先月末、米国とイスラエルによる対イラン共同作戦「エピック・フューリー」が始まった。
報道では「何発のミサイルが発射されたか」が大きく取り上げられる。しかし軍事専門家の多くが注目するのは、まったく別の点だ。ミサイルそのものではなく、ミサイルを発射する装置(ランチャー)をいかに見つけ、破壊するか、という点である。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
「世界で最も危険な場所の一つ」
英紙フィナンシャル・タイムズがこの現実を鮮明に描く(有料購読記事、3月8日付)。同紙はイランの弾道ミサイル部隊を追跡する記事の中で、発射装置が発射地点へ向かう瞬間の危険性をこう描写している。
「イランの弾道ミサイル発射装置が隠れていた場所から姿を現し、発射地点へ急行する瞬間、その小さな運転席は突然、世界で最も危険な場所の一つになる」
さらに同紙はこう続ける。
「もし乗員が上空のドローンや衛星の監視を振り切れなければ、数分以内に発射装置は上空からのミサイル攻撃を受け、煙を上げる残骸になる」
現代の戦場では、ミサイルを発射する瞬間が、発射部隊にとって最も危険な瞬間になっている。
ミサイルは「発射装置」がなければ兵器にならない
弾道ミサイルは、単体では兵器として機能しない。ミサイルを運搬し、起立させ、発射角度を調整し、目標座標を入力して発射する装置が必要になる。
この役割を担うのが「移動式発射装置」(TEL=Transporter Erector Launcher)と呼ばれる巨大なトラック型車両だ。ミサイルの輸送・起立・発射という機能を一体化しており、長さは約20メートルにも達する。
ミサイルがいくら大量にあっても、発射装置がなければ攻撃能力は成立しない。発射装置を破壊すれば、弾道ミサイルは無用の長物になってしまう
中東カタールのメディア「アルジャジーラ」によると、イランは開戦前、約3,000発の弾道ミサイルを保有していたとされる。イランの弾道ミサイルは中東最大かつ最も多様な構成とされ、射程150~800kmの短距離型から、最大2,500kmに達する中距離型まで揃えている。しかしいかに多数のミサイルがあろうとも、発射装置がなければ意味をなさない。
発射装置を狙う戦争
攻撃を開始して以来、イスラエルと米国はイラン軍が最大2,000km離れた目標を攻撃する能力を支えている発射装置の破壊に集中してきた。米ワシントンDCに拠点を置く安全保障シンクタンク「欧州政策分析センター(CEPA)」が伝えている。
これは従来のミサイル防衛とは異なる発想だ。これまでの防衛は、飛んできたミサイルを空中で迎撃する方式が中心だった。イスラエルが運用するアイアン・ドームは主にロケット弾や短距離ミサイルを、米国のパトリオット・システムは弾道ミサイルや航空機を迎撃する。いずれも「撃たれた後に叩き落とす」発想の防衛システムだ。
しかし近年、軍事戦略家の間では異なるアプローチが重視されるようになっている。ミサイルが発射される前の段階で発射装置そのものを破壊する「発射前攻撃(Left of Launch)」という考え方だ。
この戦略の眼となるのが、軍事衛星・長時間飛行ドローン・偵察機・電子情報の分析・AIによる画像解析といった「探知手段」の組み合わせである。発射装置の移動や発射準備の兆候をリアルタイムで捉え、発見次第、航空機やドローン、長距離精密兵器で即座に攻撃する。
現代のミサイル戦争は、「ミサイルを撃ち落とす戦争」から「ミサイルを撃たせない戦争」へと変化しているのである。
「命がけのかくれんぼ」——発射装置の乗員たちの現実
発射装置を運用する乗員にとって、今回の戦争は命がけのかくれんぼのような戦いになっている。
米シンクタンク「ワシントン・インスティチュート」のファルズ・ナジミ氏はイランのミサイル計画の専門家だ。同氏によると、乗員たちが「窒息するような心理的圧力」の下に置かれているという。「イラン体制の戦争努力のすべてが彼らにかかっている」。
弾道ミサイルは発射時に巨大な熱と赤外線の痕跡を残す。そのため発射の瞬間、衛星やドローンに位置が捕捉される可能性が高い。発射後、乗員はただちに撤収し、約20メートルにもなる巨大な発射装置を隠さなければならない。
アナリストによれば、乗員は今や道路脇や野原でランチャーを設置せざるを得なくなっており、油圧アームで車体を安定させ、追加計算を行うだけで一回の発射に30分以上を要する場合もあるという。
