ホワイトカラーからブルーカラーに変わる難しさ

黒坂岳央です。

大学全入時代になった頃から、「大卒=デスクワーク=勝ち組」「現場労働=負け組」という意識をする人が増えたように思う。「勉強しないと将来、しんどい仕事をすることになるよ」みたいに子供に教える親もいた。

だがこうした価値観は、今、労働市場の需給バランスによって崩壊しつつある。建設・技能職での熟練工不足が深刻化し、企業の囲い込みが加速する一方、事務職は供給過剰による人余りが常態化している。

AIの台頭によりホワイトカラーの高度専門職すら代替リスクにさらされる中、実世界に介入するブルーカラーの希少性は相対的に高まっている。特に事務職は以前よりずっと応募過多が続き、空前の人余りが起きている。デスクワークは単純作業だけでなく、AIの台頭で高度専門職ですら危うくなっており、今はブルーカラーが求められる時代である。

だが「時代はブルーカラー」と言われてもホワイトカラーからブルーカラーへ移ることは容易ではない。これは技術的、体力的側面と言うより精神的な問題なのだ。

MEGUMI SAKUMA/iStock

やりたくないのではなく「出来ない」

よくブルーカラーを見て「自分はああいう汗をかく仕事はやれない」みたいなことを言う人がいる。彼らは「自分は選択肢として選ばない」と考えているが、厳密にはやりたくないのではなく能力として出来ないのだ。

ブルーカラーの仕事は体力が必須である。身体持久力、空間認識、危険察知、即応的判断といった能力が問われる。昔、筆者が仕事を覚えてこいと現場に送られた時、荷物の持ち方を厳しく注意されてしまった。「腰を使うな、すぐ駄目になるぞ」と。重い荷物の持ち上げ方1つ、技術が必要で簡単ではなかった(何度注意されても最後まで正しい持ち上げが出来なかった)。そして炎天下への耐性もなく、すぐにへばってしまった。筋力よりも生活基盤の転換が厳しいと感じる。

そしてより大きいのは社会的アイデンティティの壁である。大卒というラベルは長らく「知的労働者」という自己像と結びついてきた。現場に出ることは、その自己定義を揺るがす行為である。大学4年間の投資を無駄にするのではないかという心理的抵抗も働く。

合理性よりも自己物語が優先される。この心理的抵抗が移行を難しくする。これはハッキリいって実利を生まないプライドなわけだが、このプライドの高さは無視できないサンクコストである。

肉体労働は簡単にAIで代替されない

SNSなどでは「AIが進化すれば肉体労働も消える」という意見をよく見る。だが肉体労働は簡単にはすぐすぐにAI化されないと思っている。

デジタルAIは文章、画像、動画などを生成し、複雑で難解な課題を計算できる。そのため、データセンターで幅広く、低コストの仕事を担う。しかし、ロボティクスは物理世界に介入する技術であり、機体コスト、センサー、保守費、エネルギー、素材劣化、安全対策など複数の費用が発生する。実験室で再現できても、商業スケールで人間より安くなるとは限らない。

デジタルと違い、フィジカルAIにはエネルギーや素材の問題が大きく立ちはだかる。人間はあらゆる雑務を低コストでこなすが、トイレ掃除ロボはトイレ掃除しかしないし、大工ロボは大工しかしないだろう。総合コストで人間を下回らなければ持続的モデルにはならない。だが物理世界には重力、摩擦、天候変動、個体差といった「抵抗」がある。

ロボットが人間より安価になるには、賃金だけでなく教育コスト、事故リスク、保険を含めた総コストを下回る必要がある。このハードルが簡単ではない。

エネルギーと資源の限界

エネルギー供給の制約と地政学的に見て今後、レアメタル等の資源争奪戦を考慮すれば、全人類の全労働をロボット化するシナリオはエネルギーと資源がボトルネックとなり、非現実的である。

この非対称性により、屋外建設、インフラ保守、介護といった「代替困難な現場技能」の価値は市場原理に従って上昇し続ける。今後、日本が直面するのは、優位性の逆転が起きているにもかかわらず、心理的・肉体的障壁によってデスクワークに固執し続ける層の滞留である。事務職が消失していく中で、このスイッチの失敗はリスクとなり得る。

現在、日本ではブルーカラーは外国人労働者に支えられている。「力仕事は外国人に、デスクワークは日本人が」と考える人も多いが、今後のメガトレンドとしてブルーカラーに優位性が生まれれば、どこかでデスクワークからブルーカラーに転身しなければいけない人も出てくるだろう。

だが、プライドや体力的要素などで簡単にはスイッチが難しい。かといってAI化もすぐには現実的ではない。ブルーカラーの人手不足解消は簡単ではないだろう。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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