マクドナルドのポテトが教えてくれた「適当」という愛情

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子育てに正解はない、とよく言う。言うだけなら簡単だ。

問題は、頭ではわかっていても体が「完璧」を求めてしまうことにある。特に、私のような発達障害を持つ人間は。

発達障害・グレーゾーンかもしれない親の子育て」(中村郁 著)かんき出版

白か黒か。ゼロか百か。私たちはこの二択で生きてしまいがちだ。「子どもには体に良いものを食べさせたい」と思ったら最後、料理教室に通い、手作りおやつにこだわり、つい凝り性のスイッチが入る。

そして当然ながら、毎日それを続けるのは不可能で、できなかった日に自分を責める。馬鹿みたいな話だが、本当にそうなのだ。

で、結論から言う。子育ては「適当」でいい。いや、「適当」では生ぬるいか。カタカナで「テキトー」。このくらいがちょうどいい。

広辞苑によれば、「適当」には「ほどよくあてはまること」という意味がある。つまり本来はポジティブな言葉なのだ。「いい加減」というネガティブな意味もあるが、子育てにおいてはどちらの意味でも構わない。要は、こだわりすぎて自分も子どもも苦しくなるくらいなら、肩の力を抜けという話である。

我が家の場合、子どもの習い事が終わるのが夜7時を過ぎる日がある。帰り道、子どもがマクドナルドを指さして「ハッピーセットが食べたーい!」と叫ぶ。

私はどうするか。躊躇なく買う。

子どもは食べたいものが食べられて、おまけのおもちゃまでゲットできて大喜び。習い事を頑張ったご褒美だ。これが「適当」の福音。そんな日があっていい。

もしここでマクドナルドを許さず、家に帰って必死の形相でごはんを作ったらどうなるか。いくらおいしい手作りご飯を出しても、子どもは「ママ、イライラしてるな」と感じる。さみしい気持ちになる。そっちのほうがよほど良くない。

——そういえば、思い出した。

私が子どもの頃、スイミングスクールに通っていた。迎えに来てくれるのはいつもおじいちゃんだった。おばあちゃんは「マクドナルドなんて絶対だめ!」という人で、一度も食べさせてくれなかった。でも週に一度、スイミングの日だけは、おじいちゃんがおばあちゃんに内緒で、こっそりポテトを買ってくれた。

あのポテトの味は、いまだに忘れられない。私がまだ幼い頃に他界したおじいちゃん。マクドナルドのポテトは、私にとって「おじいちゃんの味」だ。

完璧な食事の記憶は残っていない。でも、あの帰り道のポテトは覚えている。子どもの心に残るのは、栄養バランスではなく、そのときの温度なのだと思う。

もうひとつ、発達障害の親には意外な武器がある。「子どもと一緒に楽しむ力」だ。

発達障害を持つ人は「精神年齢が若い」と言われる。「実年齢×3分の2」なんて説もあるらしい。私自身、それくらいだと自覚している。無邪気で、すぐ夢中になって、あちこちに興味が飛ぶ。大人としてどうなのかと自分でも思うが、この特性、子育てでは最強なのだ。

カードゲームで負けたら本気で悔しがる。なわとびで子どもと張り合う。けん玉に没頭して夕飯を忘れかける(これはまずい)。でも、親がそうやって心から楽しんでいる姿は、子どもに伝わる。そして何より、子どもは「親と一緒に何かをする」こと自体がうれしいのだ。

完璧な親じゃなくていい。一緒に笑えればいい。テキトーで、無邪気で、ちょっと頼りない。でも一緒にいて楽しい。そんな親で、いいじゃないか。

※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

<書籍評価レポート>

■ 採点結果
【基礎点】  40点/50点(テーマ10点、論理構造10点、完成度10点、訴求力10点)
【技術点】  20点/25点(文章技術10点、構成技術10点)
【内容点】  20点/25点(独創性10点、説得性10点)
■ 最終スコア 【80点/100点】
■ 評価ランク ★★★☆ 水準以上の良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】

テーマの方向転換:前作・前々作のビジネス書路線から大きく舵を切り、発達障害を持つ母親の子育てという極めてパーソナルな領域に踏み込んだ。著者自身の当事者としての経験に裏打ちされたテーマ選定は、読者層の拡大と社会的意義の両面で評価できる。

体験の説得力:宿題を出し忘れた娘を責めそうになる瞬間、マクドナルドのハッピーセットを躊躇なく買う判断など、日常の具体的なエピソードが豊富で、理論や建前ではない「生きた子育て論」として機能している。特におじいちゃんのポテトの挿話は、読後も記憶に残る温かさがある

心構えの実用性:「責めない」「適当でいい」「一緒に楽しむ」という9か条の構成は、発達障害の有無を問わず、子育てに悩むすべての親に刺さる普遍性を持つ。

【課題・改善点】
エビデンスの薄さ:「実年齢×3分の2の精神年齢」など、根拠が曖昧な通説がそのまま記述されている箇所がある。読者が誤解なく受け取れるよう、出典や補足がもう少しあると信頼性が増す。

構成の単調さ:「心構え→エピソード→まとめ」のパターンが各章で繰り返される印象がある。前作・前々作からの転換という意欲作だけに、構成面でももう一工夫あれば、読み通す推進力がさらに高まったのではないか

■ 総評
ビジネス書の著者として実績を積んできた筆者が、前作・前々作から方向を大きく転換し、発達障害を持つ母親としての子育て経験を正面から綴った意欲作である。当事者ならではの生々しいエピソードと、「責めない」「適当でいい」という明快なメッセージは、読む者の肩の力を抜かせる確かな力を持つ。エビデンスの補強や構成面の工夫など改善の余地はあるものの、子育てに悩む親、とりわけ発達障害の特性を持ちながら育児に奮闘する人にとって、水準以上の価値がある良書と評価したい。

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