状況をさらに難しくしているのがGPS妨害だ。現在イラン全域で広範囲にわたる電波妨害が行われており、発射装置の乗員は衛星測位に頼れない状況に置かれている。
ドイツ連邦軍大学でミサイル工学を教える航空宇宙エンジニアのマルクス・シラー氏はこう指摘する。
「正確な地図が不可欠になる。最悪の場合、星を観測して座標を割り出すか、大航海時代の船乗りが使った六分儀(天体の角度を測る航法器具)を頼りにするしかない」
デジタル技術が当たり前の現代戦において、乗員たちは大航海時代さながらの原始的な航法に追い込まれつつある。
地下に築かれた「ミサイル都市」
イランはこうした脅威に対抗するため、山岳地帯の地下に巨大なミサイル基地を建設してきた。イスラエルのミサイル防衛計画の元責任者ウジ・ルービン氏はこう説明する。
「基地の内部は非常に安全だ。数十フィート(約10〜30メートル)もの硬い岩盤の下にある」
しかし問題は、ミサイルを発射するには発射装置がトンネルの外へ出なければならないことだ。出口は限られているため、敵はそこを重点的に監視できる。
CEPAによると、戦前の情報収集によるTEL貯蔵基地や分散ルートに関する事前把握が、TEL捕捉作戦の成功を大きく後押ししていると見られている。
イランはこれに対応しようと、一部のランチャーを農村地帯に分散させ、納屋や茂みの中、橋の下などに隠す試みをしている。
数字が示す戦況の変化
米軍とイスラエル軍による発射装置狙い撃ちの効果は、数字に明確に表れている。
イスラエル軍参謀総長エヤル・ザミル中将は、一連の攻撃によってイランの防空システムの80%、ミサイル発射装置の60%を破壊したと述べた。ただし「脅威はまだ排除されていない」と慎重な見方も示した。
イスラエル国防軍の推計によれば、イランには現在100~200基の弾道ミサイル発射装置が残存しており、軍はこれを「可能な限り排除する」として追跡を続けている。
イランは今回の戦争でイスラエルだけでなく、米軍基地を擁する湾岸諸国にも大量のミサイルとドローンを撃ち込んでいる。その標的の一つとなったアラブ首長国連邦(UAE)国防省が公表したデータは、イランの攻撃ペースの急激な低下を数字で示している。戦闘初日に137件だった弾道ミサイルの迎撃件数は、その後の48時間でわずか21件にまで激減した。
「開戦からわずか6日間で、イランによる報復弾道ミサイル攻撃は90%減少した」とホワイトハウス報道官は述べた。
「発射装置が減るほど、一基への包囲は厚くなる」
ベルリンの公共政策大学院ヘルティ・スクールのマウロ・ジッリ教授は、この消耗戦の構造をこう説明する。
「この攻防をやり抜くのは極めて難しい。行動できる時間の窓は非常に狭い。そして戦争が長引くほど状況は悪化する。残存する発射装置が一基減るごとに、その一基を追う敵の戦力はより集中し、より厚くなっていくからだ」
実はこうした「発射装置狩り(TELハンティング)」は、過去にも試みられてきた。1991年の湾岸戦争(砂漠の嵐作戦)や2003年のイラク戦争でも同様の作戦が展開されたが、いずれも成果は限定的だった。当時は発射装置の動きをリアルタイムで追い続ける手段が乏しかったからだ。
今回が異なるのは、「目」の質と量である。CEPAによれば、米・イスラエルの高高度ドローンがほぼ妨害を受けることなくイラン上空に展開し、昼夜を問わない持続的な監視を実現している。発射装置がトンネルから姿を現した瞬間を捉え、座標を即座に攻撃部隊へ送る――この「常時監視」の体制こそが、過去の作戦との決定的な違いとなっている。
ミサイル戦争の主役は「発見能力」
こうした状況は、現代戦争の本質が変化していることを示している。
かつては戦車や戦闘機が戦場の主役だった。しかし現在は、衛星・ドローン・センサー・データ解析といった「探知能力」が決定的な役割を果たしている。誰がより早く敵の装備を見つけられるか。誰がより正確に位置を特定できるか。現代のミサイル戦争は、その競争になっている。
弾道ミサイルは依然として強力な兵器だ。しかしそれを運用する発射装置は限られた数しか存在しない。現代の戦場で本当に狙われているのはミサイルではない。ミサイルを撃つための「発射装置」こそが、最大の標的になった。
編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2026年3月18日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。







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