
2025-11-衆院予算委員会で答弁する高市首相
自民党HPより
14日の中国共産党中央委員会の機関紙「人民日報」(日本語版)は、「日本の高市首相の台湾関連の誤った言動に中国外交部 『火を弄ぶ者は、必ず自らその火に焼かれる』」との見出しで、「台湾有事」に関する高市答弁について中国外交部林剣報道官が13日に行った記者会見の発言を報じた。
8日に「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」とXに書き込んだ薛剣駐大阪総領事もだが、「名は体を表す」との諺通りのこうした二人の「剣」氏の物言いは、毅然とした高市答弁と外交巧者ぶりへの中国の狼狽えの表れに見える。
林剣氏の発言内容に行く前に、7日の衆議院予算委員会での高市発言の文字起こし、および薛剣氏がX投稿で引用した『朝日』記事にある「存立危機事態」の解説を見ておく(一部を捨象した。()内は筆者の補足)。
立憲岡田克也議員:(中国が)海上封鎖をした場合に存立危機自体になるかも知れないとおっしゃるが、例えばバシー海峡が封鎖された場合、迂回すれば、日本のエネルギーや食料が閉ざされるということはない。よって、どういう場合に存立危機事態になるのかお聞きしたい。
高市総理:台湾に対して(中国から)武力攻撃が発生する、海上封鎖というのも、これを戦艦で行い、また他の手段も合わせて対応した場合には、(中国による)武力行使が生じ得る話です。例えばその海上封鎖を解くために米軍が来援をすると、それを防ぐために何らかの他の武力行使が(中国によって)行われる。こういった事態も想定されるので、その時に如何なる事態が生じたかということの情報を総合的に判断しなければならないと思う。単に民間の船を並べそこを通りにくくするといったことは存立危機事態には当たらないと思うが、実際にこれがいわゆる(米中)戦争という状況の中での海上封鎖が起きた場合はまた別の見方ができると考えます。
存立危機事態の解説:2015年に成立した安全保障関連法では、日本が直接攻撃を受けていなくても、密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる存立危機事態と政府が認定すれば、自衛隊が集団的自衛権を行使できる。高市氏の答弁は、台湾有事の際に状況によっては自衛隊が米軍とともに武力行使に踏み切る可能性を示したものだ。
岡田氏が、尖閣の海上封鎖に言及しなかったことに驚くが、高市氏はこれにも触れるべきだったろう。筆者は、中国の尖閣領有主張を「台湾は中国のもの⇒尖閣は台湾のもの⇒尖閣は中国のもの」との三段論法と見ているから、故李登輝元総統が「尖閣は日本の領土」と幾度も明言していたことを脅威に感じ、国民党馬英九氏に都度これを非難させた。
さて林剣氏だが、彼はこの高市発言にこう述べている。(以下、太字は筆者)
こうした誤った言動は、「一つの中国」原則、中日間の四つの政治文書の精神、そして国際関係の基本的な準則に著しく反し、中国の内政への乱暴な干渉であり、中国の核心的利益への挑戦であり、主権の侵害である。
台湾は中国の台湾であり、台湾問題をいかなる方法で解決し、国家の完全統一を実現するかは、中国人民自身の課題であって、いかなる外部勢力の干渉も許されない。
もし日本側が中国台湾海峡情勢に武力で介入するようなことを敢えて行えば、それは侵略行為にあたり、中国は必ず迎え撃ち、痛撃を加える。我々は『国連憲章』と国際法に基づき自衛権を断固として行使し、国家の主権と領土の保全を揺るぎなく守る。
まず「一つの中国」原則について、日中共同声明の「三」には「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」とある。また「内政干渉」というなら、林剣氏の言こそ我が国「内政への乱暴な干渉」である。
「中日間の四つの政治文書の精神」の一つも、日中共同声明の「六」の後段「両政府は、右の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、日本国及び中国が、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する」に謳われている。
従って、日本は「台湾は中国の一部だ」とする中国の立場を「十分理解し、尊重する」が、「台湾は中国の一部だ」としてはいない。また日中は「すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないこと」を確認しているのだから、中国が「台湾の武力統一を辞さない」と公言したこと自体、共同声明の精神に反しているのである(ロイター電「武力行使辞さずとの立場、台湾同胞に向けたものでない=中国高官」)。
故に、中国が「我々は『国連憲章』と国際法に基づき自衛権を断固として行使し、国家の主権と領土の保全を揺るぎなく守る」などと言おうが、中国の主権が及んでいない、中国の領土でもない台湾に中国の自衛権など存在しないし、そもそも「台湾同胞」どころか2300百万の7割近くが「自分は台湾人」と自認しているのである。
グラス駐日米大使が薛剣氏のXに「再び本性が露呈した。高市首相と日本国民を脅しにかかっている」「中国政府は、中国自身が繰り返し口にしているように『良き隣人』らしく振る舞うべきだが、全く実態が伴っていない」「いい加減にその言葉通りの振る舞いを示すべきではないか」とポストしたのは、トランプ氏の大口献金者である彼が親日家だからではなく、台湾に関する米中合意の精神が日中のそれとほぼ同じだからだ。
それに引き換え、玉城沖縄県知事や石破前首相の発言ときたら相も変わらず話にならない。報じられる限り両氏とも薛剣投稿を批判していないばかりか、玉城氏は「日中両国、冷静な対応を取って頂きたい」と述べた。が、中国が「冷静」なら事は起きないのに、「日中両国」とは何事か。
石破氏も「台湾の問題について『この場合はこう』と断定することを歴代政権は避けてきた」と高市答弁を難じる。が、高市氏が今般、中国が「戦艦」で海上封鎖し「米軍が来援」するケースに毅然と踏み込んだことは、むしろ「台湾有事」、即ち台湾武力統一を中国に躊躇させる効果を生むのではあるまいか。
この種のことにどこまで手の内を明かすべきかには議論があろう。が、「この場合はこう」と告げておくことが、林剣氏の様に常套句を弄するよりも抑止効果を大ならしめ得る。中国が「戦艦」を出し、「米国が来援」すれば戦争になるのは自明なのだから、高市答弁につけ込まれる余地があるとは思われない。
むしろ答弁の中で、中国の海上封鎖に尖閣が含まれる場合も存立危機事態に当ると述べ、その際には安保条約第5条に基づく米国の介入があることにも触れても良かった。10月28日、空母ジョージワシントンで演説する二人の背後には両国国旗を挟んで、トランプ氏が主導する「PEACE THROUGH STRENGTH」の文字が躍っていた。中国はこれに狼狽え、「高市侮り難し」と感じたであろう。
およそ与党議員たるもの、外交全般、とりわけ中国相手の外交では、先ずは公正な選挙で選ばれた支持率82%の首相を支える姿勢であることが国益に適う。主義主張が違っても、後ろから撃つのではなく、せめて外向けには黙っているべきだ。敵国内およびその同盟国との分断が彼らの主たる狙いなのだから。






