政府は日銀の審議委員に「リフレ派」といわれる2人を提示したが、このうち浅田統一郎氏はリフレというよりMMTで、藤井聡氏と一緒に動画に出ている。
もう一人の佐藤綾野氏は無名だが、彼女の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」での講演(2023年2月)は、高市首相のよく使うフレーズが出てくるので興味深い。
全体としては、15年前のリフレ派の話を聞いている感じだ。佐藤氏の主張は図1に要約されるが、これを2023年に描いているのは唖然とする。

図1(佐藤綾野氏)
マネタリーベースが増えると「インフレ期待」が起こるという話は、黒田総裁が2013年に量的緩和を始めるとき強調したが、そんなことは起こらなかった。期待インフレ率の代理変数であるブレークイーブン・インフレ率は、2010年代に最高1%にしかならなかった(図2)。皮肉なことに、黒田氏が退任してから、ウクライナ戦争による供給制約で物価は上がったのだ。

図2
もう一つの経路はMBの増加で円安になるという効果で、佐藤氏はそれによって輸出が増えてGDPが増えるというが、そんなことは起こらなかった。円安で貿易赤字は増えたのだ(図3)。

図3(財務省)
これを彼女は「Jカーブ効果」で説明しようとするが、あいにく貿易収支はその後もほとんど赤字である。経常収支の黒字が続いたのは、海外直接投資による第1次所得収支の黒字が増えたからだ。つまり黒田日銀が大量に供給したMBは企業の海外直接投資となって円の流出を促進し、産業空洞化をまねいたのだ。
それによってGDPは上がっただろうか? 残念ながら黒田総裁の在任中の実質GDP成長率は年平均0.5%、名目でみてもイタリアに抜かれてG7で最低である(図4)。

図4(日本経済新聞)
要するにアベノミクスは失敗だったというのが多くの経済学者の評価だが、佐藤氏のようなごくわずかの経済学者が政治家にデマを吹き込んでいる。特に「円安で成長できる」というデマは罪深い。それは事実に反しているばかりでなく、高市首相のような無知な政治家をあざむいてインフレ・円安政策を取らせるからだ。
円安でグローバル企業の海外収益は上がったが、その多くは現地で再投資され、日本には戻ってこない。その株主は豊かになるが、それ以外の家計は貧しくなるのだ。
この問題の解決は、きわめて困難である。それはグローバリゼーションという世界経済の必然的な変化だから、これをトランプ大統領のように重商主義で止めようとするのは愚かだが、高市首相のように財政バラマキで円安を促進するのも愚かである。円安はグローバル企業の株主以外のすべての国民を貧困化する大衆課税なのだ。






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