高市圧勝の正体:ポピュリズムからアテンション・ポリティクスへ

自民党HPより

今回の圧勝は、参政党が飛躍した前回の参議院議員選挙の世界的な流れである反エリートのポピュリズム(「敵の創出と二分法」「反知性主義と単純化」「カリスマ」)の文脈での解説も見られるが、そもそも、高市氏は確かに右派ではあるが、演説では身の上話が多く、親近感・身近感を打ち出しているので、トランプのようなカリスマではないのではないか。

また、トランプ、モディ(インド)、エルドアン(トルコ)のようなポピュリストの政権トップは有言実行するが、高市氏は、自民党総裁選直前には「竹島の日、(記念式典に)堂々と大臣が出て行ったらいいじゃないですか。顔色をうかがう必要はない」と公言しながら、首相として選挙に大勝しても、2月22日の「竹島の日」に閣僚派遣を見送っている。俗にいう有言不実行であり、ポピュリストの政権トップとは言いがたく、これまでの自民党の首相の有言不実行と何ら変わらない。

また、2009年の民主党の地滑り的勝利(これは政権交代という大義の選択)になぞらえて、現状の停滞の打破という変化の観点で語られることも多いが、有権者としてはどこかしっくりこないのではないか。

それとは異なる視点の「ファン心理」や「推し活(サナ活)」からの解説もなされていて興味深いが、ここでは情報化社会の観点から今回の圧勝を見てみたい。

選挙前の勝敗ラインを思えば、今回の圧勝は高市氏自身も想定外ではないだろうか。1990年代半ばに始まるインターネット社会は、読むだけのWEB1.0から読み書き双方向のWEB2.0へと進歩し、SNSサービスの日常化が一気に進んだ。これによって、我々は情報が氾濫するネット社会のなかで日常を送るようになってきている。

ノーベル経済学賞受賞者のハーバート・サイモンが1960年代後半に「情報経済においては『アテンション(関心)』が通貨のように取引される」と予言したように、情報氾濫社会においては人の「アテンション(関心)」は希少資源となり、経済活動にとってその取り合いが重要になるわけである。

これを社会学者マイケル・ゴールドハーバーは1997年に「アテンション・エコノミー」と呼び、この呼び名はプラットフォーマーを筆頭に、人の「アテンション(関心)」をいかに引き付けられるかをアルゴリズムで日々競っているSNSをはじめとするネット社会において定着している。

人の「アテンション(関心)」を引き付けるには、行動経済学者であるダニエル・カーネマンの言う思考のシステム1(ファスト:直感的、自動的、感情的な速い思考)に訴求する必要があるので、単純化と刺激が重要になる。刺激は慣れるので、その刺激は過激化していく。

「アテンション・エコノミー」の世界では、システム2(スロー:論理的、計画的、理性的な遅い思考)は必要とされない。SNSをはじめとするネット社会に日常的にかかわるということは、我々は好むと好まざるとにかかわらず、この「アテンション(関心)」の争奪戦に巻き込まれるわけである。

この「アテンション(関心)」の争奪戦という文脈で今回の圧勝を考えてみると、総裁選勝利での「働いて働いて働いて働いて働いて、参ります」発言に始まり、女性初の総理大臣、「日本のサッチャーになる」や反中国の鷹派発言、韓国大統領とのドラム共演、NHK「日曜討論」出演の直前キャンセルと持病の関節リウマチの指の病変悪化によるテーピング(リウマチの専門医は処方しないことが多いという)など、有権者の「アテンション(関心)」を取るのに十分に刺激的であった。

今回の選挙戦においても、高市早苗のペルソナ化とともに、その行動と発言はマスコミの話題になるように「アテンション(関心)」を取ることに注力し、その一方で、システム2(スロー:論理的、計画的、理性的な遅い思考)を必要とする政策議論は避け、選挙期間も短くし、議論を必要としないシステム1に訴える「高市内閣への白紙委任状」で押し通したわけである。

この戦略は、特にネット社会への親しみの強い若年・壮年層には機能したのではないか。ゆえに、消費税減税に唯一反対した「チームみらい」も想定以上の「アテンション(関心)」を取れたのではないだろうか。

この意味で、中道改革連合のお二人の男性党首には、有権者の「アテンション(関心)」を取れる刺激はないと言わざるを得ず、大敗は必然といえるのかもしれない。

今回の高市人気の背後に、旧態依然の男性政治家への刺激・期待のなさがあることを、日本の政治に馴染んだ男性政治家は十分に理解する必要があるであろう。

ポピュリズムを超えて、有権者の「アテンション(関心)」の争奪戦となる「アテンション・ポリティクス」という世界最先端の未踏の領域に踏み込んでしまった日本の政治の将来を真剣に考える必要があるのではないだろうか。

なぜなら、当事者または他人(主に政治・思想的動機や稼ぎのために動画再生数を競う匿名アカウント投稿者)が意図的にアテンションを狙うとともに、当事者が意図することがなくともアテンションを取ってしまうケースもあり、アテンション・ポリティクスではコントロール不能な正のフィードバックがかかるからである。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者様登録フォームより登録ください。

コメント