されていれば、期日前でも当日でも投票が可能とある。これに米国ウォッチャーの筆者は大いに驚かされ、「大丈夫か?」と訝りもした。
本年11月に中間選挙を控える米国では目下、選挙に係る2つ話題が沸騰しているからだ。1つはFBIによるジョージア州フルトン郡の捜索、他は「SAVE法」である。これらにはコロナ禍で行われた20年の大統領選での6500万票を超える郵便投票(16年大統領選の総投票数の47%に相当)が関係する。
今般の総選挙で大惨敗し、今は意気消沈している旧立憲・共産・れいわ・社民の左派政党だが、先々はたと我に返って米国の顰に倣い、投票所でのチェックの甘さを理由に、不正投票を訴え出ることだってあるかも知れない。そこで本稿では、米国での上記2件について取り上げる。
フルトン郡の件
FBIは1月28日、ジョージア州フルトン郡の選挙センターを捜索し、656箱の資料を押収した。それには20年選挙の投票用紙約30万枚、集計テープ、電子投票用紙の画像、有権者名簿が含まれていた。これに対し郡当局は4日、押収資料の返還を連邦裁判所に申し立てた。
ジョージア州北部地区連邦裁判所はこれを受けて、2月10日までに宣誓供述書を含む押収令状の情報を公開するよう連邦司法省に命じた。左派寄りメディア『Politico』は10日に裁判所が公開した書類に関し、「FBIによる2020年フルトン郡投票用紙押収の正当性が明らかに」との見出し記事を報じた。
FBI捜査官の宣誓供述書は、フルトン郡当局が違反した可能性のある2つの連邦法、即ち、連邦選挙での投票詐欺重罪とする規定と選挙記録を22ヶ月間保存すべしとの規定を指摘していた。郡当局は、投票用紙のスキャンと集計を保管していなかったと認めたが、それが求められているとは知らなかったとし、紙の投票用紙を保管しているので重要なミスではないと釈明した。
文書公開の前日9日の『CNBC』記事は、「公開されれば司法省がどのような関心を抱いていたかが明らかになる」と報じたが、筆者は「司法省(=トランプ氏)の関心」は専ら「郵便投票用紙の署名と有権者名簿の署名の突き合わせ」にあると考えている。
FBIの押収騒ぎで21年1月4日に『ワシントンポスト』(『WaPo』)のエイミー・ガートナー記者が報じた記事の「I just want to find 11,780 votes」の見出しが蒸し返された。トランプ氏がジョージア州のラフェンスパーガー国務長官に架けた長い電話の中の「隻句」である。そして奇妙なことに、同記者のアーカイブ記事は大量に残っているのに、当該記事は既に削除されている。
同州でトランプ氏はバイデン氏に11,779票差で負けたが、トランプ氏が電話で同長官に要請したことの肝は『WaPo』の見出しと裏腹に「郵便投票用紙と有権者名簿の署名の突き合わせ」だった(21.1.7の拙稿『トランプの電話騒動で改めて思うメディアの偏向』)。同長官は、機械と手で何度も数えたと釈明したが、不正な身代わり投票の用紙を何度数えようが真相は究明し得ない。
署名の突き合わせはトランプ氏の5年越しの念願だ。名簿の署名と異なる署名の投票用紙が、押収した30万枚の中から11,800枚見つかれば選挙結果は覆る。余談だが、これを報じた『WaPo』は、先の大統領選でオーナーのベゾスがハリス応援記事を禁止し、幹部の辞職や部数減などにより人員整理中である。斯様に米国の左派メディアの退潮は著しい。
「SAVE法」
「SAVE法」は「The Safeguard American Voter Eligibility Act:米国有権者資格保護法」の略称である。同法は、投票登録または登録情報の更新を行う全ての米国民に対し、本人による市民権を証明する書類の提示を義務付ける。またそれは、大多数の米国人にとってパスポートや出生証明書となる。
その最新版「SAVE America法案」が下院で2月11日、民主党の1票を加えた218対213で可決された。下院は同法案の初期版を24年と25年の2度可決したが、いずれも上院でフィリバスター(議事妨害)を回避する60票の賛成が得られず、否決されて廃案になった経緯がある。
下院の可決を受けてトランプ氏は13日、Truth Socialへの投稿で、「法的論拠を徹底的に調査した」「近い将来、大統領令という形で法的論拠を提示する」とし、議会承認の有無にかかわらず、11月の中間選挙では有権者の身分証明を義務付けるとの考えを示した。上院民主党への牽制球である。
今回の最新版では、今秋の中間選挙の投票者登録に市民権の証明を義務付け、必要な書類を提出せずに登録した選挙管理官には刑事罰を科すとしている。また今後の連邦選挙で、投票所または郵送投票で投票する者に写真付きの身分証明書(ID)の提示を義務付けている。
世論の動向はといえば、『ラスムセン』が12日に発表した調査では、有権者の55%が、居住州で外国人が違法に投票登録されている可能性が高いと回答し、うち32%は「非常に可能性が高い」とした。一方、そうした「可能性は低い」と考えている者は34%で、うち16%は「全く可能性がない」、11%は「判らない」と回答した。この結果は25年8月調査とほぼ変わっていないという。
同じく『ピューリサーチ』による25年8月の調査では、有権者の83%(民主党支持者の71%を含む)が有権者に写真付きIDの提示を求めている。また全米州議会会議によると、36州で投票時にIDの提示を義務付ける一方、他の州では署名確認などの身分証明情報で投票者を確認しているという。
上院民主党では、異端児ジョン・フェッターマン氏が、投票時のID提示は「不合理ではない」と述べてチャック・シューマー院内総務ら大半の民主党議員と対立している。シューマー氏は、IDを所持していない場合や、「結婚して姓が変わった女性は、IDを提示できず、差別を受ける」と、我が国の夫婦別姓支持派のよう理由で、「上院では民主党の票を1票も得られないだろう」と述べた。
また左派団体「American Progress」は3日、「SAVE法」は労働者階級と低所得層の米国人に不均衡な影響を与える深刻な社会経済問題を引き起こすとし、有効なパスポートを持つ米国人は、高卒以下では4人に1人、収入が5万ドル以下では5人に1人しかいないとするファクトシートを公表した。
同シートは更に、「SAVE法」に沿う書類を所持している可能性が高いのは、18歳から29歳の大学・大学院レベルの教育を受けた者や裕福な者、そしてリベラル派または民主党支持者を自認する者で、「沿岸部のエリート層」がこれに当たるとする一方、共和党支持者はこれらを所持する可能性が低く、保守派や共和党支持の女性は姓を変えている可能性が2倍高いなどとしている。
ならば民主党は法案に賛成すべきではないか。つまり、このファクトシートは「SAVE法」がトランプ政権の党利党略ではないことの証左になるのである。が、ここまでコケにされたからには、共和党員とその支持者はこのファクトシートの言を逆手にとって、この機に挙って写真付きIDを取得すべきだ。トランプ氏には是非、ID取得に補助金を出すことを勧める。
以上、縷説した署名の突合結果と「SAVE法」の帰趨は、秋の中間選挙に少なからぬ影響を与えるだろう。そして少なくも写真付きIDの提示は、常識や世論調査に照らして中間選挙に適用されることになると思う。が、日本にはマイナカード提示を義務付ける日など来て欲しくない。日本が日本でなくなる。






