黒坂岳央です。
「40代で人は狂う」という意見をよく見る。多くの場合は「子供がいない独身が狂う」と言われる。自分は子供がいる立場だが「独身だけが狂う」という意見には懐疑的である。確かに子供がいると育児に一生懸命で、狂う暇がなくなるのは事実だ。
だが、結局子供はいずれ親元を離れるし、10歳くらいになれば友達100%となり、ほぼ手がかからなくなる。もちろん、やることは無数にあるが物理的、精神的に出番は徐々に減っていく。そうなると結局、子供の有無に関わらず、自分自身と向き合うことになるので時間の問題なのだ。
40代の立場で「人生が狂う理由」を考察したい。

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1.人生のリセットができなくなる
若い頃、「人生のリセット」は非常に簡単である。
嫌な上司がいれば会社をやめる。合わない環境なら引っ越す。友達とあわないならブロック。責任が嫌なら派遣やタイミーでモラトリアム。
若さとは「許され力」でもある。周囲は失敗しても不誠実でも「まあ若いから」で許してくれる。だからそこに甘えて、人生におけるあらゆる責任から逃げ続ける人もいる。「辛かったら逃げていい」みたいな無責任の発言を真に受け、せっかく苦労して入った待遇や信用を獲得できる会社をやめてしまったりする。
もちろん、どうしても逃げるべき局面があるのは理解しているが、「楽だけを求めて、今より下降し続ける逃げ」はどこかで袋小路にぶつかる。
そして40代になると一気に事情が変わる。中年からはもう簡単に逃げることはできない。
嫌だからとキャリアアップでない転職をすると、ドンドン待遇が落ちていく。遅咲きの独立は即死リスクがある。家族のことを考えてフットワーク軽く移動が出来ない。既存の友達を切ればもう天涯孤独に落ちる。
そう、人生からリセットボタンが消えるのだ。「中年は辛い」とよく言われるのは、辛いライフイベントがよく起きるからではなく、嫌なことがあっても若い頃のように軽い気持ちで逃げることができなくなるからだ。
逃げという選択肢が封じられた瞬間、そこから真に自分自身と向き合う人生が始まる。逃げ続けてきた人にはこれはかなり厳しい現実である。逃げ道がないと人は合理的に考えられなくなり、判断力が落ち、感情で動き始める。そして人生は狂い出すのだ。
2.人生の先がハッキリ見える
20代は可能性、30代は成長の時代だ。人生は右肩上がりに伸びていく。だが40代は違う。現実と向き合う時代だ。
会社員なら、役職の天井が見える。日本において課長以上の役職になれるのは31.6%(厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」)。昔からざっくり役職がつくのは3割しかおらず、7割が一生平社員だ。これは能力の問題というより、席数の問題だ。椅子が3つしかないなら、10人中7人は座れない。
一生平社員ルートが確定的になった時、40代はこう思う。「残りの人生、今の生活を一生やるだけなのか」と。これはしんどい現実だ。それまで心のどこかにあった「自分はもっと上に行けるはずだ」という幻想が消える。端的にいうと、人生の「右肩上がり感」がなくなり、老いを考慮すると人生全体が右肩下がりのフェーズに突入する。
希望が消えた人間が次に取る行動は、ざっくり3つだ。
・少しでも維持、もしくは成長を望んで努力する
・魂が抜けて狂う
・焦って一発逆転を狙う
狂いやすいのは3つ目のルートだ。急に独立、急に投資、急に転職、急に婚活で人生一発逆転ホームランに勝負しがちである。
もちろんそれでうまくいく人もいる。だが若い頃からチャレンジしながらPDCAをまわす現実的なやり方を知らないと、いきなりでかすぎるリスクを取って破滅的な失敗に至る。失敗すると時間的にもう後から失敗を挽回しづらい。
40代の狂いは、「焦りからくる人生のギャンブル化」なのである。
3.死の解像度が上がる
40代の最も本質的な変化は、死が“概念”から“現実”になることである。親が弱る。親が死ぬ。友人が病気になる。同世代が突然死する。自分の身体も壊れ始める。このとき人は、初めて腹の底から理解する。
「自分も死ぬのだ」と。
すると人生の時間感覚が変わる。残り時間が有限であることが急にリアルになる。これはまだいい。のんびりペースが急ぎペースになること自体は否定しない。
問題は多くの人は「残り時間で何をすればいいか」が分からないまま気持ちだけ焦ることだ。もう何か大きな偉業を成し遂げるには残り時間は限られている。だが、肝心のやりたいことがない。そもそもやりたいことがなにかもわからないまま、なのに時間だけは猛烈な勢いで減っていく。
この矛盾が人を狂わせる。死が怖いのではない。自分の人生の空虚さにへの恐怖が、人を狂わせるのである。実際に空虚であるかどうかが問題ではなく、主観的にそう解釈するのがよくないのだ。
変な宗教や怪しいインフルエンサーに騙されたりする人が出てしまうのは、自分一人ではどうしようもなかった人生の救済者を求めているからだ。だがそんな人はこの世にいない、という当たり前の現実が狂うとわからなくなってしまうのだ。
◇
40代とは「自分の人生に本気で向かう年代」である。若い頃のように可能性が無限に感じられず、先行きが見え、終わりが近づく実感も強くある。
筆者は若い頃から本気でサバイバルしなければ人生が終わる危機が次々と来ていたので、良くも悪くも自分と向かうフェーズは20代で済ませているので狂ってはいない。だが仮に20代でそうした経験がなく、いきなり40代でこれを浴びせられると狂うのも致し方がないと理解できるのだ。
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