ハグから始まった日米首脳会談

19日(日本時間20日)にホワイトハウスで行われた日米首脳会談は、高市総理を車寄せで出迎えたトランプ大統領とのハグから始まった。昨年10月27日から3日間の短い訪日の間に培われた信頼関係が、先般の衆院選で総理が圧勝したことでより強まっていることを感じさせる光景であった。

会談前恒例の記者団を入れた30分間ほどの前哨戦では、先ずトランプ氏がこう高市総理を称賛した。

ここに記録的な大差で選挙に勝利したとても特別な人物がいます。私たちには共通点がある。そして私は総理を支持できたことを誇りに思い、光栄に感じている。つまり、非常に人気があり、影響力のある素晴らしい女性です。私たちはとても良好な関係を築いており、貿易やその他多くのことについて話し合う予定です。お越しいただいて光栄です。

そして大統領から水を向けられた高市総理は、冒頭は英語、後半は日本語で次のように述べた。

招待していただきありがとうございます。現在の中東や世界全体の状況は非常に深刻な安全保障環境下にあり、世界経済も大きな打撃を受けようとしています。しかし、こうした状況の中でも世界平和を実現できるのは、ドナルド、貴方だけだと固く信じています。

会談終了後の会見で総理は、イラン情勢について、総理から大統領に事態の早期鎮静化の必要性を始め、我が国の考え方をしっかり伝えたとし、ホルムズ海峡における航行の安全とエネルギーの安定供給を含む中東地域の平和と安定の実現に向けて、日米間で緊密に意思疎通を続けていくことを確認したと述べた。

総理はまた、戦闘が続く中での自衛隊の艦船派遣は法的制約が多い日本の実情を説明し、可能な貢献を行う意向をトランプ氏に伝えたが、同行筋によると、トランプ氏は総理の説明を受け、艦船派遣に関する要求を重ねなかったという。また記者団から日本の貢献について問われたトランプ氏は、「日本からは力強い支持を得ている。NATOとはまったく違う」と理解を示した(20日の『産経』)。

こうした報道を見る限り、高市総理は初の訪米を無難にこなしたようである。ただし、最も気になるイラン情勢に関して、総理の述べた「事態の早期鎮静化」をどう実現するかという機微な事柄についても、当然話し合われたと思われるが、具体的な情報は報じられていない。

ヒントはトランプ氏が「艦船派遣に関する要求を重ねなかった(らしいこと)」や「日本からは力強い支持を得ている。NATOとはまったく違う」と述べた辺りにあるようだ。いずれ具体的な動きが報じられるだろう。ここでは、これに関連して2つのトピックに触れておきたい。

1つはスターマー英首相が主導して、英・仏・独・伊・蘭そして日本の6ヵ国が、ホルムズ海峡におけるイランの行動を非難する共同声明を発表したこと。腰の引けていたNATO主要国と共に日本が、ホルムズ海峡の安全航行維持に向けて協調的な支援を行う方向を示すものだ。彼にとって朗報だが、まだまだ不満だろう。

2つ目は18日に国家情報長官室が公表した世界の脅威に関する2026年版の年次報告書に纏わる件。19日の『日経』は同報告書が、高市総理が台湾有事は「存立危機事態になり得る」とした25年11月の国会答弁について「現職の日本の首相にとって重大な転換を表している」との見解を示した、と報じた。

全32頁の報告書の23頁にある当該部分の原文と拙訳を以下に掲げる。太字は筆者

Prime Minister Takaichi’s specific comments carry weight in Japan’s system because the phrase “survival threatening situation” serves as a possible legal justification for military authorities under Japan’s 2015 Legislation for Peace and Security. Her comments represent a significant shift for a sitting Japanese prime minister. China perceived her comments to be escalatory and violation of the Sino-Japanese Joint Statement of 1972 and their Treaty of Peace and Friendship of 1978, which included Japan’s recognition of the PRC as China’s sole government and respecting China’s position that Taiwan is an inalienable part of its territory. China probably is concerned that Prime Minister Takaichi’s comments will bolster Taiwan’s independence movement.

高市総理の具体的な発言は、日本の制度において「生存を脅かす状況」という表現が、2015年の平和安全保障法に基づく軍当局の法的正当化となり得るため、大きな重みをもつ。彼女の発言は現職の日本の総理としては大きな転換を示すものである。中国は彼女の発言をエスカレートし、1972年の中日共同声明および1978年の和平友好条約に違反していると見做した。これらの文書には、日本が中華人民共和国を中国の唯一の政府として認め、台湾を自国の領土の一部であるという中国の立場を尊重することが盛り込まれている。中国は高市総理の発言が台湾の独立運動を強化することになるのではないかと懸念しているように思われる。

報告書の上記の記述について木原稔官房長官は19日、「実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して、政府が全ての情報を総合して判断するという政府の立場は従来から一貫している」と改めて存立危機事態について説明し、「重大な方針転換との指摘は当たらない」と強調した。

同報告書が何をもって「a significant shift」と記したのか、その真意が判らないから、官房長官が政府の立場を改めて述べることも必要だろう。が、報告書がもしも、総理がこれまでよりも一歩踏み込んで、以下の様に具体的な例を挙げて答弁したこと指すのであれば、それはむしろ台湾への武力侵攻を自制される効果を中国にもたらすと思われ、筆者は好ましく思う。

台湾に対して(中国から)武力攻撃が発生する、海上封鎖というのも、これを戦艦で行い、また他の手段も合わせて対応した場合には、(中国による)武力行使が生じ得る話です。例えばその海上封鎖を解くために米軍が来援をすると、それを防ぐために何らかの他の武力行使が(中国によって)行われる。こういった事態も想定されるので、その時に如何なる事態が生じたかということの情報を総合的に判断しなければならないと思う。

なお、ホワイトハウスが会談後にUPしたファクトシート「ドナルド・J・トランプ大統領は、全米の利益のために日米同盟を強化する」は、台湾問題について次のように謳っている。

両首脳は、台湾海峡の平和と安定が地域安全保障と世界繁栄に不可欠な要素であるとして、その実現に尽力し、対話を通じた両岸問題の平和的解決を支持するとともに、武力や威嚇を含むいかなる一方的な現状変更の試みにも反対した。

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