マルチビタミン摂取は老化を遅らせる?

Nature Medicine誌のニュース欄に「A daily multivitamin slows the ticking of epigenetic clocks」というタイトルの記事が出ている。ゲノムの配列は基本的には変わらないが、様々な要因で、加齢とともにDNAのメチル化は変化していっている。

教科書的には、ゲノムDNAは変化しないが、実際は紫外線、放射線、環境・食物中に含まれる物質によってダメージを受けているので、細胞レベルで詳細に調べると、ゲノムDNAも変わっていくので、高齢者で一つ一つの細胞を比較すると変異が高い割合で見つかる。

その変異が細胞の増殖に影響を与えるような遺伝子で起こると、細胞の塊として増えていく腫瘍となるが、そうでない場合には、個々の細胞レベルでの変化は認識されない。

DNAメチル化パターンから生物学的年齢(老化)を推定する「エピジェネティック・クロック」(DNAレベルでの老化時計)を用いて、複数のビタミンの摂取が、どのように老化速度に影響を与えるのかを調べた研究を紹介し、解説しているのだ。米国で実施された約21,000人規模の比較試験で、慢性疾患のない約1,000人に対して2年間、複数のビタミンを投与して評価したものだ。

その結果、毎日の複数ビタミン摂取によって、エピジェネティック・クロックの進み方がコントロール群よりも遅くなることが示された。ココアサプリメントでは有意な違いが認められなかった。しかし、複数ビタミンの効果は統計的には差はあるものの影響は非常に小さく、健康寿命や寿命などの延長につながるかどうかは現時点では不明である。

がんの治験でもそうだが、統計学的な差はあっても、生存期間が2週間延びるだけというようなこともあった。6か月が6か月+2週間になって、高額な医療費を払い、副作用で苦しむ期間が2ヶ月というような首をかしげることもあったが、統計よりも効く人と効かない人の違いを考えるようになってきたのは大きな進歩だ。統計学的データだけをエビデンスと呼ぶ人たちが増えてきては、日本の医学の進歩はとまる。

エピジェネティック・クロックは老化研究や予防医学における有望なマーカーではあるが、ビタミン接種が実際の疾患予防や健康寿命の延長に結びつくかの結論を出すには時期尚早だ。科学よりも金儲けが優先する社会では、このような結果が宣伝に使われてしまいそうだ。

Luke Chan/iStock


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2026年3月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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